第九十二話「聖剣ジジニシア」
「アレバさん」
俺たちはアレバさんの家に戻ってきた。
彼は暖炉で薪を焼べて、安楽椅子に座ってボンヤリしていた。
アカネが声を掛けると、彼はゆっくりとこちらを向いた。
「おお、帰ったか」
「……聖鉱石、ありましたよ」
そう言ってアカネは水晶っぽい聖鉱石をアレバさんに見せた。
アレバさんは一瞬目を細め、アカネが持つ聖鉱石ジニアを見つめた。
「それが聖鉱石か……」
ポツリと、感慨深そうな声で呟く。
その声音には長年の積もった様々な想いが込められているような気がした。
そして彼は立ち上がると、黙って部屋の奥に向かう。
俺たちはそんな彼の背中を追って一緒に部屋の奥に向かった。
「ここが俺の仕事部屋だ。最近はめっきり使ってなかったが、道具のメンテナンスだけはしていたからな」
そこは煤けた鍛冶場だった。
確かに若干ほこりをかぶっているが、かなり綺麗に掃除されている。
それだけアレバさんが鍛冶に対して真摯に向き合っていたということだし、道具も大切にしていたということだ。
まあ、いつ聖鉱石を見つけ出してもいいように、整えていたってのもあると思うけど。
「それを貸してくれるか?」
「ええ、もちろんです」
アレバさんは恐る恐るアカネに手を伸ばして言った。
アカネはそれに頷くと、彼の手に聖鉱石を乗せた。
ゆっくりと、アレバさんは手を握りしめ聖鉱石の感触を確かめる。
そして手の中で何度か転がしながら、小さくため息をついた。
「さて。精錬して剣にするか」
小さな声で言うと、アレバさんは丁寧に聖鉱石を机に置き、精錬用の釜に薪を入れ始めた。
そしてその上に聖鉱石を置き直し、火を起こして、フイゴで風を送る。
急速に部屋の気温が上がり、酸素が減って息苦しくなってくる。
だが俺たちは誰一人として部屋から離れず、じっと聖鉱石が溶けて容器に溜まっていくのを見ていた。
かなり時間が経ち、聖鉱石ジニアで作られたインゴットが一つできた。
その熱が冷め切らないうちにアレバさんは鉄床に置き直し、金槌で叩いては折り返しながら剣として整形し始める。
しばらくして——。
「でき、た……」
熱された剣身を見つめながらアレバさんがそう零す。
どうやらできあがったみたいだった。
しかし、途中から荒い息を吐き続けていたアレバさんは、とうとうフラリと倒れてしまった。
「アレバさん!」
慌ててみんなで駆け寄る。
どうやら気を失ってしまっているみたいだった。
俺がアレバさんを背負い、ベッドまで連れていく。
しかし三日経ってもまだ目を覚ます様子はなかった。
ドワーフの医者も呼び、看病していたそのとき。
ようやくアレバさんのまぶたが持ち上がって、三日目にして目を開くのだった。




