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訪れた悲劇

「ギャハハハハッ! 死ね、虫ケラども!」

 ロドネスはそう言って魔力を矢に変えてアーシェたちに向けて放った。しかし、アーシェは飛来してくる魔法の矢を、素早い剣捌きですべて払い落とした。

「簡単にはやられるもんですか」

 アーシェはすぐにロドネスに飛びかかる。

「ふふん、たたが人間ごときが調子に乗るな!」

 ロドネスは胴体から二本の腕を新たに出現させると、その腕でアーシェを薙ぎ払った。

「キャァァッ!」

 弾き飛ばされてフロアに叩きつけられるアーシェ。

「アーシェ!」

 ダリルたちの声が響く。辛そうだが、アーシェはすぐに立ち上がって剣を構える。

「グガアァァッ」

 邪悪な魔物が数匹襲いかかってくる。今度はノエルが魔法で対抗する。強力な防御魔法で魔物を近づかせないようにするが、これだと反撃できない。アーシェに期待するも、残念ながらアーシェも押され気味だった。大勢いる魔物相手だとかなり健闘するのだが、魔物と化したロドネスの強さは段違いで、強力な大技を繰り出しても勝てそうな感じがしない。

 

 しばらく戦うも防戦一方で、しかも次第に押されている。このままだと、アルマたち捕らえられていた人たちに死傷者が出かねない。

 アーシェもかなり消耗しているようで、堪らず防御魔法の中へ退避してきた。

「お、おい、アーシェ。大丈夫なのか?」

 見た目にもかなりボロボロになりつつあるアーシェを見て、ダリルが心配そうな顔をして言った。

「ま、まあ――ちょっと休憩」

 アーシェは無理して言った。実際にはちょっとどころでは足りないくらい消耗しており、かなり辛い状態だった。

「アーシェ、無理するな。僕の魔法なら今のところ奴らの攻撃は防げている」

「だけど、このままじゃやられっぱなしで、逃げることもできないわよ。……レダ様は許してくれないかしら」

「馬鹿を言うな。それは最後の手段だ。軽々しく言うべきじゃない」

 ふいにダリルが声をかけてきた。

「なあ、何を話してんだ――って、大丈夫なのかよ。かなりやばくないか」

「あ、ああ。なんでもない。こっちのことだ。……しかし今、この状態は厳しい。正直、この魔法もいつまで持つかわからない」

 ノエルは厳しい顔をしている。今はまだ耐えられても、この場を脱出できなければ、いつかは魔法が破られ魔物たちになすすべなく襲われることになるだろう。


 不安に駆られ、少しパニックになりそうな雰囲気が出てきた中、両手を合わせずっと祈りを捧げている者がいた。ダリルとアルマの祖父であるトマスだった。

 少し辛そうな顔をしつつも、アーシェが近づいて声をかけた。

「ねえ、トマスおじいちゃん。何してるの?」

「……祈っておる。アンシェラトス様にだ」

「アンシェラトスって……」

「神様は我々を見捨てたりはしない。このフォーラントでは、古くからレダ様が救いの神である。必ずやアンシェラトス様をご降臨なさって、この邪悪な者どもを退治してくれる」

「トマスおじいちゃん……」

 アーシェは、こんな状況においても、神への信仰にひたむきなトマスには、呆れを通り越してすごいとすら思った。

「じいちゃん、そんなことやってる場合か!」

 ダリルがその様を見て叫んだ。しかし、トマスは一切耳を貸す様子はない。


 そんなとき、男が腕から血を出して倒れた。捕らえられた人たちの一人で、ノエルの防御魔法の中にいた男である。

「だ、大丈夫か? ――うわぁぁ1」

 また別の男が魔物の爪によって切り付けられて呻き声をあげた。

「ど、どうなってんだ!」

 また別の誰かが叫ぶ。しかし答えは一目瞭然だった。防御魔法をわずかに突き破ってくる魔物が出てきたのである。

「ノエル!」

 アーシェはノエルを見た。そこには苦しそうに顔を歪めながら、必死に魔力を放出して防御魔法を維持している姿があった。かなり辛そうな顔であり、次第に限界が近づきつつあることが予想された。


 アーシェは意を決して、魔法の外に飛び出した。そしてノエルに向かって言った。

「もう耐えられない、止めたってやるから!」

「ア、アーシェ――待て!」

 ノエルの声も聞かずに剣を頭上に掲げた。そして剣に力を込めて叫ぶ。

「必殺! マジェスティックレゾリューション!」

 振り上げた剣から凄まじい閃光が走り、それが渦となって広がっていく。周囲の魔物たちはその閃光に焼き切られ、次々に倒れていった。その威力は壮絶で、もはや人間のなせる技とは思えないほどだった。

「な、なんだと! 貴様――何者だ!」

 その衝撃的な有様に、ロドネスは驚愕し叫んだ。


 ダリルは辛そうなノエル側に来て、アーシェのことを聞いた。

「なあ、あんたら本当に何者なんだ? ノエル、アンタもそうだが、さっきのアーシェ……どう考えても人間業じゃねえ。あんな怪物何匹もズタズタにするって……」

「この危機を脱したら話す。今は僕たちを信じてくれ」

「あ、ああ。それはいいんだけどよ……」

 ダリルには、この二人のことを悪人とは思っていない。しかし、ここまでのことができるとなると、人間ではない何かではないかと考えてしまう。

 ただ、この場を切り抜けるには、彼らの力が必要だ。どちらにしろ頼るしかない。


「お前みたいな悪党を成敗するためにやってきたのよ! 観念しなさい!」

「ふざけるな! たたが人間如き……人間如きにやられるほど弱くはないわっ!」

 ロドネスはさらに気を集中させるた。すると、体はどんどん大きくなり、五、六メートルはあろうかという巨大な怪獣と化した。

「オーブの力は無限大だ。貴様ごときが何をしようが、この俺を凌駕することなどありえんのだっ!」

 吠えるロドネス。

「ウソでしょ……」

 邪悪な力が益々強大化する。まさかここまでとは、アーシェもノエルもさすがに驚きを隠せなかった。


「ミーティアストライクッ!」

 アーシェの渾身の突撃技でロドネスを貫こうとした。しかし、ロドネスの邪気に包まれた体に剣が通らない。この一撃は、以前ゴーレムを破壊した時のより、はるかに強烈なはずだが、パワーアップしたロドネスはそれを跳ね除けた。

「フハハハハッ! 効かん! 効かんぞ! 下等生物の足掻きなど、この俺様には効かんのだ!」

「なんなのよ、あのバケモン……」

 アーシェも流石に厳しいと感じた。ここまで人間離れした力を発揮しても、それでも敵わないとは。


 ロドネスよりかなり後方で、戦いの様子を見ているウィスラー伯爵は、アーシェたちの力に何かを感じていた。以前に対面した際にはそこまで気にもしていなかったが、改めてその力を間近で感じると、これは看過できないものだった。

 ――奴ら何者だ? まさか――いや、あり得なくはない――。

 ウィスラーの直感は、アーシェたちに、とてつもなく危険な力を感じ、強烈な警報を発している。

 ――ロドネスめ、せっかくここまで欲望を膨らませたというのに、これは無駄になるかもしれん――。

 ウィスラーは悔しそうに口元を歪めた。



「ほらどうした、そろそろ誰か死んじまうぞ。アッハッハ!」

 ロドネスは笑いながら魔法の矢を放ち続ける。これだけの邪気を発するならば、もっと強烈な攻撃を加えることが可能なはずなのに、この程度にしているのは、おそらく遊んでいるからなのだろう。

 自分の力に歯が立たないと思って、必死に防御するアーシェとノエルをいたぶっているのだ。じわじわといたぶって苦しませようとする、嫌な性格である。


 必死に回避するアーシェ。流石に体力的な限界もあり、反撃に出られない。すべて斬り払い、死傷者は出ていないものの、防戦一方である。

 しかし――そのうち一本の矢が、囚われていた人たちの方へ飛んでいく。しかもそれはアルマのいる方である。ノエルが気がつき、矢を魔法で消してしまおうとするも間に合わない。ダリルもすぐには反応できなかった。

「アルマっ!」

 アーシェが叫ぶ。しかし、アルマは身体能力は高くない。当然避けることなどできない。

 無情にも、その矢はアルマの体に届いた。叫ぶダリル。

 しかし、その矢は――アルマの体を貫いてはいなかった。アルマに覆いかぶさるように、一人の老人が盾になりアルマに代わって矢を受けていた。

「おじいちゃん!」

 叫ぶアルマ。代わりに矢に貫かれたのは、アルマとダリルの祖父、トマスだった。

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