第10話:物語の始まり
物語の始まり
「うまくいったでござるな」
集合場所で待ちながらぽつりというのは園田。
「まあな。これでイベントが起こればいい。というかもうこの日しかない。平日に町に行かれるとどうしようもないからな」
そう、すでに夏休み前の日曜日はこの日だけどなっている。
小説通りに物語が進行するのであれば、今日この日にマジカルなイベントが起こることになっている。
「園宮町のビルがあるところでのイベント可能性は?」
「そこはどうしようもない。まあ観察して、起これば駆けつけるしかないだろう」
俺たちの介入によって物語にずれが生じるというのはあり得るが、そこまで考えていたらどうしようもない。
俺たちにできるのはわかっていることに基づいて動くことぐらいだ。
それに園宮町でのマジカルイベントなら騒動は届くからなんとかわかるとおもう。
というか、そこはデマでもいいから桜乃に魔法少女になってたよなと伝えればいい。
「ま、そうでござるな。しかし、夏の祭典に必要な買い物って何でござろうな?」
「さあなー。それは俺にはわからん。女性には女性にしかわからないものがあるんだろうさ」
俺たちはそんなことを話しながら桜乃と小夜の到着を待っている。
そう本日は、夏の祭典に参加するための買い物日となっている。
というのは建前で俺と園田は魔法少女が覚醒するイベントを見届けるために来ている。
この世界が本当にあの3巻打ち切りのラノベの世界を沿っているのかどうかを。
俺の生活に未来に影が差すなら何としても打破してやるわ。
そう改めて気合を入れて待っていると、女性が2人が駅内にやってきた。
「あ、いたいた」
「ごめん。待たせちゃった」
そんなことを言いながら近寄ってくるのは、待ち合わせをしていた静紀小夜と魔法少女になる桜乃春香だ。
静紀小夜はパンツルックでスレンダーなスタイルだが、胸もそれなりにあるので目のやり場に困るやつはいるだろう。
桜乃春香はワンピースのような夏の服装という感じだ。普通ワンピースタイプはふわっと着るものでスタイルはわからないのだが、残念ながら彼女の胸は大きく、さらにカバンを斜め掛けをしているいわゆるパイスラッシュ状態で強調されているのだ。こっちもこっちで目のやり場に困る人はいるだろう。
しかし、俺はこれから自宅という城を守るために動かなくてはいけないので、そこらへんに意識を持っていかれるわけにはいかないのだ。
「いや、待ってないから気にすんな。せいぜい5分ぐらいだ」
「うむ。そうでござるよ」
俺たちはそういって券売機の方へ向かう。
予定の出発時刻も余裕だ。
お金を入れて切符を購入して構内にはいろうとしていると……。
「あれ? うわー……」
「どうしたの、小夜?」
「ごめん。私財布忘れたっぽい」
「ええっ!?」
切符売り場の前でポケットをあさっている小夜がいた。
どうやら財布を忘れたようだ。
「はぁー。ねえ3人で先に行っててよ。財布とりに行ってから追いかけるからさ。私につき合わせるのもこっちが気を遣うしさ」
「もう、今度から気を付けてよね」
なるほど、こういうことから桜乃が魔法少女になる際には小夜が側にいなかったのか。
……これって物語の流れは変えられないってことになるのか?
いや、それは回避しようじゃないか。
もともとぶっ壊す予定だ。
小夜を最初から引き込めば、流れも変わるはずだ。
ということで……、戻ろうとする小夜に声をかける。
「ちょっとまった。別に戻る必要はないぞ。予算はこっちで出す予定だしな」
「「え?」」
俺の言葉に驚いている2人。
「ほら、この前も言っただろう? 2人には金銭的援助してやるって」
「叶殿。それはちょっといやらしい方向に聞こえるでござるよ」
「……文字通りなんだがな。ま、そういうことで気にする必要はないぞ」
「やったー! 今月は旅行もあるからあまり使えるお金がすくなかったから助かるよ」
「えーと、その、迷惑じゃ……」
小夜は遠慮なく喜んでいるが、桜乃は良心が邪魔するようで気まずそうだ。
「別に迷惑じゃないから気にするな。前も言ったがこれは投資だ。未来への投資。2人に期待しているってわけだ」
「それはそれで気負いそうでござるなー」
「何を言ってもだめそうだな。とりあえずただ飯食えるから万歳でいいんじゃないか?」
「そうだよ春香。自由な買い物を楽しもう!」
「もう小夜は反省しないとだめだよ。でも、ありがとう叶君」
「よし、納得したならさっさと切符買うぞ」
俺はそういって切符売り場に行って2人分の切符を買って渡す。
「これで乗り遅れたらそれこそバカだからな」
「その時はみんな揃っておバカだっただけでござるよ」
「よーし、じゃみんなで馬鹿にならないうちにさっさといこう」
「あはは、そうだね」
ということで、ぱっと見、仲良し学生の移動になったのだが、その裏は世界の命運をかけたミッションが始まっていた。
中二病で済めばそれが一番なんだけどなーと、流れていく風景を見てそう思っていたら、あっという間に都会へと到着。
「よし、予定通り午前中は個別の買い物で、そのあとは一緒に昼ご飯。ひとまずはそれでいいか?」
「問題ないでござるよ」
「うん。問題なし」
「わかったよ」
全員の承諾を得たところで、カバンから封筒を取り出す。
先ほどもいった予算だ。
「じゃ、これが本日の予算な。使い切っても問題なし。というか使い切るといい。旅行の時は旅行の時で予算だすしな」
「相変わらず剛毅でござるな。ま、拙者は慣れているでござるが」
そういって園田はへんりょなく封筒を受け取る。
「英雄のいうとおりだね。太っ腹~。ありがと」
小夜も特にためらいなく受け取る。
「えーと、ありがとう」
桜乃はやっぱり気まずそうに封筒を受け取る。
それを見届けた俺はそのまま買い物へと向かう。
すると後方から……。
「「ええー!?」」
なんか驚いた声が聞こえたが、大人の買い物っていうのはそういうもんだ。
若者たちよ、その中身が信頼の証でもあるということに気が付けるかな?
というか、今回の場合はトラブルを未然に回避することができないということからの、迷惑料なのかもしれないな。
そんなことを考えながら、俺はさっと近くの店に入ってスマホのアプリを起動しつつ、園田に連絡を取る。
「どうだ? 聞こえるか?」
『イヤホンの感度良好。しっかり聞こえるでござるよ』
「2人の様子は?」
『もちろん驚いているでござるよ。というか震えているでござるな』
「別に大金ってわけでもないだろうに」
『十分大金でござるよ。普通一本でも多いぐらいでござる。それが……』
「それよりも、2人を説得してくれたか?」
『むろん。これが普通と説明は下でござるよ。実際に使うかはわからないでござるが』
「そこはどうしようもないな。ま、お守りに扮した発信機を受け取ってくれたから何よりだ」
『これで行動の監視はできるでござるな。あとはそれが起こるのを待つばかりでござる』
「ああ。適当な位置で見張るぞ」
『了解』
ということで、俺たちは監視を始める。
一応、魔法少女の覚醒イベントは午後になってからのはずだが、午前中からも注意しておくのは当然だろう。
小夜がすでにいることで物語の流れとは変わっているのだから。
俺の予想通り、2人は一緒に移動して買い物をしている。
まあ、女性っていうのはそういうもんだろうな。
しかし、同じ店に入ってすでに1時間立っている。
いやいや、買い物が長いっていうが同じ店でそこまで悩むのかよ。
……女性の恐ろしさを改めて再認識する。
もう約束の時間まで1時間だぞ。
幸い俺は喫茶店でコーヒーを飲みながらのんびりスマホで確認するだけなので問題ないが……。
『叶殿。ずっと立っているのはつらいでござるな……』
「どっかのベンチある自販機にいって休んどけ。動きがあったら伝えるというかそっちでも確認できるだろう?」
『そうでござるな。とりあえず休むでござるよ……』
立ち尽くしていた園田は既に限界を超えたようだ。
ただ待つというのはそれだけ消耗するからな。
園田のマークはちょっと離れた公園に移動していく。
わざわざ炎天下の日が差すところになぜ行くとおもったが、室内は息が詰まるとかそういうのか?
そんなことを考えていると、ようやく2人が動き出す。
ようやく買かったようだ。
すると、2人はなぜか分かれて移動を始める。
「園田。2人が別れて行動を始めた。小夜は近くで止まっているから、そっちを頼む」
『了解でござるよ。桜乃殿は任せたでござる』
「おう」
俺は喫茶店を出て桜乃のところへと向かう。
なぜ2人が別れたのかは不明だが、物語の流れとしては再現している状態だ。
何もなければそのままお昼を食べて良い一日で終わるんだが……。
ドォォォン!!
そんな音が聞こえてくる。
「くそっ」
そんな悪態とともに俺は走りだしている。
『叶殿!? 今の爆音何でござるか!?』
「わからん。でも、桜乃がいる方向からだ! こっちは確認するから、そっちは小夜と合流してくれ!」
『了解!』
ただの事故であってくれよ!
スマホの地図上、桜乃は交差点にいる。
どっちだ、事故か、それとも怪人か!
そんな焦る気持ちを抱えて、角を曲がれば……。
『ふん。こんなところに逃げてくるとはな』
そこには交差点のど真ん中でエロい衣装を着た同年代っぽい女性が立っている。
……怪人って設定はどこに行ったよ。
と、思いつつも観察をしていると、その手にはマスコットぽいイタチのような動物が握られていて、それは女性に噛みつき拘束を解こうとする。
『ちっ』
その女性は手を振って動物を放り投げる。
というか地面にたたきつけるような感じか、ゴロゴロと転がって彼女の場所へとたどり着いてしまう。
「え? え?」
そう、そこには桜乃が立っている。
彼女は事態を把握できていないようでその場から動くこともできずに立ち尽くしている。
いや、誰でもそうか。
とりあえず、俺は出るべきか…、それとも見守るべきか。
いっそのこと、あの動物引き渡して終わりになんねーかなーと思うのであった。
そして物語は始まってしまう。
恋愛よりも自由を願う俺はどう行動するのか!




