なろうラジオ大賞2 • 3 • 4 • 5 • 6 • 7 参加作品
年賀状で見栄を張る
「おはようございます」
「おはよう」
郵便受けから年賀状を取り出していたら隣の部屋の子供が挨拶して来た。
部屋に戻ったら、隣の部屋の住民たちの声が薄い壁越しに聞こえて来る。
『年賀状と新聞取ってきたよ』
『ありがとね』
去年まで私はこんなボロアパートじゃ無く、それなりの邸宅に住んでいた。
長年勤めた会社を定年退職し帰宅した私を待っていたのは、妻と子供たちに弁護士。
「何事だ?」と言う私に妻が答える。
「貴方の見栄に付き合うのはもうごめんです、だから離婚しましょう」
「どういう事だ、退職金を使って2人で旅行にでも行こうと思ってたのに」
「それも貴方の見栄の為でしょ」
そこで弁護士が割り込んで来て続きを話す。
「旅行なんて言っておられますが、貴方の見栄の為に貯金は殆んど無く、給料も見栄を張る貴方が散財して生活費を殆んど家に入れなかった為に、奥様がパートで得たお金で生活されていたのです。
ですから貴方が退職金を貴方の見栄の為に散財する前に離婚して、全財産の半分と貴方が家に入れなかった生活費の代わりに、奥様が使わざる得なかったパートで得たお金を請求させて頂きます。
嫌だと言って裁判に持ち込むのは勝手ですが、此方は20数年分の証拠がありますから絶対に勝ちます。
そうなった場合、私の弁護士費用も請求に上乗せしますので、貴方に残る金が減りますよ」
で、結局、邸宅は売りに出され、退職金と家を売った金の三分の二以上の金を妻だった女に取られる。
妻だった女は娘家族に引き取られ、引っ越しを手伝ってくれた息子は、「アンタか死んだら葬式は出してやるけど、それまで連絡しないでくれ」と言い捨て、私を此のボロアパートに残し帰って行った。
『年賀状を分けるぞ』
『ウン! あ、そう言えば隣の人に届いていた年賀状凄く多かったよ、これくらい枚数があった』
妻だった女や子供たちに「もう見栄を張るのを止めろ!」って言われたけど、長年の習慣はそう簡単に止められない。
分厚い束になっている年賀状は全部で300枚、自分で書いて勤めていた会社がある副都心まで行って投函してきた物だった。




