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オーブの力

 体が大きく変形し、もはや人の姿をしていない、騎士ライオネル。一体何があったのか。

「フハハッ! 愚かで下等な人間など、もはや俺様の敵ではない!」

 ライオネルはそう言い放ち、両腕を振った。それだけで凄まじい邪気を周囲に放出させ、その勢いで周辺の人や物を吹き飛ばした。

 ノエルは魔法防御壁を作り出して、自身とアーシェを守った。

「なんなのよ、あれ! 完全に化け物じゃないの!」

 アーシェは信じられないという表情で叫んだ。

「魔法の力でも、ああはならない。何かやったな!」

 ノエルは、ライオネルが何かしらの禁忌を犯したのでは、と考えている。

「ロドネスさまは素晴らしい力をお持ちだ! あの神秘のオーブさえあれば、何も怖くない! 下等生物ども、この力を見て絶望しろっ!」

「オーブだと? まさか……」

 ノエルは嫌な予感がした。自分たちが探しているオーブを、ロドネスに先に見つけられて、その力で邪悪な力と手に入れた可能性が高い。

「ねえ、ノエル! なんか不味い感じじゃない? オーブって――」

「かなり不味い。あの化け物の言うオーブが何のことか……多分、君が予想している通りだ!」

 ノエルは魔法の杖を振りかざし、アーシェに強化魔法を唱えた。アーシェの体に光に包まれ、同時に身体能力が数倍に強化される。

「こんなやつ一撃でやってやるわっ!」

 アーシェは剣を構えて気を高める。ノエルは通常では考えられないくらいの気が高まっているのを感じた。

「いくわよ! 必殺、ミーティアストライクッ!」

 全身を強烈な光を纏って、凄まじい勢いで化け物と化したライオネルに向かって飛んで行く。光弾と化したアーシェの一撃で、ライオネルは……なんとライオネルは、その一撃を受け止めた。

「う、嘘でしょ……」

 纏った光が消えていき、驚きの表情を隠せないアーシェの顔が見える。そして自分の剣の先にヒビが入り、折れそうになっていることに気がついた時のアーシェは、もう何が起こったのか訳がわからないという気分だった。

「そんなショボい一撃など……この俺様に通用するかっ!」

 ライオネルは背中から伸びているゴツい触手でアーシェを叩きつけた。

 あっけなくその攻撃を受け、吹き飛ばされるアーシェ。石畳に叩きつけられ、すぐには起き上がれない。

「アーシェ!」

 ノエルの目の前の状況が信じられないが、とにかくアーシェを救わなくてはならない。魔法を使いアーシェに防御壁を作る。

「あいたたた……」

 全身を石畳に強く打ちつけたため、身体中の痛みにすぐに動けない。しかしライオネルは容赦なくアーシェに攻撃を仕掛けた。

「死ねえぇぇぇ!」

 ライオネルの指先には、大きく鋭利な爪がついている。これでアーシェを串刺しにするべく振り下ろした。

 しかし、ノエルの作った防御壁はかなり強力で、その一撃では壁を突破させることができなかった。

「チッ、小賢しいマネをっ!」

 ライオネルはさらにもう一撃を繰り出す。しかし、それにはアーシェが反応し、飛び起きて回避した。だがアーシェの表情は辛そうだ。まだダメージが回復しきれていない。

 これは不味いと感じたノエルは、強力な殺傷力のある魔法を行使する。

「大地を駆ける風よ、その力で飛竜となりて敵を噛み砕け!」

 ノエルが呪文の詠唱を終えると、突如として周囲が荒れ始めた。物や人が吹き飛ばされそうなほどの突風が吹き荒れ、それが次第に一つの点に収束される。その点が次第に渦を巻いて、その渦の中心から猛烈な風が噴き出した。その様はまるでドラゴンのようであり、実際に風の動きが竜の姿を表し始める。

 嵐から生まれたドラゴンは、その巨大な翼をはためかせて更なる嵐を作り出した。ライオネルはその嵐の渦に巻き込まれ、風の牙に切り裂かれる。

「ぎゃああああ! お、おのれぇ!」

 かなり効いているように思えたが、ノエルにはこれで撃退するには至らないだろうと予測していた。そしてそれは実際にその通りだった。

「よくも――よくもやってくれたな、虫ケラども!」

 激怒したライオネルは、邪悪な力を自身の両手に収束させ、その力を解放した。黒い光がライオネルを中心に爆発する。周辺の建物、味方であるはずの衛兵なども、巻き添えをくって吹き飛ばされた。

 ノエルは魔法の防御壁でアーシェを守りながら、ライオネルと距離をとる。このまま戦っていては、周囲の被害が甚大で、しかもアルマたち拉致された人々の救出が遅れてしまう。ライオネルとの間には、先ほどの戦闘で発生した砂埃が舞っており視界が悪い。止むを得ないが、これを機に一旦退却するべきかと考えた。


 そんなとき、ふとアーシェの視線の向こうにダリルの顔を見た。見間違いかと思ったが、間違いない。そしてそのダリルはこちらに向かって手招きしている。

「ノエル、あそこ!」

「あれは、ダリル――」

「呼んでいるわ、行こう!」

 アーシェはノエルを引っ張ってダリルが身を隠しているところへ飛び込んだ。

「どこに行った! 下等生物どもっ!」

 ライオネルの禍々しい咆哮が響く。


 ダリルは二人を連れて、地下坑道を通ってかなり遠くまで退避した。あまり知られていない廃坑道で、衛兵の目を逃れることができたが、そのうち見つかりかねない。

「アーシェ、ノエル。大丈夫か?」

 ダリルは二人の様子を見て言った。

「大丈夫と言いたいところだけど、結構不味いわ。まさかあんな化け物が襲ってくるなんて」

「なあ、ありゃあなんだ? あんな魔物がどこから出てきたんだ?」

「あれはライオネルだ。何かオーブの力で人外の怪物になる力を得たらしい」

「ライオネル……って、あの衛兵隊の隊長か? おいおいどうなってんだ。オーブってあんたらが探していたやつか?」

「おそらくな。ロドネスがオーブを持っているらしい。ああいう使われ方をされると地上の平和が乱される。だから探して回収しなくてはならないのだが、遅かったようだ」

 ノエルは深刻な表情だ。悪用前に回収することには失敗した。こうなったら、これ以上被害が出ないようになるべく早く奪うしかない。

「そうだったのか……アンタたち、本当に重要な任務があってこのトーランにやってきていたんだな」

「しかし、とりあえずアルマたちを救出するのが先だ。こちらは時間がない」

 アルマたちの処刑は明日の正午である。門の向こうの貴族の地区、もしくはさらに奥の地区かもしれない場所に幽閉されていると予想されるが、そこまで辿り着くのは非常に困難だった。

「ねえノエル。さっきは油断したけどさ、今度は負けないよ。絶対に倒してやる」

 アーシェはやる気満々だ。次はこうはいかない、と鼻息が荒い。

「その意気だと言いたいが、とりあえず現状は厳しい。もうすぐ衛兵に見つかるかもしれない」

 ノエルは何かを感じ取ったようだ。先ほどから魔法で周囲を警戒していたようだ。

「とりあえず逃げようぜ。この坑道をずっと進めばロゼッタの宿の方にもいける。逃げられるかもしれねえ」

 ダリルはそう言って、二人を引っ張って廃坑道の奥に向かって走った。



 廃坑道を進んでいるとき、ノエルは何かを感じた。

「ダリル、不味い――ここからすぐに出るんだ!」

「おい、どういうことだ!」

 ダリルは何事かと驚いたが、ノエルはすぐに上面に向かって魔法を唱えた。坑道の上部が崩落し、その先に光が見える。天井を破壊して穴を開けたようだ。

「結構無茶をするわね……」

 粉塵が舞い散り視界が霞む中、アーシェはその様子に唖然としている。ダリルも同様である。

「ぐずぐずするな、出るぞ!」

 ノエルは二人を自分と一緒に魔法の力で包み、そのまま上昇して廃坑道を抜けて外に出た。

 そのすぐ後、轟音が鳴り響き、廃坑道の中が大爆発を起こして崩落し始める。ノエルが魔法で穴を開けた辺りも崩落し、あのまま中にいると巻き込まれて命がなかっただろう。幸いにもこの辺りは廃墟で、人がいなかったこともあって他に死傷者はなかったようだ。

「な、なんだありゃあ!」

 驚くダリル。

「罠だ、ある地点を通過すると、少しして爆発魔法を発生させる」

 ノエルが言った。どうやら、あちこちの坑道などに逃走防止のために、こういった罠を設置していたようである。

「じゃ……じゃあ、もしかして巻き込まれた可能性もあったってわけか……」

 ダリルはゾッとした。こういう廃坑道はよく利用するので、今まで巻き込まれなかったのは本当に運がよかった。

「ねえ、この辺ってまだそんなに離れた所じゃないよね?」

 アーシェが不安そうに言うと、ノエルも苦い顔をした。

「そうだ。向こうに見えるのは中央広場だ……不味いな……」

 そして二人の嫌な予感は見事に的中した。

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