第39話 瑠璃が変な理由
最近、瑠璃の様子がおかしい。
ため息を吐いたり、どこか遠くを見ては眉間に皺を寄せる。
夏場の疲れが出たのだろうか?否、食欲はあるようだ。
仕事は変わらずこなしている。
そして、以前より甘えるようになった気がする。
俺としてはこの上なく喜ばしい事ではあるが・・・
「一さん、入ってもいいですか?」
「聞かずとも勝手に入っていいのだぞ」
「でも…」
親しき中にも礼儀ありなのだと瑠璃は聞かない。
そして、机に向かう俺に負ぶさるように抱きついて来る。
これがこの頃の瑠璃の日課だ。
本を閉じ、瑠璃と向き合うと恥ずかしそうに目を伏せる。
「一さんにくっ付いていたら安心するんです」
「そうか」
こうしてそのまま朝まで同じベッドで眠る事もあった。
瑠璃は何か悩んでいるのだろうか。
「ねえ、一くん。瑠璃なんか変だよね。ため息なんか吐いちゃってさ、まるで恋をしてるみたいに」
「恋?」
「一くん、慎重な上に奥手だから違う誰かに惹かれちゃってたりしないよね?」
「なっ、なんで俺に聞く」
「だって瑠璃に話しかけてもうわの空だから」
総司は瑠璃が俺ではない誰かを想っているのではと疑っているようだが、そんなはずはないだろう。
仮にそうだとしたら毎晩俺の部屋には来ないだろう。
「なあ斎藤」
「なんだ」
「瑠璃の事、しっかり繋いどけよ?」
「どういう意味だ」
「ぬるま湯に浸かってたら、熱いか冷たいかを求めたくなるだろ」
左之はいったい俺に何が言いたいのか。
「斎藤さん」
「山崎、どうした」
「その余計な心配かもしれないのですが、瑠璃さんが…」
「っ、分かっている」
「はい」
山崎までも。
そして、自室に戻ろうとした時だった。
「斎藤」
「土方さん、どうかされましたか」
「いや、その瑠璃の事なんだが。あいつ最近おかしいだろ」
「・・・はあ」
土方さんは俺に顔を寄せろと言うように、指で顔を招く。
何か大事な話だろうかと気を引き締めた。
「抱いてやれ」
「・・・は?」
「だから、刺激が足りねんだろう。俺が許す」
「!?」
一瞬何を言っているのか、全く分からなかった。
これまでの皆の言葉を思い巡らせると、どうもそう言うことを俺に言ってきているのだと気づいた。
「土方さん!!」
真っ赤になっているだろう顔で睨んでも効き目はない。
たが、そうせずにはいられなかった。
この者たちは・・・くっ!
土方さんは俺の背をバシッと叩きニヤリと笑って行ってしまった。
たぶんそう言う事ではない。
瑠璃はそんな事で悩んだりおかしくなったりしないだろう。
「一さん?」
振り返ると瑠璃が首を傾げて立っていた。
俺は気が利かない上に不器用だ。
「瑠璃。その、俺に何かして欲しい事があるのではないか?」
「はい?」
「っ!!!!!!」
俺は何を言っている。
女の口から言わせようなどと、違う、そうではないっ。
「一さん、もしかして」
「な、なんだ」
「気づいていたんですか」
「!?」
そうなのか!瑠璃は俺に・・・求めていたのか?
瑠璃の手を取り自室に向かった。
「瑠璃の求めに極力応える、何か悩んでいるのか?」
「えっと、実は・・・」
瑠璃の話はどうも恋だの愛だのという話ではないようだ。
ん?榊、榊とはサターンの事ではないのか!?
・・・っ、なっ、なっ!!
自分の思い違いと予想外の話に頭が心が追いつかない。
「サターンは榊さんは本当に悪魔なんでしょうか」
「・・・」
「一さん?」
「ん!あ、すまない。まさかそういう話だとは思わなかった故、少し驚いている」
何が目的なのか、瑠璃が言うように人間に対して何かをしようと企んでいるわけではないと?
では、何故瑠璃が必要なのだ。これまでの榊とは違うと言っていたが。
俺はパソコンを開きサターンという文字を打ち込んだ。
少々不甲斐ないがネットの世界は侮れない。
「瑠璃、サターンはもともとルシファーという名だったようだ」
「ルシファー?」
「そのルシファーは・・・天使だ」
「天使ってあの天使ですか」
「ああ、神に仕えていたが謀反を起こし天から突き落とされたと書いてある。そして魔界でサターンとなったようだ」
もともと彼は悪魔ではなく天使だった?
何の謀反を起こしたんだろう、魔界に落とされるって・・・
「完全なる悪魔、ではないようだな」
「私の事を除けば、彼は私たち以上に社会貢献をしている気もするんです」
「俺は瑠璃を手に入れたい本当の理由が知りたい」
「一さんは私が欲しいですか?」
「・・・!?」
瑠璃は全く躊躇うことなく恥じることもなく、その言葉を投下してきた。
それはどういうつもりで言ったのだろうか。
「もしかしたら榊さんは悪い人ではないかもしれない。私の事を除けば、むしろ良い人なんじゃないかって思えて」
「榊の事が気になるのか」
「彼の事が気になるというより、彼の真の姿を知らないで敵だと決めるのは違う気がして」
「瑠璃は怖くないのか」
「怖いですよ。自分が奪われるかもしれないし、何より彼の持つ魔力は強いです。でも私の心と体は誰にもあげたくない。一さん以外にはあげたくないです」
「・・・」
瑠璃は俺の目を真っ直ぐ見てそう言った。
榊の別の顔を知り戸惑う気持ちと、それでも自分はそれには答えられないと。
そんな葛藤の中で俺への気持ちをどう表現したら良いのか分からなくなっていたのだろう。
「それで、瑠璃はどうしたいのだ」
気が付くとそんな言葉を投げかけていた。
ちょっと展開が鈍っている気がします。
もう少しスピードアップしなければっ!そう思いながら頭の中を整理しております。先は先は見えてきました。




