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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
新九郎の巻(1551年~)
35/117

房総半島の戦国大名

 1554年春


 安房里見当主の里見義堯(よしたか)は、里見氏家中の内紛を勝ち抜いた戦国大名である。北条氏綱の支援を得て下剋上を果たすと、小弓公方足利義明と同盟を結び、北条氏に対して反旗を翻した。小弓公方が没落すると房総半島を掌握し、久留里城を本拠として里見氏の最盛期を築き上げたのだ。


 里見軍は海賊衆を基盤とした強力な水軍勢力を保持しており、三羽烏と呼ばれる正木氏、万喜土岐氏、上総酒井氏を従えていた。


 上総国の真里谷武田氏で武田信隆(のぶたか)と武田信応(のぶまさ)の家督争いが起こると、里見義堯は武田信応に肩入れし、息子の里見義弘を派遣して武田信隆を討ち取り、庁南武田氏の庁南城まで横領したのであった。武田信隆の子、武田信政(のぶまさ)は椎津城まで落ち延び北条氏に救援を依頼してきた。


挿絵(By みてみん)


 これに対して北条氏康は三羽烏の一角である正木氏に対して調略を行う。正木氏は本家筋である内房正木氏よりも、早くから里見氏に帰属した分家の大多喜正木時茂(ときしげ)と勝浦正木時忠(ときただ)が発言力を持っていた。弟達の風下に立たされた百首城主内房正木時盛(ときもり)は息子の正木輝綱(てるつな)と共に北条氏に通じたのである。


 正木時盛の帰属により、北条氏康は赤備と黄備を安房に派遣し佐貫城を拠点とした。佐貫城に入った北条綱成は峰上城を攻略し、内房正木氏家臣の吉原玄蕃助を入れ里見氏攻略の最前線とした。


 時を同じくして新九郎にも出陣の命が下った。新九郎は猪鼻城に入り福島綱房の部隊を東金城、真田俊綱の部隊を土気城に派遣した。


 東金酒井胤敏(たねとし)と土気酒井胤治(たねはる)は僅かな抵抗を見せたものの、衆寡敵せず降伏してきたのである。新九郎は両部隊と合流し椎津城に入城したのであった。


 上総国 椎津城


「綱房、俊綱、酒井氏の攻略お手柄であったな。寄合所帯と揶揄う者もいるが見事に役目を果たした。実際に戦ってみて如何であったか聞かせて欲しい。」


 先に答えたのは福島綱房であった。綱房の配下には主だったところで周西(すさい)藤九郎、仙波左京亮、綱島(つなしま)小三良(こみよし)賀嶋(かじま)良右衛門尉(きちえもんのじょう)、会田内蔵助、会田掃部助等がおり、関宿簗田氏旧臣が主力である。


「新九郎様、寄合所帯とはいえ元は足利家の臣下としての矜持がある者ばかりで、負けず嫌いが揃っております。一番槍争いはそれは激しいものでありました。」


「それは心強い。暴れ馬の如き者共の手綱を握るのは大変であるな。俊綱の方は如何じゃ。」


 真田俊綱の配下には河越の戦いで山内上杉家に従っていた者が多い。真田家と縁の深い羽尾幸光、羽尾輝幸、山上氏秀を核に逸見義忠、広沢忠信、広沢信秀、上田則直等が脇を固めている。


「はい、こちらも士気が高く申し分ありません。反骨精神が強いので北条家に馴染むか心配でしたが杞憂でした。次男三男が多いので己の家を起こそうと皆必死ですよ。」


「そうじゃな。働く場があって認めてくれる機会を欲しているのやもしれぬな。忠貞、本隊は如何じゃ。」


「本隊も士気は高いです。藤吉郎が上手く調整してくれるので助かっておりますよ。」


 島津忠貞が率いる本隊は武蔵の牢人衆が主力だ。扇谷上杉家の旧臣が多く、主だった者としては赤堀影秀、九里采女正、膳宗次、高田繁頼等がいる。忠貞が副将として儂に付く事も多いので風間藤吉郎が取り纏めをしており、藤吉郎の補佐には宮田光次と鮎川文吾が名を連ねていた。


 馬廻衆は狩野泰光を筆頭に笠原康明、石巻康敬、山角定勝、大谷帯刀、安藤良整、大石定仲、藤田重連、岩松守純が名を連ねる。


 大半が早雲寺で共に学んだ者達であるが、大石定仲と藤田重連は山内上杉家の重臣の家で、北条幻庵の息子が養子に入ったため家を継げなかった者達だ。見所ありそうなので馬廻りに取り立てた。岩松守純も由良成繁の許可を得て馬廻衆の一人に加わっている。


 我等の軍勢以外にも椎津城には、真里谷武田信政と庁南武田家重臣の大泉伊賀守に率いられた、庁南武田家の軍勢がいる。


 同盟国の千葉家からは生実城主【原胤貞】が与力として合流しており、江戸城からの屋久水軍による物資の補給を待っている。里見氏との戦いがいよいよ始まろうとしていた。


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