第35話 別の顔
関西で貿易会社を経営する榊はサターンとは別の顔を持つ。
関東や東北地域にも支店を広げ、今では誠に並ぶ程の成長ぶりだ。
それは社会的な表向きな顔。実はこれとは別に違う顔を持っていた。
「榊さん、いつもありがとうございます。子どもたちも本当に楽しみにしていたので」
「いえ、私に出来ることはこれくらいです。気にしないでいただきたい」
ここは、光の里きぼう園。1歳から18歳までの児童が暮らす児童養護施設。
それと榊がどう関係しているのか、実はこの養護施設の支援者でもあった。
夏の思い出に海水浴がしたいという子供たちの為に、浮き輪や花火を寄付したのだ。
「聖兄ちゃんも一緒に行くでしょ?僕すごく楽しみ」
「そうか楽しみか。じゃあそれまで利口に過ごすんだな」
「はーい!」
冷酷な悪魔が何故。子どもたちを支援しているのか・・・
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サキュバとインキュバスはサターンの実の親ではない。サターンが堕天使となり天界から追放された時に二人の悪魔から拾われたのだ。その後、二人の悪魔と共に幕末の日本に飛んだ。
半神人である原田左之助(現:土方左之助)に葬られてからサターンはずっと闇の中にいた。
皆が思う神とは人間界の調和と平和を見守る者たちだと思っているだろう。しかし、実際は神だから正義と言う訳ではなかった。神の世界にも権力争いはある、騙し妬みは人間と同様またはそれ以上だった。
ルシファーは有能な天使であり、時にゼウスの命により戦いに出ることもあった。
ルシファーは誰よりも正義感が強く、戦士としても一流だった。この国の神は全宇宙をも制する力を持ちながら、権力を奪われることに怯え争う事から逃れられない。それは時に人間をも巻き込む。
正義とは何か、神とは何か。
「父なるゼウスよ、これは正義なのか!」
闇の中でまだ自分が天使だった頃の夢を見ていた。
「ルシファー、聞こえますか?」
「誰だ」
「天使にもなれず、悪魔にもなりきれない可哀そうなルシファー」
「何故俺がルシファーだと知っている」
「貴方には愛が必要です。その愛を探しにもう一度生まれ変わってみませんか?」
「愛?」
「私にはあなたの魔力を消すことは出来ません。しかし、陽の力を持つものと結ばれれば貴方は愛に満ち真の正義を貫くことができるでしょう。さあ、お行きなさい」
「おい!お前はいったい」
「私はアフロディーテ、全ての者に愛を・・・」
そして目覚めた時、榊 聖と言う人間名を授かった。
愛とは何か、それだけを考えたどり着いたのは児童養護施設の存在だった。彼らは複雑な環境下で生きていた。病気や事故で親を亡くした者、生まれてすぐに捨てられた者、親の愛に飢えた子どもたちだった。
彼らと関わることで、生きて行くうえで何が必要なのかを考えされられた。
金で何とでもなる世の中ですら得られないもの、それはまさに『愛』だった。
そんな時に半神人である彼らの存在を知った。
「この時代に彼らもいる」
京都出張で挨拶をした誠の社員である土方瑠璃に会った時、体に電流が走った。
自分にない陽の力が漲る者。あの時、自分の太刀で殺そうとしたあの女がそうだったとは。
彼女を自分のものにすれば、真の愛と正義を手に入れることが出来る。
この歪んだ神の世界と人間の世界をひとつにする為に、どうしても彼女が必要だと思った。
何度か接触を試みたが、彼女はいつも怯えていた。
全力で拒絶する彼女に苛立ちを覚え悪魔のような冷酷な言葉を投げかけてしまう。
自分に宿る能力は死ぬ前の悪魔のものだった。
(どうして伝わらない。俺はお前が欲しい、愛と正義の為に・・・)
俺は悪魔じゃない!
人類を征服したいわけじゃない!
ゼウスのような神にはなりたくない!
全ては愛の為に、真の正義の為に!
榊は悪魔と天使と人間の狭間で悩み苦しんでいたのだった。
本当は悪いやつじゃないかもしれない。彼にも彼なりの葛藤があるみたいなんですよね・・・。




