第六十九話「エルフの国の王都です」
いくつかの街を経由しながら俺たちはエルフの国の王都に辿り着こうとしていた。
エルフの街は基本人間の街と代わり映えがなかったが、王都だけは少し趣が違うらしい。
「そろそろ大きな風車が見えてくるはずだ」
山を越え谷に流れる川に添い降っているとデリアは言った。
「風車……?」
その言葉にルインが不思議そうに首を傾げる。
デリアは頷くとさらに説明を加えた。
「ああ、エルフの王都には天を貫くほど大きな風車が建っていて、それが王城の役割を果たしてるんだ」
へえ、そいつは珍しい。
しかしなんで風車なのだろう?
少し疑問に思い、俺はデリアに尋ねてみる。
「何で風車が王城の役割を担ってるんだ? 理由があるんだろ?」
「ああ、それ単純に王城内の魔力を作り出してるのが風車だからだよ」
「風車で魔力を……?」
風車というものは基本、風速を測ったり製粉をしたりするときに使うものだ。
エネルギーを生み出すような機能はなかったはずだが。
しかし俺の問いにデリアはもう一度頷いて言った。
「技術に関しては教えられないが、風力から魔力を生み出すことが出来る機器があるんだ。それを使ってエルフの王都には結界が張られている」
それは凄い。
流石は長寿のエルフといったところか。
それとも超大陸アベルのほうが技術が進んでいるのだろうか?
そう感心していると、ふとナナが尋ねた。
「でも結界が張られてたら私たちには見えないんじゃない!?」
確かに言われてみれば。
結界の種類にもよるだろうが、普通なら姿を隠したりするし、質の良いものだと存在自体を認識させないというものまである。
「それは前にペンダントを渡しておいただろ?」
「ああ! もしかしてこれ!?」
納得したような声を上げて、ナナは首元から青色の宝石が埋め込まれたペンダントを取り出す。
ちょっと前にデリアから何も言わずに手渡されたものだが、そんな効果があったとは。
ちなみにナナだけではなく、俺とルインにももちろん手渡されていた。
「それを持っていれば王都の結界を無効化できる。いわゆる通行証みたいなものだな」
「そんなものを簡単に渡していいの?」
「まあ三人が悪い人ではないことは何となく分かったからな。ちなみに旅の途中で不穏な動きがあれば偽のペンダントを渡して、永遠に出られない迷宮に送るところだったぞ」
マジか……。
危なかったってことか。
ナナとルインもゾッとした表情をしている。
「ははっ、半分は冗談だがな」
「半分は本気じゃないか……」
俺が言うとデリアは笑って誤魔化した。
ともかく俺たちは川を下り、しばらくすると言われた通り風車が目に入ってきた。
「うわ~! 凄い綺麗な街! ちゃんと風車もある!」
その街はところどころに小さな滝が流れていて、点々と小さな風車が建ち並んでいる。
その中心に天に貫くほどの大きな風車が建っていて、存在感を放っていた。
「この街は『緑と水の都』なんて呼ばれるくらいだからな。美しさに関しては随一だぞ」
その名を冠するのも納得の風景だった。
しかし俺たちが街に入ろうとしてすぐに――。
「止まりなさい。ひとまずフードを脱ぐように」
衛兵たちに囲まれ剣の切っ先を向けられていた。
確かに俺たちは人間だとバレないようにフードを被っていたのだが……これじゃあ怪しさ満点だ。
ちなみにデリアも王女だと騒ぎにならないように外套のフードを被っている。
「どうした、脱げないのか?」
一向にフードを脱ごうとしない俺たちに疑惑の視線を向けてくる衛兵たち。
話し合うこともできないのでどうすれいいのか悩んでいると、唐突にデリアがフードを脱いだ。
「私です。第三王女デリミーシュ・ミミアです。この者たちは私の従者になります」
「――なっ!?」
デリアの姿を見た衛兵たちは目を見開き驚きの表情をする。
それからそのうちの一人が震えた声を零した。
「戻ってこられたのですね、デリミーシュ様……」
「はい、王女としての責務を果たすべく、戻ってきました。もう逃げるつもりはありません」
覚悟の決まった表情でそう言うデリアは凛々しい。
それを聞いた衛兵たちは感極まった感じで頭を垂れた。
「私たちエルフはみんなデリミーシュ様の帰りを待ち望んでいました。おかえりなさいませ、デリミーシュ様」
なんだ、デリアは十分慕われているじゃないか。
嫌われてたりしたらどうしようとかちょっと考えていたが、杞憂に終わったみたいだ。
「しかしデリアの本名はデリミーシュって言うんだな」
デリアの耳元で囁くように言う。
すると同じく小さい声で申し訳なさそうに言った。
「流石に本名を言うわけにはいかなくてな。それに親しいものにはデリアと呼ばれている」
これで安心安心、そう思っていたのもつかの間、今度は衛兵たちの視線が俺たちに向く。
「それで、こちらの方たちはフードを脱いでくださらないのですか?」
「あー、ええと……そうですねぇ……」
困ったように頬をかくデリア。
しかし逃げられないと思ったのか、謝るように一瞬頭を下げると一番近くにいた俺のフードを脱がすのだった。




