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起きたら20年後なんですけど! ~悪役令嬢のその後のその後~  作者: 遠野九重
第6章 黄金の女神、宰相の代行を果たす
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第52話 廃領置県のその後と、そもそものはじまり

12月12日(つまり今日)、書籍版1巻発売です!

 サイン伯爵らの反乱が鎮圧されてから1ヵ月後――

 王国歴1097年5月25日、ついに廃領置県が実施された。

 この日を境としてトリスタン王国からは「貴族領」が消え、すべての土地は国王のものとされた。

 

 もともとトリスタン王国には100あまりの貴族領が存在していたが、統合と再編成がなされ、全部で72の「県」が置かれることになった。


「あまり面積の広くない男爵領や子爵領はまとめてひとつにしたけれど、県の数はもうすこし減らしていきたいわ。段階的に進めていきましょうか」


 フィオリアとしては50前後の県がひとまずの目標になっていた。

 これは前世の故郷――日本を参考にしているためである。


「最初は問題も多いでしょうけど、いざとなれば私がフォローに回ればいいわね」


 フィオリアがその気になれば、トリスタン王国の端から端まで1時間弱で横断できる。

 普段は宮廷で宰相代行としての仕事をこなしつつ、各県でトラブルが起きればすぐに駆け付けるつもりだった。

 ……けれどフィオリアの予想に反し、宮廷を飛び出していくような事件はひとつも起こらなかった。


「なんだか拍子抜けね。……レクス、紅茶のお代わりをちょうだい」


 フィオリアは宮廷の宰相室でその日の書類仕事を片付けると、どこか退屈そうにため息をついた。

 そんな主の姿に、長身の青年執事――レクスは苦笑しつつ、ティーポットを傾けた。


「残念ですか、お嬢様」

「まさか。何事もないのが一番に決まってるでしょう? ……と言いたいところだけど、何もなさすぎるのも寂しいものね。子供が巣立つというのはこういう感覚なのかしら」

 

 現在、トリスタン王国の各県のほとんどは、宮廷から派遣された人材によって治められている。

 その人材の出所はどこかといえば、全員が全員、フローレンス公爵領だったりする。

 

 遡ること21年前――

 当時のフィオリアは領主代行として領内の教育改革にも大きな力を入れており、無償での義務教育を充実させるほか、人材育成のためにいくつもの専門学校を設置した。

 そのうちのひとつに官僚の養成機関もあり、ここで教育を受けた者たちが、現在、あちこちの県で行政の中心を担っている。


「お嬢様、ひとつ、教えていただいてもよろしいでしょうか」


 ふと。

 いつもと変わらぬ静謐な表情のまま、レクスが穏やかに声をかけてきた。


「廃領置県……貴族ではなく、中央から派遣した官僚たちに各地を治めさせる。国王をトップとして国をまとめるには最善の形かと思います。お嬢様は、この制度をいつから考えていたのですか?」

「さて、いつでしょうね?」


 意味深げに笑みを浮かべつつ、フィオリアは紅茶のカップに口をつけた。

 

「当ててごらんなさい。貴方のなかでは答えが出ているのでしょう、レクス?」

「その前に確認させてください。21年前、フローレンス公爵領に官僚の養成機関を置いたのは、廃領置県を見越してのことですね」

「ええ、間違いじゃないわ。付け加えるなら、そもそも私の教育改革すべてが、トリスタン王国全体の将来を見据えてのものよ。政治、経済、文化、技術……今後あらゆる方面で、その成果がでてくるでしょうね」


 フィオリアの話は、決して、誇大広告などではない。

 その言葉通り、のちの歴史において、フローレンス公爵領出身の人間はさまざまな分野においてトリスタン王国を大きく発展させていく。

 彼ら彼女らは、フィオリアの異名である“黄金の女神”にちなみ、“黄金の子ら”と呼ばれることになる。

 

「答えを言ってしまうと、私が廃領置県を考えたのは貴族学校に入学したあと……王都で暮らすようになって半年が過ぎたころかしら」


 フィオリアは語る。

 それは確か、15歳の秋だった、と。

 

 当時のフィオリアは貴族学校の寮を抜け出しては、さまざまな身分の人間たちと交流を持っていた。

 新進気鋭の若手貿易商だとか。

 各地を渡り歩く吟遊詩人だとか。

 百戦錬磨の傭兵隊長だとか。

 そんな人々と接するうち、フィオリアは世の中の流れというものを正確に掴んでいた。


 つまり――

 

 これからの時代、もっとも重要なのは経済力である。

 もはや貴族は、貴族というだけではその地位にいられない。

 生まれつきの身分に甘えていれば、ずる賢い商人たちからカモにされ、ボロボロになるまでむしり取られるだろう。

 これは貴族家だけでなく、国全体にも同じことが言える。

 ただ貴族に生まれ付いたというだけの人間に領地経営を任せていても、効率的な発展は望めない。

 むしろ商人や他国の食い物にされるだけ。

 トリスタン王国の未来を考えるなら、領地経営の専門家を育成し、彼らに任せるべきだ。


 そんな風に考えを進めていった結果が廃領置県であり――

 フローレンス公爵領の教育改革は、その準備段階だったのだ。

 


前書きにも書きましたが、書籍版、お買い上げいただけると幸いです。

web版から全面改稿して、フィオリアの暴れっぷりのみならず、恋愛展開もマシマシにしています。

必ずお楽しみ頂けるかと思いますので、なにとぞよろしくお願いいたします。

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