第九十九話「ジンの決意」
そんなこんなで夜も更けて、盛り上がりも最高潮だった。
男たちが肩を組んで歌ったり、女性陣が旦那の愚痴で盛り上がったり。
俺は酔っ払って疲れてきたので、少し離れたところで夜風を浴びていた。
魔族だからというわけじゃないだろうが、この村の明るい雰囲気にかなり気持ちが楽になっていた。
アレバさんと出会って、少しいろいろ考えることが多かった。
信念を貫くということ、夢を追いかけるということが、本当に幸せになるのだろうか?
この歳になって悩むことでもないと思うけど、どうしても頭の片隅からその疑問が離れなかったのだ。
——その剣は誰が為に。
ベアから受け継いだこの教えを、俺は言われたまま実践してきた。
彼女ような人になりたいと思って、人生を過ごしてきた。
俺は今更ながら、自分の生き方を考え直す時が来ているのかもしれない。
この村に来て、思い詰めすぎるのは良くないと分かった。
正直、彼らにはかなり救われた。
あのまま一人で思い悩んでいたら、もしかしたら当分迷路から抜け出せずにいたかもしれなかった。
「あれ、アリゼさんも休んでたんですね。ここ、座っても良いですか?」
そんな考え事をしていたらジン君がきた。
その言葉に俺は頷くと、彼は俺の隣に腰を下ろした。
「どう? ジン君も楽しんでる?」
「はい! あの場にいるだけで凄い楽しいです! まあ、今はちょっと疲れちゃいましたけど」
そう言ってジン君はてへへと笑う。
まあジン君はお酒も飲んでないわけだし、あの酔っ払いたちの場所にいたら疲れるよな。
逆に素面で対応できてるのも凄いけど。
俺たちはしばらくのんびり夜風に当たり、身体と脳を休める。
背後には喧噪の宴が、前面には静かな森が広がっていた。
「……アリゼさん。僕、決めました」
俺はなにをと聞こうとして、手伝いの時の話を思い出した。
「どうやって恩を返すか、ってことか?」
「はい。僕は畑仕事も狩りも家事すらもできません。でも昔から楽器が得意なんです。音楽ではあんまり役に立てないかもしれませんけど、それで仕事終わりのみんなを癒やせたらなって」
「おおっ、メチャクチャ良いじゃないか! 音楽が役に立たないなんて、そんなことないぞ。俺だったら、仕事終わりに楽器を演奏してくれて、癒やそうとしてくれるなんて最高だと思っちゃうけどな」
俺の言葉にジン君は照れくさそうに頬をかいて言った。
「……本当ですか?」
「ああ、もちろん本当だぞ。そもそも音楽が嫌いなヤツなんて聞いたことないしな」
そう言うと、ジン君はすっと立ち上がった。
それから俺に向き合うと、思い切り頭を下げた。
「ありがとうございます、アリゼさん。貴方のおかげで、僕はみんなに恩を返せそうです」
「俺は大したことはしてないよ。恩を返したいって想いも、自分にできることを見つけ出したのも、全部ジン君だからな」
面と向かって感謝の気持ちを言われ、俺は恥ずかしくなってそう謙遜した。
しかし、この気弱そうなジン君が面と向かって自分の気持ちを伝えたことに、俺はジン君もこの村の住人なのだと改めて再認識した。
「それじゃあ、早速一曲弾いてこようと思います」
「そうか。頑張れよ。頑張ったら頑張った分だけ、みんなに気持ちが伝わるからな」
そう言うと、ジン君ははっきりと頷いた。
もちろん分かっていたことだろうけど、ちゃんと言葉にすることに意味があると思ったから、俺はあえてそう言った。
酔っぱらいたちの喧噪の中に帰って行くジン君の背中を眺めながら、俺は再び自分のことに思いを巡らせるのだった。




