第11話 歓迎会
初出社から10日程がたち、会社の環境にだいぶ慣れた
この間まではとんだ軽い職場だと思ったのですが
始業時間になるとピタリと私語は止み真面目に業務をこなしている
メリハリのある素晴らしい環境だなぁと感心していた
昼休みの社員食堂にて
「瑠璃さん、慣れた?」
「はい、だいぶ。でも、まだ与えられた事しか出来てないですけど」
「まだ10日でしょ。出来てる方だよ」
「ありがとう」
「そうそう、歓迎会をしようと思ってるんだけど金曜日大丈夫かな。この部署で他にも新人がいるみたいなんだよね」
「たぶん大丈夫です」
「じゃあ、詳細はまた連絡するね」
社員数が多すぎて、同じ部署でも同僚の顔と名前が一致しない
親交を深めるいいチャンスかもしれない
そして今日もなんとか一日が終わった
変わらず食事は二人分作っているけど
無理しなくていいと言われているので
終業後にご飯あるかないかの連絡をしている
ついでに歓迎会の事も連絡しておいた
スーパーに寄ってマンションのエントランスに入ると人の影が
「あれ?今日は早いですね」
「ああ、直帰した」
直帰?どんなに遅くなっても
必ず会社に立ち寄って退社する人なのに
「で、歓迎会行くのか?」
「はい、まだ全然顔を覚えてないのでいい機会かなって」
「そうか。詳細が決まったら教えてくれ」
「え?ああ、帰りが遅くなるかもしれないですしね」
歳三兄さんは何か考えてるような風で買い物袋を受け取る
つい見てしまう 眉間を・・・今は大丈夫そうだ
そして、金曜日 歓迎会当日
お店の名前と開始時間が分かったのでLINEした
ご飯はありませんので食べてきてくださいねっと
全部で20人程が集まって歓迎会を開いてくれた
なんとか自分に関わりそうな人とも話ができてとても充実している
「ねえ瑠璃さん、年齢近いから瑠璃って呼んでいい?」
「私の事はえりでいいから。あとこっちの歴女は眞子って読んであげて」
「いいの?年下なのに」
二人は本当に良くしてくれる
私の二つ年上だけど、とても捌けていて出来る人たちだ
「いいな瑠璃は苗字が土方で」
「え!なんで?」
「同じ苗字の土方さんや土方くん凄くかっこいいでしょ。羨ましいぃ」
「土方さんと土方くんって?」
「だから土方さんが左之助さんの方で、土方くんが総司さんって意味」
「ややこしいね。名前で呼んだらいいのに」
「無理っ、恐れ多くて」
「えりはね面食いなんだよ。もう二人から仕事来た日には・・・ね?」
「はぁ、想像しただけでも倒れそう」
「た、大変だね」
「惜しいよねぇ、苗字が土方じゃなかったら正に新選組組長なんだけどなぁ」
「始まったよ、歴女はすぐこれなんだから。眞子はさ副社長の事を副長とか言ってんの」
「は、ははは。お、面白いね」
とにかく兄たちはイケメンらしい
それは否定しないけれど
でも彼らが兄弟って本当に知らないんだ
顔似てないからね、どうしよう家族の事とか聞かれたら
「瑠璃は兄弟いるの?」
「!?」
「居ないの?」
「居るよっ、えっと・・・兄が3人」
「3人!それは災難だね。私も兄がいるんだけど最悪だよね~だって・・・」
よかった、あまり掘り下げられると困る
うんうんと、えりの話をひたすら聞いたのだ
ほとんど自分の話をしていないけど、まあいっか
「じゃあ私はここで、駅あっちだから」
「気をつけてねー。じゃあ、月曜日~」
皆と別れて駅に向かった
終電まではまだ余裕があるけど
心配性の兄から帰れコールがきそうだ
駅前の信号を渡りロータリーの前を通った
ピッ、ピッと車のクラクションが鳴る
送迎の車かぁ、なんて考えながら通り過ぎた
♫~、~♪・・・♫~、~
ん?携帯が鳴ってる 噂をすれば歳三兄さんだ
「もしもし?」
「終わったのか」
「はい、今から電車に乗るので30分くらいで帰れると思います」
「後ろ、見てみろ」
「え?・・・あっ!」
歳三兄さんがロータリーに車を止めて
助手席の窓から顔を出していた
えー、すごい偶然!
急いで車に乗り込むと、自宅へ向かって車は走り出した
「ねえ、眞子。さっきの瑠璃じゃなかった?」
「え?ごめん、見てなかった」
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「もしかして、待っていたわけじゃないですよね」
「・・・いや、帰ろうと時計見たら終わってる頃じゃねえかと思ってな」
「そうですか、なんかラッキー」
瑠璃はご機嫌だった
きっと新しい仲間たちと充実した時間を過ごしたのだろう
まさか、駅のロータリーをぐるぐる回りながら待っていた
なんて知ったら、嫌われちまうか?
私は知らなかった、歳三兄さんがかなりのシスコン
と言う事よりも、月曜日二人の尋問攻撃が待っていようとは




