第六十五話「王都への道中の話」
俺たちは現在、エルフの国の王都に向かっていた。
デリアが助けられたお礼をしたいとのことだったので、俺は王城に隔離されているニーナを助けるのを手伝ってほしいとお願いしたのだ。
彼女は一瞬躊躇ったが、意外と簡単に手伝ってくれることになった。
どうやら彼女自身も王城に戻らないといけないと思っていたらしい。
ちなみにドーイは町に残った。
もし飛行船が完成したら追いかけて王城に向かうと言っていた。
それと、エルフの国はミミア王国という名前らしい。
この超大陸アベルにはミミア王国のほかに、ドワーフ族の国ガンジア王国、獣人族の国ビーミト王国、魔族の国ネーシス王国があるとデリアは教えてくれた。
エルフは排他的で、ドワーフは頑固、獣人は自由で、魔族は実力主義と、それぞれに特徴があるみたいだ。
つまりミミア王国の王都に辿り着いても、ニーナの救出は一筋縄ではいかないとのこと。
デリアは一応第三王女であるが、家出をした身であり、そこも足かせになる可能性があるとも言った。
道中の森で一休みすることになった。
小川が流れていて、水浴びも出来る場所だ。
「俺はみんなが水浴びをしている間に獲物を狩ってくるよ」
「うん、お願い!」
俺はそう言って女性陣が水浴びしている間に夕食の確保をすることにした。
しばらく森の中を歩いていると、鹿型の魔物に出会った。
こっちの大陸の魔物に関する情報は持っていないので、なんていう名前の魔物かは分からないが、とりあえず今日の夕食はこいつに決定する。
鞘から剣を引き抜いて身体強化を使って一気に距離を縮める。
それから一閃。
意外と簡単に倒せてしまった。
俺はそいつを背負って簡易拠点に戻ると、血抜きをして解体した。
その途中に女性陣が帰ってくる。
「ああ、トナトリスを狩ったのか」
俺の解体している鹿型の魔物を見てデリアが言った。
「トナトリス?」
「この魔物の名前だ。かなりレアな魔物でなかなか美味しかったはずだぞ」
「ほお。それは運がいいな」
どこか他人事のように俺は言う。
レアな魔物と言われてもあまりピンとこない。
この大陸の魔物について何も知らないからな。
しかし美味しいのなら運がいいのだろう。
「流石はアリゼさんだね」
「久々にちゃんとお肉を食べれるから楽しみ!」
確かに町を出てからずっと干し肉しか食べてこなかった。
ちゃんとした食事は一週間ぶりくらいだろうか。
しかし王都に行くまでここまで時間がかかるとなると、カミアのありがたさが身に染みるな。
彼も連れてくれば良かったと今更思う。
それから日も沈んできたので焚き火を起こし、解体した肉を焼いていく。
「この匂いは食欲をそそるな」
「うん! すっごくおなかすいたね!」
デリアの呟きにナナが元気に言った。
お腹が空いている割には元気そうだ。
それから肉を焼き終わるとみんなに配る。
「「それじゃあ、いただきます!」」
うん、やっぱり久々に食べる新鮮な肉は美味い。
しかもこのトナトリスはなかなか柔らかくていい肉だ。
夢中になって食べてしまい、すぐに無くなってしまった。
「あー、美味しかった」
食べ終えたルインもお腹をさすりながらそう言った。
食事を終えたらすぐに就寝だ。
日が昇り始める頃には移動を始めたい。
「それじゃあ二人一組で見張りをしながら夜を過ごそう」
俺の言葉にみんな頷く。
そしてデリアが聞いてきた。
「しかしペアはどうやって決めるんだ?」
確かに。
どうするか。
少し迷っていたらナナが言った。
「それじゃあじゃんけんで決めよう! それなら平等だもんね!」
それがいい。
俺たちは頷くとじゃんけんをした。
俺とデリア、ルインとナナのペアになる。
「それじゃあルインたちが先に寝ていいぞ」
「ありがとう。じゃあ先に寝るね」
俺の言葉にルインは頷くと、ナナと一緒にすぐに横になった。
疲れていたのかものの数分で寝息が聞こえ始める。
俺とデリアは黙って見張りをしていたが、黙ったままだと眠りそうなのかデリアが話しかけてきた。
「なあ、その王城にいるニーナって少女はどんな人なんだ?」
「もう少女って年齢でもなくなってきてると思うけどね。彼女は寡黙で言葉数は少ないし、表情も乏しいけど、なかなか感情豊かな面白い子だぞ」
俺はそうしてニーナとの思い出を語り始めるのだった。




