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第9話:誘導

誘導



「おーい。春香、叶、英雄いくよー!」


そんな大声を教室のドアから出して俺たちを誘うのは、静紀小夜である。

クール系美人かと思っていたら意外とプラモデルに熱が入っている趣味人である。


「はーい。ほら、2人ともいこう」

「了解」

「わかったでござる」


桜乃に言われて、鞄をもって小夜が待つドアへと移動する。


「仲が良いな」

「仲がいいからな」


うらやましいのか、それともただのコメントなのかは判断しかねるが、普通に返す。

小夜が積極的に動き始めた結果、こうして学年内での俺たちの知名度もウナギ上りだ。

学園のアイドルとクール系美女の2人と帰っているんだから当然だとは思うが、当事者になるとは思ってなかった。

とはいえ、いじめなんかはないから何も気にする必要はない。

こういう条件の漫画の場合、美女に近づくんじゃねえよ。とか定番のアホなグループが存在するのだが、そういうのはこの学校にいないのは幸いだった。

逆に付き合っているんじゃないかと聞いてくる連中もいないので、ある意味俺たちの立場をかなり便利なのかもしれない。

付き合うには釣り合っていないと見られているわけだからな。

そういう勘繰りや嫉妬もないわけだ。

そんなことを考えているうちに外に出ていて夏の日差しが刺さる。


「いやー、無事に期末も終わったし、これで思う存分プラモデル委が作れる!」


そう言って嬉しそうに言うのは小夜だ。

一番この日を待っていた感じだな。


「もう、前もって勉強してればこんなことにならなかったんだよ。だから、叶君の家に行ってもちゃんと夏休みの課題もやるからね?」

「えー」

「えーじゃありません。いいよね、叶君、英雄君?」

「いいんじゃないか。夏休みの宿題とかさっさと終わらせるに限るしな」

「そうでござるな。休み終わりで慌てたくはないでござるからな」

「なんで2人は普通に素直なのよ。というか、なんで成績いいのよ!?」

「「普通に勉強しているから」」

「むっきー!?」


小夜は本当に勉強が苦手なようだ。

いや、プラモデルなどの集中力から見るに勉強に興味を持てないんだろうな。

あと、桜乃はここ一週間前後の付き合いで苗字から名前呼びになった。

着々と主人公たちとの距離感は縮まりつつある。


「……あとはどのタイミングであの出来事が起こるかだな」

「……正直このまま何もない方がいいでござるけどな」


園田の言う通り何もないならそれに越したことはない。

だけど、起こった場合を想定しているのだから、起こらない時を考えても仕方がない。


桜乃春香が魔法少女になる時を俺たちは待っている。


なんとしても桜乃春香をサポートしてこの町や世界の破滅を防ぐのだ。

というより、我が城を守るのだ。

ここまで頑張って作り上げてきたものを手放してなるものか。

そう決意を新たに固めつつ、家に戻って桜乃たちとの友好を深めることにする。

別に物語の主人公とか抜きでもいい友人たちなのだ。

向こうが一緒にいるというのなら特に拒否する理由もない。

まあ、逆に俺たちのことが気に入らないと離れるのであればそれはそれでしかたがない。

人はそれぞれ相性っていうのがあるからな。

無理して嫌な人と付き合う必要はないのだ。

それが一度社会人として生きていた俺の意見。


とはいえ、小夜はともかく桜乃の学園のアイドルという立場を考えると博愛であり誰にでも気にかけていそうだよな。

前世ではこういう人とは付き合いがなかったが、多分学校内でアイドルをやっている人がいればこういう状況になったんだろうなーとは思う。


「ん? どうしたの、私の顔を見て何かついてる?」

「いや、なんで桜乃や小夜と一緒に帰ってるのかなーと不意に疑問に思った」

「確かに、拙者たちとは遠い存在でござるからな」

「あはは、何言ってんのよ。こうして仲いいじゃん」


小夜の言う通り仲がいいのは事実だ。

その理由も……。


「切っ掛けはプラモデルでな」

「うん。いいよー。ロボット。ああ、早く帰って作りたい」


本当に根っからのプラモ好き、ロボット好きだな。

将来は宇宙飛行士か?

いや、この学力だと厳しいか。


「もう。夏休みの課題もやるからね」

「わかってるって。って、そういえば叶たちは夏休みの予定ってどうなってるの?」

「あー、夏休みも来る予定だよな?」

「もちろん。あんな贅沢な場所で夏休みとかさいこー! ね、桜乃?」

「うん。だけど、叶君の予定を優先していいからね?」

「それもあって今日はそこらへんを話そうかなと思っているわけだ」

「そうでござるな。もう夏休みも目の前。予定を組んでおくでござるよ」



そんなことを話ならが、俺たちはそのままいつもの喫茶店モドキに帰ってくる。


「かえったぞー!」


俺が何か言う前に、小夜が両手を上げて勝利の期間報告をする。


「はいはい。おかえりー。冷房つけるからちょっとまってな」


俺はそう言いながらカウンターの裏の方へと入っていく。


「ここは叶君の家だからね?」

「そういいつつ、既に春香も定位置に座ってるしー」

「いいだよー。ちゃんと家事手伝ってるし。で、春香はアイスコーヒー?」

「うん。お願い」

「叶君はブラックのホット、英雄君はカフェオレでいいかな?」

「ああ、お願いします」

「よろしくお願いするでござる」


最近はこうして自分たちの役目が出てきた。

俺は帰ると鍵開けと、冷房の点火。

園田と小夜は喫茶店の清掃。みんなも手伝うが、最優先でやる。

春香がおじさん直伝の美味しい飲み物。

サイフォンとか特殊危器具を使いこなしているのでありがたい限りだ。

飾り物にならなくてすんでいるからな。

それでみんなが自分の仕事をおえて、予定を話し合うための会議席へとあつまる。

みんな同じテーブルではあるが、そういう場所がおのずと決まっているわけだ。


「じゃ、これより夏休みをいかに楽しむかの会議を開きます」


なぜか小夜が仕切っているが特に否定をする理由もないので、誰も何も言わない。


「とりあえずカレンダーだ」


俺は持ってきた大きめのカレンダーをテーブルの上に置く。

7月、8月のカレンダーを並べる。

しかし、毎度おもうが、社会人を経験している身からすれば、この長期の休みは驚きだよな。

約一か月半近くの休みだ。長いよなー。

とそこはいいとして、予定の話だ。


「まず、叶がこの家にいない日っていつ?」

「えーと……」


俺はペンをもってカレンダーに「外出」と書いていく。

7月の末の3日間、お盆の2日間。

俺の予定はこんなもんだ。

そもそも……。


「別にこの喫茶店モドキなら、小夜と桜乃ならカギ預けていいぞ」

「え!? マジ!?」

「そんなの悪いよ」


小夜は食い気味、桜乃は申し訳ないという感じだ。


「マジだよ。そして悪くもない。人がいない場所は汚れるからな。使用ついでに掃除をしてくれればいいさ。ああ、小夜の方にはプラモルームのカギもだな」

「やったー!」

「でも、貴重品があるよ?」

「まあ、2人に盗まれたのなら人の見る目がなかったってことで、壊したりしたものがあれば申告してくれればいいしな。ああ、ほかの人を入れるのは無しな」

「そんなことしないって」

「うん。ちゃんとするよ」

「といっても、合計5日だけだしな。カギの受けわたしは俺が外出する前日でいいか?」

「おっけー」

「それでいいよ」

「というか、お盆は分かるけど、7月末のは?」

「ん? いや、そこは……」


まさかそこの質問が飛んでくるとは思わなかった。

何せ、この日付の意味を知らぬものがいるとは……。


「聖戦があるのでござるよ」


俺が答える前に園田がそう言って、同じように「園田休み」と同じ日付で休み日を入れる。


「「聖戦?」」


2人はやはり聖戦の意味がわからにようで首を傾げいている。

知らないわけがないとは思うが、俺たちが向かうとは思っていないってところか。


「東京の同人即売会にいくんだよ。夏の祭典。地獄の門が開く」

「その通り、兵たちが集まり戦利品を求めて戦うのでござる」

「「ああー!!」」


答えを言えば2人ともわかるようで驚きを露わにしている。

というか、前のめりになって……。


「ちょっとまって! 即売会に行くつもりなの!?」

「すごーい。東京だよね? どうやって!?」


なぜか興味津々である。


「小夜。俺の仕事忘れてないか? 桜乃、普通に新幹線に乗ってだけど? 飛行機もあることはあるけど、そっちはなー」

「新幹線の方がいいでござるな。コスパ的にも。オタクとして夏の祭典に行くのは義務でござる」


とりあえず、普通に答えを返す。

ラノベ作家である俺がネタの宝庫である即売会にいかないわけがない。

園田もオタクであるがゆえにいかないわけがない。

オタクの聖地。そこが夏のお台場である。

その事実を伝えると……。


「新幹線って高くない?」

「そうだよね。それだけでお金無くなるよね」


そんなことを行っている2人。

ああ、確かに学生の身で東京へ行って買い物とかかなり出費がかさむ。

移動にすらかなりかかるからな。


「なんだ、2人とも行ってみたいってことか?」

「そりゃ、当然よ。即売会ってオリジナルのプラモ出している人もいるでしょう?」

「造型師はいるなー。まあ薄い本がメインだとは思うが」

「私はお店を見て回りたいなー。でも、即売会にも興味ある」


桜乃の覚悟ではきっと戦場を生き残れないとは思う。

とはいえ、それを言うのは酷だな。

俺にできるのはチャンスを与えることだけだ。


「なら、一緒に行くか? 2人分の旅費ぐらいなら問題ないし」

「「えっ?」」

「あはは、拙者が言うのはあれでござるが、お金の件はお世話になっているでござるから気にするだけ無駄でござるよ」

「ああ、こういうのは先行投資だ。小夜は言わなくてもプロモデラ―になるかもしれないしな。現場を見るのは大事だ。桜乃も何か見つかるかもしれないしな。お金がネックならそれぐらい俺が出す。これが有意義なお金の使い方だからな」


人の成長の後押しをする。

なんと素晴らしいことか。


「やったー!? ついていく! もちろんついていく!」

「小夜!? 駄目だよ。お金出してもらうなんて……」

「気にするなっていうのもあれだが、こういう機会は無駄にしない方がいいぞ。ああ、部屋とかも別室よていだから気にするな」

「戦利品があるでござるからな!」

「威張って言うなよ」


園田はこういう時は恥ずかしがらないんだよなー。

なんか間違ってね?

さて、ついでに最後の一押しをしておくか。


「ということで、夏の遠征のために買い物とかをしようと思うんだけど、この日に行こうかと思っている。3人ともくるか?」


俺はそう言ってまだ学校がやっている最後の休みを指さす。

意図的なイベント開始をねたっらのだ。


さぁ、魔法少女になる桜乃はどうする?



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