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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第二章 もう一度
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第44話 天に帰る時

「ぬあぁぁ!!」


榊の体から黒い影が分離した。

宿る体を失ったその黒い影は制御を失ったサターンだ。


「それがサターンです!」


瑠璃の叫び声に我を取り戻した歳三たちは、黒い影を斬るべく動く。

総司と歳三が正面から交差するように袈裟懸けに胸を斬る。

斎藤が斜め下から居合で腰を斬ると最後に左之助が槍で心臓を貫いた。

それはほぼ同時に成した所業だ。

サターンの体内から赤黒い気が刀傷に沿って噴き出し飛び散った。

虫が散るように宙に舞い、そして跡形もなくサターンは灰となり大地に溶け込むように消えた。


安堵したのもつかの間で、今度は瑠璃と榊のもとで異変が起きた。


大地から吹き上げるように黄金の火柱が雲を突き抜ける。

それは瑠璃の幻獣である黄龍だ。大きく口を開け、髭をなびかせ天に向けて突き上がる。

世界が金色に染まったようにさえ思えた瞬間だった。

パンッ!! 

何かが弾けた音がすると、黄龍はその姿を(そら)に散らした。


金色の粒が落ちてくる、それは雨のように量を増しサラサラと大地に降り注いだ。


「これは何?」


総司が掌を向けると金の粒が弾けて落ちる。


「瑠璃は!」


斎藤の声に誰もが瑠璃の方へ視線を向けた。

眩しすぎて直視できないその場所を目を細め確かめる。

光は徐々に弱まり、金色の粒もパラ、パラと数を減らし地面が浮かび上がった。


誰もが目を見張った。

其処には折り重なるように瑠璃と榊が倒れていたからだ。


「くっ、うぅ」


体中が痛む、気がづくと俺の上に土方瑠璃が倒れていた。

痛む腕を上げ彼女の鼻に指をやる・・・生きて、いる。

俺は心底安堵した。

何故か心は穏やかで憂いなど微塵も見当たらない爽快な気分だった。

彼女を斎藤と言う男のもとに返してやらねば、そう思い、残った力を振り絞る。


榊は瑠璃を起こし脇下と膝下に腕を添える、ゆっくりと力を込めるが痛みで上がらない。


「はぅっ!ぐっ」


榊は諦め、顔を土方たちに向けた。

もう魔力は残っていないようだ。

感覚だけを呼び起し彼らの脳に語りかけた。


(動ける者がいるならば、早く彼女をっ。うっ・・)


それに反応したのは斎藤だった。

刀をその場に置き、二人のもとへ駆け出す。

斎藤を追うように他の兄弟たちも急ぐ。


「瑠璃!」

「俺にはもう能力ちからは残っていない、彼女を助ける術を持たない。しかし、お前なら可能だろう?」


榊は委ねるように瑠璃を斎藤に差し出した。


「榊・・・」


榊は力なく笑うとふらりと立ち上がり斎藤に背を向けた。


「俺の体からは魔物は消えた、(ようや)くただの人間だ。彼女は全ての能力を俺に注ぎこの莫迦(ばか)で哀れな男を一人の人間に変えた。俺がどんなに神に願っても叶わなかった事だ」


そして榊はゆっくりと振り向いた。

その両の瞳にはたくさんの涙を溜めて、瞬きをするのも忘れ斎藤と瑠璃を見つめた。


「彼女が目覚めたら伝えて欲しい。ありがとう、と」

「承知した」


榊は顔を土方たちに向け直すと、ゆっくりと深く頭を下げた。

言葉こそ発しなかったが榊のその姿は、謝罪を表すのには十分なもので男たちの胸を打ったことは言うまでもない。

榊は静かに踵を返すと、日の落ちた薄暗い園内から去った。


山崎がすぐに瑠璃の腕を取り脈を診る。

皆が息を呑み見守る中、山崎は「大丈夫だ」と頷いてみせた。

するとそれは安堵のため息に変わった。



「ったく、心配させやがって」

「肝が冷えたぜ」

「やっぱり瑠璃にしか出来ない事だったんだね」

「我々では榊ごと消しかねませんでした」

「瑠璃さんは本当に凄い人ですね」

「・・・」


斎藤はただ黙って瑠璃の埃で汚れた頬を撫でていた。


ヒューン…突然音がした


振り返ると先程まで使っていた刀が光を放ち、天に向け弧を描きながら飛び立って行った。

流星の如く、瞬く星の如く夜空に消えた。


「僕たちの刀が・・・天に」

「本当にこれで刀の時代が(しま)いになったって事だろ」

「なっ、見ろ!」


左之助の驚きの声に視線を向けると、四神獣たちまでも淡い光を放ち始めた。


青龍(俺たちの仕事は終わった)

玄武(もう案ずる事はないだろう)

白虎(瑠璃のこと、頼んだからね)

朱雀(平和に暮らせ、我々は黄龍のもとへ行く)


蒼、濃紺、白、朱の光がそれぞれの幻獣を包み込むと、彼らもまた天に帰って行った。


「皆、在るべき場所へ帰りましたね。瑠璃殿も問題ないでしょう」

「乾、お前も帰るのか?」

「左之助殿。僅かでも力になる事が出来たこと幸せに思います。私にはまだ神田殿と百合殿を支えなければなりませんので、此処で」

「そうか、もう会えないんだな」

「もう会えない事が望ましいのです」


深々と一礼した乾は、静かに闇に消えて行った。

それを見送った山崎がこう言った。


「僕の使命もこれで、終わり、ですね・・・」


俯きながらその答えを待つ山崎に、土方が口を開く。


「山崎、お前はバカかっ!」

「ひっ!!」

「お前は瑠璃に仕えているんじゃなかったかのか!まだ目を開けてねえ。それに、こいつがババァになって死ぬまで面倒見やがれ!」

「ひ、土方さん!し、しかし、僕が見なくても斎藤さんがっ」


すると左之助が割って入る。


「だから、そのうち子どもが出来るだろ?そしたら誰がその赤子を取り上げるんだよ」

「は!?」

「山崎くん、早く産婦人科医の資格取らないと間に合わなくなっちゃうよ?」

「あ、え?」

「おい、見ろ・・・」


あたふたする山崎の向こうで、怒りに打ち震える男が一人。

もう、言わなくても分かるだろう。


「あんた達はっ!黙って聞いていれば、赤子だの産婦人科医の資格だのと・・・くっ、その前にすべき事があるだろうっ!!」


「うおっ!」


斎藤が鬼の形相で怒っている。

さすがの土方もこれには勝てないだろう。


「斎藤、そんなに怒るなって。ちと言いすぎだだけだろ。悪いっ」


左之助の言葉と同時に全員が頭を下げた。

納得のいっていない斎藤だったが、早く瑠璃を連れて帰りたかった。

ゆっくりと休ませてやりたかったのだ。


「帰って休もうぜ、斎藤も怪我してるじゃねえか。瑠璃は俺が背負うから、安心しろ」

「ああ」


左之助が瑠璃を背負い、両脇を挟むように斎藤と山崎が歩く。

その後ろ姿を見た歳三と総司は、顔を見合わせ肩をすくめた。


「何だかんだ言って、瑠璃には誰も敵ないって事ですよね」

「・・・だな」


いつもの我が家へ向けて歩いて帰る。

見上げれば、この都会には似つかない星空が一層強く光を放ち彼らの行く道を照らしていた。


間もなく完結いたします。

今しばらくお付き合いください。

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