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【web版】拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた。  作者: AteRa
第九章:獣人の国・ビーミト王国編

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第百八十九話「勝利」

 空間が悲鳴を上げるほどの魔力の暴走。

 理性を失い、ただ破壊の化身と化したアルベルトが、そのおぞましい巨腕を振り下ろす。


「グオォォォォッ!!」


 赤い閃光が走り、俺たちの足元が爆ぜた。


「くっ……! みんな、散れ!」


 俺の指示を待つまでもなく、全員が瞬時に反応していた。

 バランとアカネが左右に飛び出し、巨大な瓦礫を盾にして爆風を防ぐ。

 ルルネとルインは爆煙の中を疾走し、アルベルトの死角へと回り込む。


「逃げ惑うな、虫ケラ共がァッ!!」


 アルベルトの背中から伸びた魔力の翼が、無数の赤い羽を撒き散らした。

 それは一つ一つが着弾と同時に爆発する、自律誘導弾だ。


「させないよ! 《イージス・フィールド》!」

「《多重魔法障壁・展開》!」


 アーシャとニーナが即座に反応する。

 広範囲に展開された黄金の結界と、幾重にも重なる魔法の盾が、降り注ぐ爆撃を空中で受け止めた。

 激しい衝撃音が連続し、障壁に亀裂が走るが、二人は歯を食いしばって耐える。


「今です! みなさん!」

「隙を作ります! 《ホーリー・レイ》!」


 ミアが杖を掲げ、天井の穴から注ぐ赤き月の光に対抗するように、清浄な聖なる光の柱を落とした。

 直撃を受けたアルベルトが怯み、その動きが一瞬止まる。


「オラァッ! まずは一発!」


 その隙を逃さず、バランが懐に飛び込んだ。

 全身全霊を込めたアッパーカットが、アルベルトの顎を打ち抜く。

 巨体がわずかに浮いたところへ、アカネが大剣を横薙ぎに叩き込んだ。


「《剛剣・断ち割り》ッ!」


 ズドンッ! という重い音と共に、アルベルトが壁際まで吹き飛ばされる。

 だが、奴はすぐに体勢を立て直し、獣のような咆哮と共に魔力を膨張させた。


「効かぬ……効かぬわぁッ!! 私は神だ! 不滅だァッ!!」


 傷口から溢れ出る赤い光が、瞬く間に肉体を修復していく。

《英雄の素》と赤き月の供給がある限り、奴は無限に再生し続けるのか。


「……いいや、終わりにする」


 俺は剣を構え直し、息を吸い込んだ。

 身体中の血液が沸騰するような感覚。

《限界突破》の反動で筋肉が悲鳴を上げているが、そんなものは無視だ。


「ルイン! もう一度だ! あいつの核を断つ!」

「うん!」


 ルインが駆け寄ってくる。

 彼女の手にある《エクスカリバー》は、以前にも増して強い輝きを放っていた。


「僕も行きます! あいつの再生を阻害します!」


 ネシウスが俺たちの背後に付く。

 エリスとリアも短剣を構え、左右に展開した。


「ナナ、ニーナ! 全力で道を開け!」

「了解! 最大出力で行くわよ!」

「どっかーんってしちゃうから!」


 二人の魔術師が詠唱を合わせる。

 雷と炎が螺旋を描きながら融合し、巨大な奔流となってアルベルトへ殺到する。


「小賢しいぃぃッ!」


 アルベルトが両手から赤い波動を放ち、魔法の奔流と激突させる。

 拮抗する力と力。

 空間が歪み、スパークが弾ける。


「今だッ! 突っ込むぞ!」


 その爆発の余波を突き破り、俺たちは走った。


「邪魔だァッ!」


 アルベルトが触手のような魔力の腕を伸ばし、俺たちを薙ぎ払おうとする。


「させないわ!」


 ルルネが空中で身を翻し、双剣で触手を切り刻む。

 斬られた端から再生しようとする触手を、今度はネシウスが魔力干渉で阻害する。


「そこだ、ルイン!」

「はあぁぁぁぁっ!」


 ルインが跳躍した。

 黄金の光を纏った聖剣が、アルベルトの胸――先ほど刻まれた傷口へと突き刺さる。


「グアァァァァァッ!?」


 アルベルトが絶叫する。

 聖剣の浄化の力が、奴の体内の赤い魔力を焼き尽くしていく。

 だが、それでも奴は倒れない。

 ルインの剣を素手で掴み、へし折らんばかりの力で握りしめた。


「貴様らごときが……神に届くと思うなぁッ!!」


 アルベルトの全身から棘のような魔力が噴出し、ルインを串刺しにしようとする。


「ルインッ!」


 俺は地面を蹴り砕き、加速した。

 視界が白く染まるほどの速度。

 身体の限界などとうに超えている。


だが、届く。

 この一瞬のために、俺は生きてきたんだ。


 脳裏に浮かぶのは、十年前のあの日。

 泣きじゃくる少女たち。

 そして今、俺と共に戦う、誇り高き英雄たちの姿。


 ――その剣は誰が為に。


「俺の剣は……!」


 俺は剣を振りかぶった。

 魔力も、体力も、魂も、全てをこの一撃に乗せる。


家族(こいつら)を守るためにあるんだよォォォッ!!」


 俺の剣が、ルインの聖剣ごと、アルベルトの胸を貫いた。

 同時に、俺の身体から溢れ出した魔力が、ルインの聖剣の輝きと共鳴し、白銀と黄金が混ざり合った巨大な光の刃となる。


「な、なん……だ……この光は……!?」


 アルベルトの顔が、驚愕と恐怖に歪む。

 奴の赤いオーラが、俺たちの光に飲み込まれていく。


「これが、人の絆だ! 思い上がった野望ごと、消え失せろォッ!!」


 俺とルイン、二人の叫びが重なる。

 俺たちは渾身の力で剣を振り抜いた。


 ズバァァァンッ!!


 閃光が奔り、アルベルトの巨体が袈裟懸けに両断される。

 切り裂かれた傷口から溢れたのは血ではなく、制御を失った暴走する魔力の光だった。


「ば、馬鹿な……。私は……神に……世界を……」


 アルベルトが天に手を伸ばす。

 その指先が崩れ、塵となって消えていく。

 赤き月から供給されていた魔力の糸が断ち切られ、奴の肉体は急速に崩壊を始めた。


「オオオオオオォォォォッ……!!」


 断末魔の叫びと共に、アルベルト公爵の身体は光の粒子となって四散した。

 同時に、施設を覆っていた赤い結界がガラスのように砕け散り、天井の穴から見えていた不吉な赤き月が、本来の静かな青白い月へと戻っていく。


 ドサッ。


 全てが終わった静寂の中、俺は膝から崩れ落ちた。

 手から剣が滑り落ちる。

 もう、指一本動かせないほどの脱力感。


「アリゼさん!」


 ルインが慌てて駆け寄ってきて、俺の身体を支える。

 彼女の目には涙が浮かんでいたが、その顔は安堵の笑顔でくしゃくしゃだった。


「……やったな、ルイン」

「うん! やったよ、アリゼさん! 私たちの勝ちだ!」


 周囲を見回すと、仲間たちも皆、ボロボロになりながらも互いに肩を叩き合い、勝利を分かち合っていた。

 バランがニカッと笑い、親指を立てて見せる。


 アカネ、ルルネ、ニーナ、ミア、アーシャ、ナナ、エリス、リア、ネシウス。

 全員無事だ。


 俺は大きく息を吐き、天井の穴から見える月を見上げた。

 清らかな月光が、傷ついた俺たちを優しく照らしている。

 長かった戦いが、終わった。

 俺たちは守り抜いたのだ。

 この大陸の未来と、俺たちのかけがえのない居場所を。


 意識が遠のく中、誰かの温かい手が俺の頬に触れるのを感じながら、俺は深い眠りへと落ちていった。

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