第112話 魔王と勇者の物語2
魔王は『調整』をする必要にかられた。
勇者というのは特に強い光属性の魔力を持って産まれた者だが、『強い魔力を持っている』と『今、強い』は必ずしもイコールではない。
訓練と実戦が違うように、魔力量と運用の技巧もまた等号では結ばれないのだ。だからこそ魔王は勇者を育てあげなければならなかったし、育て上げつつも、いつか対面した時に協力を求めることが可能な関係性を維持しなければならない。
だから、魔王は勇者を探し、求め、これに『適度な試練』を与え続けるように、たびたび前線に立った。
まずは弱い魔獣をけしかけて実戦を学ばせる。
侵攻ペースを調整し、勉学・訓練の機会を与えて実力を伸ばす時間を与える。
だんだん強い魔獣や魔族をけしかけて、力量をステップアップさせる。
これにより勇者の実力は伸びていった。
だが、魔王はこれを『うまくいった』とはまったく思えなかった。
魔と人は戦争をしている。
殺し殺される関係だ。
この争いを止めようと画策している魔王は『変わり者』であり、人を滅ぼすことに疑問をさしはさむような魔族はいない。
つまり……
『勇者にギリギリ負けそうな魔族をさしむける』という行為は、『勇者を殺すまで撤退しない魔族を死地に送り込む』という行為に他ならない。
魔族が追い詰められた段階で撤退を命じた。
ところが、魔族はこれを聞かなかった。
追い詰められた魔族は闇属性の魔力による掌握さえもはねのけた。
知性よりも『大地の声』からの使命の達成が上位にいき、暴走し、魔王の声さえ聞こえなくなってしまうのだ。
だから遣わした魔族は勇者にうち滅ぼされ、魔王はそれを見ているしかなかった。
……最初の一回で、理解させられたのだ。
これは、魔族の命を糧として、敵対者である勇者を育て上げるという行為だった。
時間遡行をして『初代魔王』を倒すというのが、どういうことか? ……考えていないわけがなかった。
魔王自身が消えるだろう。初代魔王が発生させた魔族そのものも消え去るだろう。
『世界』がそれをどのように処理するかは本当にわからないが、魔王は自分の存在が消えることは覚悟していたし、この行為が魔族すべてを消し去るものだというのもわかっていた。
わかっていて始めたはずだった。
だというのに、同胞をみすみす死なせたことを、魔王は悔やんでしまう。
悔やむ資格も悲しむ資格もないというのに、同胞を死地に送り込む采配をすることに、罪の意識を覚えてしまう。
『どうせ、成功すればすべて消え去るのだから』などという考えでは、自分の精神を説得することなどできなかった。
魔王は、自分のおかしさを身につまされた。
人ではない存在として発生し、この世界で生きる人と魔を滅ぼさぬ道を探し……
そのために、同胞を生け贄として、勇者を育て上げる。
大義と使命のためだと自分を納得させようとして、しかし同胞を死なせる罪の意識に苦しまされる。
……人の精神に魔の力を持った、この世界にとっての異物。それが、『今の魔王』だった。




