第18話 言葉にする事の大切さ
歳三は瑠璃の前に立つと、部屋を一通り見渡した
歳三のその姿が瑠璃の記憶を蘇らせる
拳を固く握り、瞬きもせずに真っ直ぐとその先を見据える
あの頃に戻ったような感覚に陥る
悪魔を追いかけ戦った日々を
「土方さん・・・」
私は無意識にそう呼んでいた
「・・・」
無言のまま歳三は瑠璃に歩み寄る
瑠璃は歳三が向かってくるのを、ただ見上げるばかり
「あっ、あの」
「何が土方さんだ、ばか野郎!お前も土方だろうがっ」
「え、あっ、すみませんっ」
「悪かった」
「え?」
「・・・俺が悪かった」
あんなに深く入っていた皺は消え
代わりにいつも凛々しい眉が可哀想なくらい下がっていた
「すみませんでした。私も分かった時点で連絡すれば、あんなに心配かけることなかったのに」
「いや、気を遣わせた俺が悪いんだ。お前は間違ってねえよ」
歳三の大きな手が瑠璃の頭をポン、ポンと撫でる
安堵から瑠璃はポロポロと涙を流した
「兄貴、泣かしてんじゃねえよ」
「すまん、俺はいつも泣かせてばかりだな」
「違っ、悲しくて泣いてない、から・・・」
腕にズキンと痛みが走った
でも、そんな痛みよりずっと心が痛かった
離れたくなかった、ずっと怯えていた
自分の居場所が無くなることが怖くて堪らなかった
「私のこと嫌いにならないで下さいっ!」
以前の記憶をぽっかりと無くしずっと孤独と闘っていた
目の前に家族はいる、でも自分を曝け出すことが怖かった
それは皆が知っている自分では無いかもしれない
違っていたら嫌われるかもしれない
「おまえの事を嫌いになるわけねえだろ」
「そうだぞ、じゃなきゃこんな朝っぱらから血相変えて来ないだろ。しかも弟の所に居るんだぜ?信用ねえよな」
「煩え」
「ありがとう」
こうして、左之兄のお陰で歳三兄さんと仲直りができた
この場に居ない総司が聞いたら、きっと
(なんで僕を呼んでくれないのさっ!酷いよね)
そんな声が聞こえてきそうだ
そして、今、朝ごはんを三人で食べている
無言で
なぜならば、もの凄く眠いからだ
歳三兄さんは夕べは一睡もしていなかったらしい
左之兄は寝るのが遅かったのと、朝早く起されたから
私は慣れない場所で寝たから
「眠い」
「言うんじゃねえ、余計に眠くなる」
「あの、少し寝たらいいだけなんじゃ」
「いや、大丈夫だ」
なんか我慢大会のようになっている
「あの!私は眠くて死にそうなので寝ますっ」
私はリビングのソファーにダイブした
「おい、抜け駆けは許さねえぞ」
「待て、ここは俺の部屋だぞ」
今度は競うようにして、リビングで寝場所を取り合う
ちょっと、狭いんですけど
結局、三人とも眠気に勝てずリビングで雑魚寝した
なんで!?ソファーに寝てたはずなのに
いつの間にか引き摺り下ろされ、硬い床で寝ていた
「痛ったあ」
「んー、ん?どうした」
「痛い方の腕、下にして寝てた」
「あ?ばか、何やってるんだ。見せてみろ」
忘れてたなんてお前らしいなと言いながら
湿布を貼り替えてくれた
私らしさを気にして、兄たちの顔色を見ながらいた自分
でも、どんな私も私らしいと言ってくれる兄たちがいる
シスコンだと言っていたけど
私の方がよっぽどブラコンだ
心の中でウジウジと反省する暇があったら
きちんと言葉にしよう
時には派手に喧嘩してもいい
家族なんだから




