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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第六章 鋼鉄の処女
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楽しいゲーム


 短いようで長い、二度目の直接吸血行為は終わった。

 牙を突き立てても、昔と違って貴樹についた傷はすぐに治ってしまうのだが、ロザリーは「まだ少し傷が残ってるわ」などと主張し、吸血後もしばらくの間傷口を舐めてくれたりした。


 もう少し血が飲みたいのを我慢していたせいか、それともまさかの友好表現の一つだったのかは判別しないが、どんな羞恥プレイだよと貴樹は思った。

 特に恥ずかしいのは、暗闇とはいえ、そうやって舐められるのが決して嫌ではなかったことだろう。


 とにかく、娯楽室を出た後は、ロザリーは支度を済ませた使用人達と共に、地下フロア内に用意された帰還用の魔法陣に立った。本当に時間がないらしい。







「国家存亡の戦いだから、ヨハン達も一緒に来るときかなくて……ごめんね。その代わり、留守の間、この地下フロアは自由に使用してくれて構わないわ。脱出用の魔法陣も、万一の時は迷わずに利用してね」


「ああ、わかってる。むしろ、ここを使わせてもらえて有り難い。外はヤバいもんなあ」

「……どうぞ、ご無事で」


 貴樹と一緒に見送りに来た瑠衣が低頭したが、ロザリーはそっちには微かに頷いただけだった。

 ただ、なかなか去り難いらしく、貴樹のそばに戻ってきて、やたらと注意事項を並べた。


「ミラー魔法での定時連絡にはちゃんと出てね。それと、もしもこの地下まで敵が押し寄せてきたら、わたしの為にここを死守なんて考えず、安全圏まですぐに逃げて。あと、戦う時は無理しないでね。それから体調管理には十分に――」


「お、おまえは俺のかーちゃんか!」

 本物の母親は、既に幼少の頃に離婚してどこかへ去っているのだが、とにかく貴樹は苦笑して押し留めた。


「むしろ俺は、ロザリーの方が心配だよ。戦いに赴くんだから」

「わたしは大丈夫!」


 ロザリーはきっぱり言い切り、なぜかふいに貴樹を抱き締めた。

「ど、どうした!?」

 抱かれた貴樹が焦っていると、耳元で囁かれた。



「無闇に女の子を吸血して、従属化しちゃだめよ……特に殿下はだめっ。どうしてもと言うなら、戻ってきた時、わたしが幾らでも自分の血を吸わせてあげるから!」



「お、おぉ……」

 そんな気はなかったが、改めて警告されると驚く。

 あと、貴樹的には、ロザリーは常に血を「提供される側」だと思っていたので、まさか自分も提供する気があるとは思わなかった。

 しかも、口調からして本気らしい。

 前に聞いた話では、こいつには臣民達がいつも大喜びで鮮血を献上しているとか聞いたのに。


「余計な心配してないで、ほら、そろそろ行けよ。みんな後ろで辛抱強く待ってるぞ」


 というか、むしろヨハンを始めとする男女の使用人は、ぽかんと口を開けてロザリーと貴樹に注目していた。自分達の主人が、まさか人間を抱き締めたりするとは思わなかったのかもしれない。

「……まあ、俺も今や半分ヴァンパイアだけど」


「そう、貴樹はわたしの同種だし、わたしもまた貴樹の同種よ! お互いに助け合って生きていきましょう……これからも、永遠に」


 こっちの独白にわざわざ囁き返し、ロザリーはやっと離れて魔法陣の中へ戻った。

 例によって魔法陣が輝き始めると、最後にウインクして投げキッスなどしてくれた。

 仮に、貴樹の同級生の女の子が同じことをやってもギャグにしかならないだろうが、ロザリーがやるとまるで映画のワンシーンのようにしっくりきて違和感がない。

 さすがである。


「じゃあ、敵を叩きのめしてくるわ! ファルネングルージュっ」


 最後のセリフは意味がわからないが、彼女の背後で一斉に使用人がざわついた。

 お陰でだいぶ気になったものの、もう訊き返す時間がない。


「おおっ。なんかあったら、本当に呼んでくれよっ」

「貴方もね、貴樹っ」


 それを最後に、ロザリーと使用人達の姿は綺麗に消え、魔法陣の輝きも収まった。


   






「いやー、ついに二人ぼっちだな、瑠衣」

 貴樹がやれやれという調子で振り向くと、なぜか涙目の瑠衣と目があった。

「ど、どうした!?」

「……瑠衣もずっとここにいたのに……ロザリーさん、瑠衣は眼中にないような素振りでした。終始、お兄様ばかりご覧になっていて。き、嫌われているのでしょうか、あの方に」

「い、いやいや、それはないだろ」

 貴樹は慌てて瑠衣の手を引き、その場を離れた。


「いいか、あいつは元々、そういうヤツなんだ。なにせ、小なりとはいえ、今や国家の代表だし。悪気はなくても、貴族育ちだしな」

「でも、最後の――」

「え、なに?」

 とりあえず、瑠衣を伴って応接室に入ろうとしていた貴樹は、気になって振り返った。

「な、なんでもありません」

「……そう?」

 ロザリーの最後の言葉の解説でもしてくれるのかと思ったが、当てが外れた。



 貴樹は肩をすくめて瑠衣と一緒に応接室に入り、まずは、このところよく見ているテレビのスイッチを入れる。



「とにかく、新情報でもないか調べてから、今後のことを二人で――」

 言いかけた貴樹は、ソファーに座るのも忘れて画面を見た。

 なぜかいつもの特別番組ではなく、スタジオに立つ少女の姿が大写しになったからだ。


『そうそう、おまえ達はミレーヌをちゃんと映しなさい。余計な小細工するとひどいわよ?』


 ドスの利いた脅しの後、彼女の顔がアップになった。

 ……ロザリーと違い、白目の部分までうっすらと赤く染まった瞳が、こちらを見る。


『はぁい! ミレーヌ・シャリエールでぇーーーす! 今日はみんなに、楽しいゲームの話をしてあげるために来たわ』


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