第15話:いざ山登り
いざ山登り
「やったー! 今日から夏休みだー!」
そう言って、晴天に腕を突き上げるのは、静紀小夜。
クール系美女は見た目だけだったようだ。
まあ、気持ちはわからないでもない。
面倒くさいもんなー期末テストとか。
下手すると夏休みもつぶれるし、今回に限っては俺たちが手を貸したおかげで小夜も赤点はなく、充実した夏休みを送れるはずだったのだが……。
「さぁ、帰りましょう!」
「そうだね」
と、2人は早速鞄をもって帰る気満々なのだが、そのまま帰るわけがなく。
俺と園田を見つめて。
「さ、行くわよ」
「うん。早速行こう」
あ、やっぱり昨日のこと忘れてなかったのか。
昨日のことというのは、祝地球外生命体との遭遇のことだ。
俺の前世の知識に従って備えていたが、やっぱり桜乃春香は魔法少女として覚醒し、悪の怪人と……戦うことは無く、そのまま話し合いへと持っていけた。
人は話し合いすることが大事なんだなと思った瞬間だ。
まあ、そういう話はいいとして、正直に現状を考えると俺の知っている物語とは内容が違っている。
既に怪人もとい、ロウリィ族という誠子とは和解に成功していて、今後の調査協力をすることになったのだ。
最初から物語ルートをぶち壊したおかげで先が分からなくなってしまったが、世の中そう簡単にいかないということだろう。
ともかく、俺がやることは俺の城である家と土地を守ることだ。
そんなことを考えつつ、4人でまっすぐ俺の家に向かっていると……。
「そういえば、昨日の夜は大丈夫だったの?」
「大丈夫って、あの二人のことか?」
「うん。だって宇宙人さんなんだよね? 文化の違いってあるんじゃない?」
「そうでござるな。何かあれば連絡するようにといっていたでござるが、電話は無かったので安全だったのでは?」
「園田の言う通り、何も問題はなかったぞ。客間に案内して普通に過ごしている。まあ、半日放置しているのは怖いけどなー。いなくなってたらそれまでだろう」
宇宙人の生態なんて誰もわからない。
一応、食事は用意しているし、冷蔵庫や電子レンジなどは理解していたから問題はないと思うが、道徳心に関してはどうしてもどう教育されたかで変わってくるからな。
俺たちの常識は宇宙では非常識っていうのはあって当然だろう。
せめて家が原形をとどめていることを願おう。
願うぐらいなら一緒にいればいいとは思ったが、その程度で約束を反故にされる相手とはやっていけないというのもあった。
つまり、これはあの二人を試すものでもある。
信用できるかどうかだ。
そして、家に帰ってみると……。
「お、帰ってきたな。おかえり」
『お帰りー』
どうやら俺の心配は杞憂のようで、そんな言葉と共に出迎えをしてくれる2人がいた。
「ただいま」
俺は無難に返事を返す。
「お邪魔するでござる。元気そうでござるな」
「そうだね。2人とも大丈夫体調とか崩してない?」
「ああ。問題ない」
『そうだね。すごし易いところだよ地球は』
園田と桜乃は2人を気遣っていて、誠子とロフィーも問題ないと返事をする。
宇宙人だから宇宙服のような機能を持つものぐらいあるだろうしな。
まあ、懸念があるとすれば、昨日飲食をしていたからちょっと心配だったがそれも問題ないようだ。
「あはは。玄関まで迎えに来てそれはないでしょ。というか、本宅の方って初めてだよねー」
そういえば、小夜の言う通り桜乃と小夜をこっちに連れてきたことはなかったな。
「案内する理由がなかったしな。玄関で靴は脱いでくれ」
「「はーい」」
2人は興味津々なようで、家に入ると玄関を物珍しそうに見回す。
だが、それは後にしてもらう。
「あとで家の中はみてまわっていいから、まずはリビングにいこう」
「あ、ごめんなさい」
「そうだねー。まずはそっちが先だよね」
ということで、全員がリビングに集う。
「うわー、天井に扇風機ついてる」
「違うよ小夜。シーリングファンっていうんだよ。まあ効果は扇風機とあまり変わりは無いような……」
「換気を促しているということは間違いないでござるからな」
「何を話しているんだよ」
リビングでもシーリングファンに驚き、家具にきょろきょろしている。
それに比べて宇宙人の方が常識人で……。
「うむ。初めて見ると驚くよな。と、カフェオレで良かったかロフィー?」
『うん。誠子ありがとう。でも、こういうレトロな作りもいいもんだねー』
常識人というより、あっという間になじんでやがる。
いや、自由に使っていいとは言ったけどさ。
あと、レトロで悪かったな。
お前たち宇宙人から比べたら俺たちの家屋なんて不合理の塊だろうさ。
はぁ、とりあえず飲み物の準備をして、テーブルに全員座らせる。
「一体何畳あるのよこのリビング」
「確か40畳ほどでござったか?」
「うっわ、何その広さ。いや、広いけどさ」
「広い部屋で色々やりたかったからな」
リビングは広くキッチンも広く、のびのびとというのが俺の趣味だったからだ。
「おっきいテーブルだよね」
「色々作業とかするためにな。あと料理とか並べると4人掛けのテーブルって狭いんだよ」
そう、意外と4人用のテーブルは狭い。
ピザのL箱を二つ置けばいっぱいいっぱいになってしまう。
そういうのを避けるために大きいテーブルは必要だ。
だが、なぜか桜乃と小夜の反応は悪い。
「え? この家って叶君だけしかいないんじゃ?」
「そんなにホームパーティー開くような奴だっけ?」
「OK。お前らが俺のことをどう見ていたかはわかった。気持ちもわかるが、俺はこれでも仕事をしている。仕事の人やオタクのつながりもあるから、そういう連中を集めて騒ぐことはあるんだよ」
「「あー」」
なんかその納得の仕方も腹立たしいが友人が少ないのは事実だし、そこまで必要ともしてないのも事実。
だから何も言わないでおこう。
それよりも……。
「じゃ、さっそく昨日の話の続きだけど」
「ああ、今から向かうのか? お昼は食べないのか?」
『ちゃんと食べないと力がでないよ。美味しいものを食べればなおよい』
「……そうだな。何か作るか」
何故だろう? 誠子とロフィーは正しいことを言っているはずなのに何かが違う気がする。
俺の常識がお前らが言うなよ!? と叫んでいるが確かに食事はとった方がいいのは事実だ。
「では、食後に山も上ることでござるし、軽いものでいかがでござろうか?」
「軽い食事かー。サンドイッチ?」
「それぐらいじゃない?」
「ま、適当に準備するから待っててくれ」
「うん。楽しみにしている」
『晩御飯も美味しかったからね。期待しているよ』
「え、2人とも叶君の晩御飯食べたんですか?」
「どんなの食べたの?」
なんかただの友達のような会話だな。
仲が悪いよりはましと思えばいいのか。
そんなことを考えつつ、俺は昨日の残り物を利用しつつパパッと料理を10分程度で用意して戻る。
「ほれ。ハムとレタスのサンドイッチと、昨日の残り物のビーフシチューだ」
「おー、これが叶が作ったビーフシチュー!?」
「うわー。本格的だ」
「叶殿の得意料理でござるな」
「材料切って煮込むだけだからな」
「簡単に言うが、これは絶妙な味わいだぞ。いただきます。うん、美味い」
「本当だよねー。美味しい」
「「「!?」」」
ロフィーの言葉に園田、桜乃、小夜の視線があつまる。
なぜならそこには喋るイタチではなく、眼鏡をかけた150に満たない程度の女性が座っていたからだ。
「え? え?」
「だ、だれ?」
「あー、なるほど。それがロフィー殿の人間形態ということでござるか?」
「そうだよ。英雄は察しがいいね。僕はロフィーだよ」
「「ええー!?」」
驚く桜乃と小夜。
「そこまで驚くことかい? 叶は驚かなかったけどなー」
「そりゃ、ある程度想定はしていたしな」
イタチのままじゃ食事はしずらいと思ったし、イタチのままで調査っていうのは何か違うしそういうのがあってもおかしくはないと判断してた。
というか、こういう変身はお約束だしな。
「いやー、オタクというより、あんたたち2人がおかしいわよ」
「だよねー」
なんか俺たちが常識人ではないようないいようを受けたが、大人なのでむきにならずそのまま昼食を済ませて、休息を挟んでから目的の園宮公園へと向かうことになった。
じーわじーわじわわわ……。
夏の風物詩である蝉の大合唱がどんどん近くになっていく。
園宮公園は森を切り開いて、公園を設置しているので道や広場以外は森になっている。
つまり、蝉の住処というわけだ。
「ほう。ここが森か」
「いいねー。自然豊かだ」
「2人にとっては珍しいのか?」
「ここまでしっかり木々が生えている星というのは珍しいな。とはいえないわけでもない」
「流石調査で取り合いになった星だよ。いやー、ここに来れてよかったー」
話を聞く限り彼女たちにとっと地球というのは珍しい場所のようだ。
まあ、生命が育まれる星というのはかなり数が限られているというのは聞いたことがあるけどな。
それが実際どの程度なのかは俺にはわからない。
2人がそういうならそういうことだろう。
「ロフィー。目的を忘れるな。お前の話が違えば送り返すからな」
「わかっているよ。それで小夜、頂上ってどこだい?」
「えーっと、頂上はあっちだよ」
小夜が指さす先には登山コースと書いてある看板があった。
なんともわかりやすいものだ。
「ここっておじいちゃん、おばあちゃんがハイキングでもくるからね。ちゃんと塗装してあるんだよ」
「そうなんだ。登山っていうと、なんか荒れた道を進むと思ってんだけど」
「それは本格的な登山でござるな。拙者たちの軽装では山をなめているといわれるでござるよ」
「確かに。半袖に水筒だけの装備だしな」
登山家にこの格好を見られれば殴られて帰れと言われるだろう。
今回の山は本当にハイキングレベルなのでこの軽装になっているだけだ。
「それで、今のところ何か感じるか?」
「いや、私は全然だな」
「拙者もなにもでござるな」
元々光点が見えないメンバーはこの公園に着ても何も感じないようだ。
「僕も今のところはなにも感じないね」
「うん。私も全然」
「ま、山頂に行けばわかるでしょ」
小夜の言葉にみんな頷いて俺たちは山頂を目指す。
さて、魔法少女の物語は大幅に変わってしまったが、その先に一体何があるんだろうな。
せめて、静かに暮らしたいんだけどなー。




