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第20話 楽しい楽しい予想外

日頃の行いが悪いから……


「フィア(ねえ)、足元、暗いから気を付けろよ」

「大丈夫よ。私、目はいい方だから」


 日に焼けた肌の青年に先導されて、洞窟の中を進む。

 フィオリアの前を行く彼は中々の長身で、広い背中をしている。

 チラリとこちらを振り返った横顔は端正に整っているが、右目は黒い眼帯に覆われ、右の額から左頬にかけて古い刀傷が刻まれていた。それが青年の印象に、ある種の凄みを与えている。

 

 剣呑、というべきか。

 腕利きの冒険者であろうとも、彼を前にすれば気圧されてしまうだろう。

 

 だがフィオリアはいつもどおり泰然としている。

 むしろ青年のほうこそ気を遣っているような様子だった。


「わざわざ来てくれてありがとな。会えてうれしいよ」


「私もよ、ラーズ。他の皆は元気にしているかしら」


「ああ。毎日のように飛んだり跳ねたりしてるぜ」


 青年――ラーズは、海賊の頭目である。

 ただし略奪などは行っていない。

 商船護衛や宝探しなどで生計を立てている。

 

 その意味では、陸地における"冒険者”に近い存在かもしれない。

 20年前、フィオリアによって拾われた孤児の一人である。

 一度はグランフォード商会に就職したものの、大海原への憧れが捨てきれず……5年ほど前、仲間を連れて独立した。

 その拠点は西の海に点在する孤島のひとつであり、現在、フィオリアはここを訪れていた。


「ダルク皇子の様子はどう?」


「情けねえもんだ。オレらにビビッて、隅でずっと震えてるよ。アレが次の皇帝ってんなら、レガリア帝国もいよいよ危ねえな」


 ダルク皇子は婚約者のアンネローゼを連れ、トリスタン王国を訪問する予定だった。

 移動手段は、船。

 ベルガリア大陸の西側を回り、ゆっくりと南へ向かう。

 

 フィオリアは海賊のラーズに命じてダルク皇子を誘拐させた……わけではない。

 いろいろと想定外の事態が起こったのだ。


 途中、ダルク皇子の船はいくつものトラブルに見舞われた。

 

 まずは、大嵐。

 船体は深刻なダメージを受け、そのまま立ち往生に陥ってしまう。


 続いては、反乱。

 ダルク皇子はアンネローゼとの婚約であちこちから嫉妬を買っており、不満分子が船内に潜伏していた。

 彼らは船の故障をチャンスと見て、ダルク皇子に襲い掛かったのだ。


 そして最後に、クラーケン。

 城塞に匹敵するほどの巨体を持つ、海の大魔獣。

 伝説上の存在とばかり言われていたが、何の前触れもなくその姿を現し、ダルク皇子の乗る船を叩き潰した。

 

 アンネローゼはなんとか救命ボートに乗り込み、レガリア帝国へと帰還した。

 しかしその一方、ダルク皇子は行方不明。

 必死の捜索が行われていた……ものの、ここでフィオリアのもとへ密かに連絡が入る。


 海賊のラーズが、偶然、ダルク皇子を救助していたのだ。

 相手はなにせ一国の王子である。

 下手に扱えばどうなるか分からない。

 困り果てたラーズは昔馴染みの"フィア姉ちゃん”に泣きついた、という次第である。


「皇子サマの部屋は、ここだ。……オレは外で待ってるぜ。あいつ、オレの顔を見ただけで腰を抜かしたからな」


 ちょっと拗ねたように呟くラーズ。

 彼なりに、自分の隻眼と顔の傷跡を気にしているのだ。


「あら、失礼な皇子ね。私は格好いいと思うけれど。ラーズ、貴方は20年前よりずっと素敵になったわ」


「……ありがとよ」


 ラーズは、ぷい、とそっぽを向いた。


「今は忙しいだろうけど、また、遊びに来いよ」


「ええ、レクスも連れてくるわ」


 レクスとラーズは幼馴染で、同じ孤児院の育ちだった。

 彼らなりに積もる話もあるだろう……などと考えつつ、フィオリアは部屋に入った。

 

 中は岩壁に囲まれているが、大きめの窓が設けられている。

 家具も一通り揃っており、ホテルとして営業できそうなほど。


 ベッドもかなり大きく、ふかふか。

 そこに、ダルク皇子の姿はあった。

 頭からすっぽり毛布をかぶって、小動物のように震えている。


「ぅぅぅ、ぁぁぁぁぁ……父上ぇぇ、母上ぇぇ…………たすけて、たすけてぇ…………」


 怯えきった涙声。

 ここにティアラがいれば「わたしに婚約破棄を突き付けたときの威勢はどこにいったんですか?」とため息をついていただろう。

 

「レガリア帝国の皇太子、ダルクで間違いないわね?」


「うう、ここから出してくれぇ…………えっ?」


 ピクリ、と動きを止めるダルク。

 もそもそ、と毛布から顔を出す。

 何度か目をパチクリさせた後、口を半開きにしたまま固まってしまった。


「……ひどい間抜け面ね」

 

 フィオリアは嘆息する。

 おそらくダルクも美形には違いないだろうが、いまは涙やら何やらでグチャグチャになっている。……さすがにこれは見ていられないわ。


「ほら、さっさと拭きなさい。貴方をここから連れ出してあげるから」


 部屋の隅に置いてあったタオルを掴むと、ダルクの顔へと押し付けた。

 ごしごし、ぐしぐし。

 多少、ダルクも見れる顔になった。

 まあいずれにせよ――


「しばらく寝てなさい。騒がれると面倒だもの」


 魔法で意識を刈り取る。

 ちょうど毛布がいいサイズだったので、気絶したダルクを簀巻きにし、ロープで縛りあげた。

 

「フィア姉、外まではオレが運ぶよ」


「これくらい軽いわよ」


「女には優しくする。それがラーズ一家の掟なんだ」


「いい子ね」


 ぽん、ぽん。

 ラーズの頭を、すこしつま先立ちになって撫でるフィオリア。


「背、追い抜いちまったな」


「大きく育ってくれて嬉しいわ。じゃあ、またね」


「ああ。……また来いよ、待ってるから」


 ラーズに見送られつつ、飛行魔法を発動させる。

 速度は、凄まじいものだった。

 音速域を突破し、衝撃波が波を裂く。……ちょっとダルク皇子の髪が削れたけれど、まあ、見なかったふり。将来ハゲたらごめんなさい。

 

 1日とかからず、トリスタン王国へと戻った。

 そのまま王立の施療院へ、簀巻きのダルク皇子を放り込む。

 ヴィンセント国王に報告すると「これはレガリア帝国へのカードになる。ありがとう」と感謝された。


「姉様、ひとつお伺いしたいことがあるんですけど……」


 フィオリアが王都の別邸に戻ると、ティアラが話しかけてきた。


「どうしてダルク様をトリスタン王国に連れてきたんですか? 別に、そのままレガリア帝国に返してもよかったんじゃ……」


「計画は臨機応変に修正すべきものだからよ」


 アンネローゼはすでにレガリア帝国へ戻っている。

 当然ながら、トリスタン王国への訪問は中止。

 クラーケンの襲撃でレガリア海軍も壊滅的な被害を受けており、次の訪問は年単位で延期だろう。


 フィオリアとしては、わざわざそれを待つつもりはない。


 ひとまずトリスタン王国でダルク皇子の治療を行わせ、彼の返還を口実としてレガリア帝国へ真正面から乗り込むつもりだった。……公衆の面前で、アンネローゼの化けの皮を剥ぐとしよう。


「ティアラ、もし暇ならダルク皇子のお見舞いでも行ってみる? もしかしたら貴女に惚れ直すかもしれないわよ」


「嫌です、絶対に嫌です」


 フィオリアとしては冗談のつもりだったが、ティアラはぶんぶんと首を横に振った。


「わたしには姉様さえいればいいんです。むしろこの世から男なんて死に絶えてしまえばいいのに……ふふ、ふふふふふ…………」

 






 * *






 とまあ、いくつか想定外の事象はあったものの、それはフィオリアを困らせるに至らなかった。

 構わないわむしろ楽しいじゃないと微笑み、計画に修正を加えていく。


「……どうせレガリア帝国に乗り込むのなら、ティアラの実家にも痛い目を見てもらいましょうか」


 ティアラの父親――シルベリア公爵は、濡れ衣を被せられた娘をまるで信じようとしなかった。

 ひたすらに怒り狂うばかりか、ティアラの髪を剣で切り落としたという。


 この一件は、彼女の心にとても深い傷を残している。


 ダルクという婚約者に裏切られるばかりか、父親からのこの仕打ち。

 男性不信に陥ってしまうのも無理はあるまい。


 ティアラが前へ進むためにも、シルベリア公爵にはきっちりと落とし前を付けさせるべきだろう。




 ――大切な義妹(いもうと)のためだもの。少しくらい加減が利かなくなっても仕方ないでしょう?



 

 やがてダルク皇子は回復し、レガリア帝国へ戻る日がやってきた。

 当然ながらフィオリアはそれに付き添うことになる。





次回、ついに直接対決


ちなみにフィオリアは幼い頃、きまぐれで仔イカを助けてます。

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