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平宰相〜北条嫡男物語〜  作者: 小山田小太郎
西堂丸の巻(1543年~)
14/117

人材発掘

 鉄砲の話が一段落したところで、人材の確保についても相談する。


「忠貞に調べて欲しい人物がいる。近い将来名を馳せるであろう当代随一の鬼謀の持ち主じゃ。」


「西堂丸様。何というお方ですか?」


「真田幸綱と申す者で信濃の国人衆じゃ。武田家に領国を奪われて、今は箕輪城の長野業正の客分となっている筈じゃ。後に仇であった武田家に仕え、武田家躍進の立役者の一人として名を上げる者でな。北条家に仕えてくれたなら、必ず役に立つと思うのじゃ。」


「箕輪長野家は山内上杉家に属する家です。人を入れるのは少し難しいかもしれませんが、できる限り調べてみましょう。」


 忠貞が請け負ってくれると安心できる。


「今日はこれくらいにしてお休み下さい。明日は朝餉をいただいたら小田原に出発しなければなりません。」


 忠貞に促されて寝床に入る。二日連続での寝坊はいただけない。明日は皆より早起きしようと心に決めた。



 翌朝、起きてすぐに支度をして庭に出る。まだ陽が昇る前だ。一番乗りかと思ったが、既に素振りをしている者がいた。荒木右衛門尉だ。


「右衞門尉!精が出るな。抜け駆けしようと早起きしたが、上には上がいたようじゃ。」


「若様!おはようございます。武芸を磨いて武功を上げたいのです。」


 荒木家は譜代の興国寺六家ではあるが、武功で大道寺家や多目家に遅れを取っているという劣等感から、自分の代で手柄を立てて武門の名家と呼ばれる事を目標にしているそうだ。


「そうか、精進しなければならないな。荒木家にも御家芸があるのではないか?得意な得物は何じゃ。」


「お恥ずかしい話ですが治水です。武芸ではないのです。」


 うん!?今大事こと言いましたよね?本人は残念そうに答えたけど、それ、かなり重要なことだよ。


 元々、荒木家、山中家は京都の宇治に居を構え、宇治川の治水に携わっていたそうだ。早雲公が駿河に下向する際、同郷の大道寺家に誘われて早雲公の与力となった。


 北条家が小田原を支配した際、海に近い小田原の井戸水には僅かだが海水が入っていたそうだ。氏綱公は荒木家と山中家に飲用水と農業用水の確保を命じ、両家は治水の知識を活かして早川から小田原までの用水路を完成させたのだった。


「早川上水の宰領とは名誉な仕事ではないか。昨日も話したが、これからの戦は更に大規模なものになる。今までの城では間に合わなくなる時が必ずくる。縄張りには治水の知識は不可欠なのだ。御家芸を疎かにしてはならぬぞ。」


「そう言っていただけると嬉しいです。治水の家と言われることが恥ずかしかったのです。これからは誇りを持てる気がします。」


「小田原に帰る道すがら、早川上水を視察しよう。道中の楽しみが増えたぞ。」


 右衞門尉は嬉しそうな顔になり、剣術の稽古に戻っていった。治水と言えば武田家の信玄堤が有名だが、北条家にも誇れる治水技術があることを知った。家中のことを知らなければ素晴らしい技術を埋もれさせることにもなりかねない。家中にも目を配らなければならないと反省させられた。


「皆様!朝餉の準備が整いましたよ!」お絹殿の元気な声が響き渡る。


 無礼講の朝餉の後、旅装を整え表に出ると、お絹殿が待っていた。


「若様!おにぎりを包んでおります。道中、小腹が空いたらお召し上がり下さい。」


 猪助がお弁当を受け取り、忠貞達と合流する。「いざ!小田原へ」綱房の号令の下、隊列を組んで帰路に就いた。




人物紹介

荒木右衛門尉(?)氏康配下の将。北条分限帳では諸家臣のくくりになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さくさく読めるので面白いです! [気になる点] 「未来の世界にも〜」と断言してるのが気になりました。 「夢で見た」程度にした方がいいのでは? [一言] 更新頑張ってください!
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