体調不良の理由とは
いつものように起き、いつものように出社し、いつものように働く。
姓は斎藤に変わったものの、日々の生活は変わらない。
そんなある日、まだ日も昇らないうちに目が覚めた。
胃の調子がおかしかったからだ。
すっかり治癒能力を失くしてしまった私は、しぶしぶ薬箱を漁る。
「っう。痛い?じゃないな。むかむかまでは行かないけど」
胃を擦りながらリビングの棚に頭を突っ込んでいた。
「瑠璃さん、何か探しているのですか?」
「山崎さん、おはようございます。胃の調子がいまいちで」
そう言うと、山崎さんが胃腹部を軽く触診する。
「痛むところはありますか?」
「痛くはないです。ただなんか変って感じで」
「食欲はありそうですか?」
「うーん、分かりません」
首を傾げる山崎さんにつられて私も傾げてしまった。
取り敢えず、胃の消化を助ける薬で様子を見ることにした。
後で一さんに温めてもらおう。
こんな状況が10日程続いた。
「瑠璃、温めてやろう」
「お願いします」
就寝前に一さんから気を送ってもらい温めてもらっている。
こうすると少し紛れる気がしたからだ。
なんだろう、変な病気じゃなければいいのだけれど。
そして二週間が過ぎた頃、さすがにこれは不味いのではと思い、山崎さんに診察を依頼した。
そこでとある可能性を指摘され、それの検査を勧められた。
「山崎さん、そんなに真っ赤な顔で言われると困るんですけど」
「別にっ、僕は・・・」
「あのっ、もしそうだった場合はどうしたらいいですか?」
「それはっ。専門医をすぐに受診してください」
もう一度山崎さんを見たら、今度は耳まで赤くしていた。
こんなんでよく医者が勤まるものだ。
「では、行ってきます」
「はい・・・」
僕は迷っていた、この瞬間に自分が立ち会ってもよいのかと。
やはり斎藤さんを呼んだ方が良いのでは。
「瑠璃さん!」
「っ、はい」
「やはり斎藤さんを呼んだ方が」
「だって仕事中だし、もし違ったら申し訳ないし・・・」
「しかし、もしそうだったら恨まれるかもしれません」
「・・・じゃぁ、呼んでもらえますか?私が検査している間に」
「そうさせて頂きます」
瑠璃が扉の向こうに消えたのを確かめ、山崎は斎藤に電話した。
「はい、斎藤です」
「さ、斎藤さん!山崎です。すぐに降りて来られますか?」
「どうした、何をそんなに焦っている」
「る、瑠璃さんなんですが・・・」
斎藤は最後まで話を聞かずに電話を切った。
瑠璃と言う言葉を聞いたら、居てもたっても居られなかったのだ。
最近ずっと調子が優れず、斎藤の朱の気でも回復する兆しが見られなかったからだ。
10分と経たないうちに、斎藤は医療部院長室にやってきた。
時間的にはそろそろ瑠璃が検査を終えて出て来る頃だ。
「山崎!」
「斎藤さん、此方へ。そろそろ瑠璃さんが戻る頃です」
「・・・」
二人の間には沈黙が流れる・・・
カチャッと扉が開いた。
その隙間から、恐る恐る顔だけを覗かせる瑠璃が見えた。
瑠璃は今にも零れ落ちそうな涙を目にいっぱいに溜めている。
「瑠璃っ!」
斎藤が瑠璃の側に行き、部屋に入るよう促す。
瑠璃の背に手を添え、椅子に座らせるとその隣に自分も座った。
「どうした。何があった、言ってみろ」
「一さん・・・ううっ」
「大丈夫だ、瑠璃の体は俺が絶対に治してみせる」
「あのっ、こ、これ」
瑠璃は泣きながら斎藤に検査器具を差し出した。
白い体温計のような其れには中央に小さな丸い窓のような物がある。
そこには赤色に近い桃色の線がくっきりと浮かび上がっていた。
瑠璃はいったい何の病に侵されているのだろうか。
瑠璃の肩を引き寄せ抱きしめる、そしてそれを山崎に見せた。
その瞬間、山崎は見る見る顔を高揚させると、耳を疑うような言葉を発した。
「はっ!斎藤さん!やりましたね!おめでとうございます!」
そう言って、山崎まで泣き出してしまった。
「は?」
俺には何がやったで、おめでとうなのか全く理解出来なかった。
瑠璃が泣いていると言うのに何を血迷ったのか。
「一さん、出来ていたんです」
「出来ていた?・・・何がだ」
先程まで泣いてた瑠璃は今度は笑みを俺に向けて、こう言った。
「赤ちゃんが、一さんと私の赤ちゃんが出来ていたみたいです」
そう言い終わると耳まで真っ赤に染め、俺の胸に隠れるように抱きついてきた。
「な、何?赤ちゃん・・・」
暫くはその単語が頭の中をぐるぐると回り、やっとその意味を知った。
俺が父親になったのか!本当か!?
「瑠璃、その。それは、俺たちの子どもが此の腹の中に居ると」
「はい!」
瑠璃の力強い返事に、胸の奥がツーンとなった。
いつかは欲しいと思っていた、それがこんなに早く叶ったのだ。
ぎゅっと瑠璃を抱きしめ直す。
「瑠璃、よくやった!ありがとう」
後日、産婦人科へ行き、正常に妊娠している事を確認した。
兄たちに話したら、自分たちの事のように喜んでいた。
総司「どっちだろうね」
左之「女がいいよな」
歳三「男がいいだろ」
生まれて来る日がとても楽しみになりました。




