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Time Trip to Another World ~東雲~  作者: 蒼穹の使者
第二章 もう一度
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第36話 どうして?

翌日、朝早くに永倉さんがえりと眞子そして藤堂くんを連れてやって来た。

これから皆で海に行く。


「海っ、だぁー!」


藤堂くんが子どものように走り波の中へ飛び込んで行った。

彼には海がよく似合っていた。

その爽やかな笑顔はきっと誰も勝てないと思う。

兄たちの中では左之兄が一番こういう場面が似合っていた。

でもそれは藤堂くんのとは違う、大人の匂いがしていた。

左之兄が通り過ぎると必ず女性は振り向く。

見ているこっちがその視線に耐えられそうにない。

それくらい熱い視線だったから。


「瑠璃ってば、海なのに何でTシャツとショートパンツなのよ。こないだ買った水着、此処で見せなくていつ見せるの」

「別に見せるために買ったわけじゃないし」

「瑠璃、自分が気にするほど周りは気にしてないから大丈夫」


えりと眞子からそう言われ、しぶしぶTシャツを脱ぐ。

別に下着を見せるわけではないのだから、これは水着なんだと当たり前の事を何度も自分に言い聞かせながら。


「うん、やっぱりその色正解!瑠璃に合ってる」

「あ、ありがとう」


瑠璃が選んで買ったのは(半ばえりの勧め)ビキニタイプの水着で、

濃い蒼色に金色の控えめな装飾がサイドに施されたものだった。

道場で鍛えられた身体は程よく引き締まり、モデルとは違う健康的な身体だった。


「ショートパンツは脱がないの?」

「え、うん。ちょっと」

「そっか傷があるんだっけ?子どもの時の」


瑠璃はえりに右膝から上に子どもの時に怪我をして、痕が残っていると話していたからだ。


「うん、なかなか薄くならなくて」

「そっか。痕って日に当てない方がいいって聞くしね」


少し色気は欠けるけれど、そもそも色気を出しに来たわけではない。

これでいいんだ!


皆が沖に出るのを見ながら波打ち際でパシャパシャと水に浸る。


「うわぁぁ」


小さな波なのに、引くときは何倍もの力で足を引っ張っていく。

油断していた。これが本当の足元を掬われるってやつで、

見事にお尻からずっこけた。

そのまま沖にズズズーっと引き込まれる。


「ひやっ」


膝の高さ程度だったのにもう全身ずぶ濡れで、押しては返す波にいいようにもて遊ばれ上手く立ち上がることが出来ない・

もう嫌だぁぁ。

そう泣き言を言おうとした時、ぐいと強い力で引き起こされた。

あ、立ってる。


「大丈夫か、随分と楽しそうに波で遊そんでいたが」

「一さんっ。随分とって、ずっと見てたんですね」


むっとして睨むと、ぷっと一さんが笑った。


「すまん」

「笑わないでください」


こんな悪戯じみた事を言う一さんは初めてかもしれない。

それだけでも海に来て、波に遊ばれてよかったと思う!


お昼を取ろうと皆が上がってきたのを見計らって、男性陣が買い出しに行った。

その間、私たちはパラソルの下で足を伸ばして休憩していた。


「うぅ、助けっ。ぐふっ」


ん?今声がした。助けてって聞こえたような気がする。


「ねえ助けてって聞こえなかった?」

「えー。聞こえないよ?気のせいじゃない?」


二人には何も聞こえていないらしい。


「ぐふっ、はぁ。助けっ、てぇ。うぁ」


やっぱり聞こえる、何処?誰?

そうか普通の人には聞こえないくらい声が小さいんだ。

たぶん誰かが溺れている!そう直感した。


瑠璃は立ち上がり砂浜を進んだ。

大勢の海水浴客が思い思いに戯れている。

瑠璃は耳を澄まし、目を凝らす。

するとそんなに遠くない先で黒い何かが浮いたり沈んだり。


「人だ!」


そう確認した瞬間、瑠璃は駆け出していた。

波を飛び越え、腕で水をかき、足で泡を蹴るように泳いだ。

後ろでえりの声がする。

でも、振り返るほどの余裕は無かった。


「助けてえ」


小学生くらいの男の子が波に消えそうになっている。


「捕まって!」


咄嗟に少年の腕を掴んだ。

少年はパニックに陥っているのか、瑠璃を確認すると絡まるように捕まってきた。

しまった!そう思った時には遅かった。

二人で溺れ死ぬわけにはいかない。

ぐっと体に力を込めると、黄金色の光と共に黄龍が現れ少年を咥えた。


「行って」


黄龍に少年を託すとブクブクと自分は沈んで行った。

最悪だ、溺死なんて皆に顔向け出来ない。

そう思った時だった。


「貴女は莫迦ばかなのか。泳げもしないのに他人を助けようなどと…呆れる」


凍てつくほど冷たい言葉が浴びせられ、ぐいぐいと岸に向けて体が移動を始めた。

誰かが救助してくれているらしい。

眩しくてよく見えない。一瞬、雲の影に入りその姿を確認した。


「!?」


それは榊 聖だった。


「えっ!」

「呼吸をする事だけを考えていたほうが賢明だな」


あの冷気を放つサターンと呼ばれるその男に今助けられている。

いつも感じる冷たい気はどこにもない。

岸に辿り着くと、振り向くことなく榊は去って行った。


「え・・・」


その男の姿を見つけた子どもたちが、榊を取り囲む。笑顔で。

溺れていた少年は無事だった。


「聖兄ちゃん。あそぼー」

「その前に昼飯だろ」


まるで別人だった。


驚きでへたり込んたまま瑠璃は動く事が出来なかった。


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