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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第一章 一さんに会いたい・・・
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第16話 すれ違う気持ち

無言の時間が痛々しい、部屋の鍵を開ける音が妙に響く

相変わらず歳三兄さんは無言のままだ


「シャワー浴びて来い、濡れただろ」

「はい」


部屋に着替えを取りにって、台所に氷の袋を置いた

やっぱり私に怒っている 一度も目を見てくれないから


「はぁ・・・」



瑠璃をシャワーに行かせたのは、俺が上手く向き合えないからだ

俺は自分自身に苛立っていた いつも仕事を第一に考えてしまう

そのせいで瑠璃を台風の中に放り出してしまった

左之助が外回りなことも、総司が日帰り出張だったことも

よく考えたら分かっていたはずだ

瑠璃は甘えることが下手だ

皆の仕事を私情で邪魔をしてはいけないからと

一人で駅に向かったに違いない


「俺は周りの事が全然見えてねえじゃねえかっ」


シャワーが終わった瑠璃と入れ替わるように歳三も浴室へ入った

歳三の背中が話しかけるなと言っている

瑠璃は大人しく自室に戻り、静かにベッドに入った


「どうしよう、すごく怒ってる・・・」


兄さんたちから連絡が入った時に

もう少し考えて行動すれば、こんな手間は掛けずにすんだはず

総司が帰れないって分かった時点で歳三兄さんに連絡入れておけば


先程の歳三の自分を拒むような背中を思い出すと

不安と孤独の波が一気に押し寄せ、それに呑み来れていく気がした

行き場のない思いが涙となって溢れてくる


「だめ、泣かない。泣いたらもっと困らせる」


込み上げる嗚咽を堪え、毛布の中に潜った

涙は抑えられないけれど、声だけは堪えなければと必死だった

雨と風の音が瑠璃の声を消していた



シャワーを浴びて水を飲むためキッチンに立ち寄った歳三は

ふと水が入ったビニール袋に目が留まった


「なんだ、これは」


持ち上げると小さくなった氷がひとつ、あとは溶けて水となっていた

身に覚えがない、おそらく瑠璃が置いたのだろう


「あいつ、何でこんなもん・・・」


瑠璃はもう寝てしまったようだ

歳三は部屋の電気を全て消すと、自分も自室へ入った



翌朝は晴れていた、台風一過と言うけれど

昨日の嵐は嘘だったのかと疑いたくなるくらい太陽がギラギラしていた

右腕は昨日より腫れていて指が上手く動かなかった


充電が終わったスマホを見ると歳三兄さんからLINEが


(台風の影響が気になる、先に会社に行く)


と、なんともそっけないメッセージが残されていた


「声かけてくれたらいいのに・・・」


会社に行く支度をしたものの、腕が痛くて仕方がなかった

整形外科かな、そう考えていると電話が鳴った


「左之兄?どうしたの」

「兄貴、もう居ないんだろ?」

「うん、起きたらもう会社に行った後だった」

「降りて来いよ、たまには俺の車で会社に行こうぜ」


左之兄に会社じゃなく病院で降ろしてもらおう

そう考えながら玄関を出た


腕の打撲の事を話すと、すぐに病院に連れて行ってくれた

終わるまで居そうな勢いだったのを何とか説得した

左之兄の目の前で佐々木部長に午後から出社を伝えて見せた


「ったく、瑠璃は強情だな。甘えていいんだぜ」

「もう社会人ですよ?病院も会社も一人で行けます」

「分かった、分かった。その代り、どうだったか連絡しろよ」

「はい!」


診察結果は打撲と捻挫と言われた 

どこかの筋も痛めていたらしい

痛み止めの薬と湿布を大量に貰った

今日は左手で過ごさなければならないなぁ


会社に着くと、えりが心配して出迎えてくれた

左手で不器用に仕事をする私を見て笑っている


「ちょっと、笑わないでよ〜。何なら手伝って下さい!」

「仕方がないなぁ」


えりも眞子も文句を言いながらも手伝ってくれた

金曜日だけど、他社も暇なのか台風のせいでバタバタなのか

業務はわりと落ち着いていた


さっき、左之兄には診察結果を知らせた

歳三兄さんは・・・手が止まった

きっと忙しい、こんな事で心配かけても仕方がない

だって、大した怪我じゃないから


そして、定時で退社した


あ、夕飯作れないや・・・

LINEで歳三兄さんに連絡を入れようとしたら

既にメッセージが来ていた


(すまん、遅くなるから飯はいらない)


そっか・・・ラッキーだけど、寂しい


(分かりました。頑張って下さい)と、返信した


会社のエントランスを出ようとしたら左之兄と会った

どうせ兄貴は帰りが遅いだろうし、作れねえだろって

夕飯に誘ってくれた しかも左之兄のマンションに


「初めて来たけど、綺麗にしてますね」

「酷えな、俺だって家事できるんだぜ」


それは本当で慣れた手つきで夕飯が出された


「おお!凄いですね」

「なあ、瑠璃。兄貴と喧嘩でもしたのか?」

「・・・」


思わず、開いた口を閉ざしてしまった

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