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SOS調査員【宇宙の虎】

伝説は誰れのために

 その夜幌橋は常連とはいえなくなったバーに久しぶりに顔を出した。それでもマスターはまだ顔を憶えていてくれたようで、よく頼んでいたウイスキーをロックで作ってくれた。

 そのとき隣に座った男が「あの人と同じものを」と注文した。しかし幌橋はその男に見覚えはなかった。

 グラスを軽く持ち上げて男はぐっと中身をあおった。

「『ダークホース』ですか。評価はされなくても闘争心は失っていない。図星ですか?」

 男は幌橋に気安く話しかける。しかし挑むような目は反対にギラギラと光っていた。

「占いなら余所でやってくれ。私はただ静かに飲みたいだけだ」

「今日は顔見せです。2杯目はぼくがおごります。それでは」

 男の選んだ酒はブリュードックのライウイスキーだった。それが【ナインライブズ】の新星ホープ、青柳から幌橋への挑戦状あいさつだった。


 数日後、青柳は幌橋の前にSOS(宇宙安全機構)の後輩として現れた。ファミレスに誘われ幌橋は青柳と向かい合って座った。

「よろしくお願いします、先輩」

「どういうつもりだ? これに何の意味がある」

「ぼくはあなたと勝負がしたいんです。受けてもらえますね?」

「ここにいるのは都落ちしたロートルだ。今更何を」

 棚橋がそう言えば青柳は口元を歪めて首を振る。

「あなたが【宇宙の虎】と呼ばれるようになっても向こう(・・・)の評価は変わらない。むしろ尾ひれがついて伝説になってるくらいだ」

「迷惑な話だ。伝説になりたければ自分で勝手になればいい」 

「それじゃあ意味がない。あなたに勝ってこそ伝説になれるんです」

 青柳は不敵にそう言いながら幌橋から目を逸らさない。

「だいたい勝負と言っても何をするつもりだ。そう都合良く事件が」「起こります」「……何だと?」

 断言する青柳の言葉に、コーヒーを口に運ぼうとしていた幌橋の手が止まる。

「明日、地球ここに隕石が落下します。しかしそれは本当は冬眠カプセルに入った魔獣です。おそらくは獄烙鳥の」

「馬鹿な、それならSOS(宇宙安全機構)が気づかないわけが」

「本部の警備体制はザルもいいところですよ。誰かが(・・・)何かしても気づかないくらいに」

「貴様、わざと見逃したのか……勝負そんなことのために!」

「おっと、大きな声を出さないでください。人に見られてますよ。いずれどちらかが討伐すればいいだけのこと。逃げないでくださいよ、先輩」

 言うだけ言って青柳は伝票を持って席を立った。


 隕石の落下時刻と場所を聞かされ、幌橋は日本の近海にある無人島に来た。青柳は先に来て待っていた。その都合の良さに「これもお前が仕組んだのか」と幌橋が訊けば青柳は無言で嗤うだけだった。

 空気を裂く甲高い音を伴って隕石が落下してくる。激突の衝撃音とともに火柱が上がった。そして目覚めた獄烙鳥が空に舞い上がる! 翼長3.5メートル体重1.25トン(推定)

「先手はもらいますよ、先輩」

 そう言うと青柳は獄烙鳥に向かう。空中に足場(・・)を作り空へと駆け上がった。青柳の能力は【空間操作】だ。

 獄烙鳥が青柳に狙いを定めて襲いかかる。しかし吐き出された火炎を青柳は【衝壁】を作って防いだ。

 獄烙鳥は悔しげに青柳の周りを旋回する。青柳はいくつも【衝壁】を作り出し、次第に獄烙鳥を追い詰めていく。


「これでこの勝負、ぼくの勝ちでいいですよね」

 ()に閉じ込めた獄烙鳥を見て、青柳は勝ったとばかりに嗤って幌橋を振り返った。

 しかしその時海中から水しぶきとともに獅王竜が姿を現した! 全長15メートル体重30トン(推定)

「な、なんだこいつは!」

 固まる青柳の目の前で獅王竜は()ごとばくりと獄烙鳥を咥えて、弧を描いて再び海中に姿を消した。

「い、今のは……」

 歯の根が合わないでいる青柳に幌橋が話しかける。

「あれがこの海域に君臨するかいぶつだ。お前が仕込んだ(・・・・)以上のな。これ以上ちょっかいを出さなければ問題ない。後は任せて……」

「は、ははっ、だから勝負なんか眼中に無かったと? ……ふざけるな! だったら獅王竜(あいつ)をぼくが倒せば!」

 怒りに我を忘れた青柳の気が強まっていく。

「よせ! 奴を刺激するな!」

「見てろよ……ここからがぼくの、本当の伝説の始ま」「そこまでにしておけ、馬鹿が」

 突然青柳の後ろに現れた久多良木が、首に手刀を食らわせ意識を刈り取った。


「久多良木、お前が焚きつけたのか?」

 青柳を肩に担ぐ久多良木に幌橋が問いかける。

「そんなつもりはなかったがな。跳ねっかえりにはいい経験になったろうよ」

「それで済むわけがあるか! 下手をすれば死ぬところだったぞ」

「そうなったらそれまでのことだ。【ナインライブズ】は仲良しこよしの部活動おあそびじゃない」

「だったら尚更」「お前も戻る気がないならせめて役に立て。バイト料ぐらいは出してやる。じゃあな、また頼むぞ(・・・・・)

 ニヤリと笑って久多良木は消えた。後には幌橋の悪態が無人島に響くだけだった。


 後日、幌橋に迷惑料を添えた一瓶のウイスキーが届いた。スカリーワグの10年だった。

 (これは青柳の「辞める気はない」という決意表明だろうか? それと迷惑料で今度アンナをいいレストランにでも誘ってやろうか。この間からのアンナの質問攻めも、これで少しはおさまってくれるといいんだが……)


 


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― 新着の感想 ―
カッコいい。オシャレ。それで尚且つ面白い。 そういうので酔わせてくれる16丁さん、大好きです(*´ω`)b
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