エピローグ
あの事件から一か月が経ち、夏休みとなった。
――あれからあった事を、軽く話そうと思う。
そうだな……まずは鬼塚の事を話そうか。猿石君がSNSや近所の人から情報を仕入れてきたみたいで教えてくれたんだが……あの事件の後、鬼塚は学校を辞めて、静かな田舎にある親戚の家にいったそうだ。
なんでも精神を病んでしまい、まるで人形のようになってしまったそうだ……同情の余地は全くないが、悲惨な終わり方だなとは思った。
それに、あんな映像を全世界に配信されてしまったんだから、どこに行っても、もうまともな生活は出来ないと思う。
次に黒鉄と姫宮だが……どうやら警察のお世話になっているようだ。この件に関してはニュースにもなっていて、一人の少女を襲った二人が捕まったと報道されていた。
黒鉄は元々素行が悪かったから、この件で少年院行きは免れられないと思う。姫宮に関しても、その後退学が決まり、学校を静かに去っていた。
姫宮の悪評はかなり広まっていたから、この退学が学校に広まった時はかなり話題になっていたんだが……結構な人数の生徒が、姫宮の退学を喜んだり、挙句の果てにSNSで悪口を言ったりしていた。
気持ちはわからなくもない……姫宮も男子を騙して自分のおもちゃにするというあくどい事をやってたしな……でも、悪人だからといって、寄ってたかって部外者が叩くのは間違ってると思う。
それと花園に関してだが、椅子を投げられた時以来、今も全く姿を見せていない。今はどこで何をしているのか……これに関しては情報がない。一応学校に在籍はしているみたいだが、完全に不登校になっているようだ。
あとは……そうだ、鬼塚に脅されていた連中だが、事情が事情なので、反省文程度で済んだそうだ。
あいつらがどうなろうと俺には関係ないけど、あいつらも被害者だっていうのは間違いないし……その程度の罰が妥当だと思う。
他校の不良達はどうなったのかわからない。それなりの罰は与えられたと信じたい。
とまあ――俺達に酷い事をしてきた主犯格達は、揃って俺達の前から消えたという事だ。
次に、友達のその後の事を話そう。
とはいっても……正直いつも通り過ぎて、あまり話す事はない。猿石君がふざけ、出雲さんが粛清し、山吹さんは相変わらず俺達の恋愛沙汰で興奮している。
あ、一つ変わった事があったな。最近出雲さんが猿石君にアプローチを始めてさ。この前、ようやく猿石君の服の裾を掴む所までは前進していたんだ。
……おいそこ、幼馴染のくせにそんな程度しか出来ないのかよって言うな。出雲さん、めちゃくちゃ必死に頑張って、なんとかそこまで到達したんだからな。
そして最後に……日和の事を話させてくれ。
あの日からしばらくの間、日和は俺や猿石君といった親しい人間以外の男を怖がるようになってしまった。それこそ、一人でいると震えあがってしまうほどに。
今では怖がる事は多少は減ったが、それでも不良のような見た目の男には怖がる事があるため、俺や友達のみんなで日和をサポートしている。
あと、あの日から日和はほとんどの時間を俺の部屋で過ごしている。ほぼ同棲状態だ。日和の部屋は、私物を置くためだけの部屋となっている。
ごはんを一緒に作ったり食べるのは今まで通りだが、変わった点として、週に数回だったのが、毎日同じ布団で寝るようになった事と、抱きしめ合いながらいちゃいちゃするようになったり、たまに風呂を一緒に入るようになった。
……今更風呂がどうとか言う必要もないだろ……?
なんにせよ、この一か月で日和に笑顔が少しでも戻ってきたのが、俺には何よりも嬉しい。家にいる時以外はずっと怯えていて、見てられないくらいだったからさ……。
まあ長々と話をしたけど……俺達には、目標だった幸せな日常、そして楽しい学校生活を取り戻せたという訳だ。
そんな平和な日々を送る俺は、真っ白なタキシードを着て、大きな姿見の前に立っている。
「とってもお似合いですね~!」
「ど、どうも」
俺の着替えの手伝いをしてくれた、若くて明るいお兄さんがニコニコしながら俺を褒めてくれた。
なんでこんな服を着ているのかだけど、前に日和がウェディングドレスを着てみたいと言っていた事を覚えていた俺が、こっそり応募したブライダルフェアというのに運よく当選したからだ。
ブライダルフェアとは、簡単に言ってしまうと、結婚式場が主催するイベントの総称だ。
一口にブライダルフェアと言っても、式場見学だったり、結婚の相談など、色々あるらしいのだが、今回俺達が応募したのは、ドレスやタキシードを試着できるというもので、写真も撮ってくれるそうだ。
二組限定のキャンペーンで、夏休みという事もあって応募が多かったらしいんだが……ホントに運が良かった。
「では、彼女様がご準備できたら撮影を始めますので、もうしばらくお待ちくださいませ~」
「わかりました」
そう言うと、お兄さんは部屋を出て何処かへと行ってしまった。
あー緊張してきた……ドレスを着た日和……きっと可愛いだろうな……どんなドレスなのかは、着てみてからのお楽しみということで、俺達は全く知らされていないから、なおさら緊張する。
「お待たせいたしました。彼女様のご準備が出来ましたので、ご案内致します」
「は、はい」
さっきの人ではなく、日和の担当をしていた女の人に呼ばれた俺は、隣の部屋に移動する。
部屋の中には、真っ白なウェディングドレスを着た日和が、化粧台の前に静かに座っていた。いつも降ろしている綺麗な銀の髪をアップにし、頭にはベールも乗せていて……この時点で既にドキドキが最高潮になってしまった。
「では私はカメラマンの準備が出来てるか確認してまいりますので、この部屋でお待ちください」
「はい」
女の人がいなくなり、俺達以外の人間がいなくなったタイミングで、俺は日和にゆっくりと近づくと、日和は俺の方へと顔を向けてくれた。
「……ヒデくん」
「日和……」
日和は、純白のウェディングドレスを着ていて、薄く化粧もしているおかげで、日和の良さが最大限に引き出されている。
やべえ、どうしよう……かわいいとか綺麗とかそんな次元の話じゃない。俺のような凡人には、ただ日和の美しさに見惚れる事しか出来そうもない。
「えっと、どうかな……似合う……?」
「…………」
「ヒデくん?」
「……綺麗だ」
モジモジしながら聞いてくる日和に率直な感想を伝えると、日和はパァっと表情を明るくさせた。
「ほ、ホントに?」
「ああ。まるで天使そのものだ」
「そ、それは言いすぎだよ」
「言いすぎじゃない」
「えへへ……ヒデくんも凄くカッコイイ。惚れ直しちゃう」
日和は少しだらしない笑みを浮かべながら、俺の身体をペタペタと触る。
あー……可愛すぎる。今すぐにでも抱きしめたいくらいだけど……流石にそんな事をするわけにはいかない。折角のドレスがぐちゃぐちゃになっちゃうからな。
「これから撮る写真、お父さんとお母さんに見せたらどんな反応するかな」
「流華さんはめっちゃはしゃぎそうな気がするな。あと、速攻でドレスを取り寄せて生で見たがりそう」
「ふふっ、やっちゃいそうだね」
「誠司さんは……ちょっと読みにくいな」
「お父さん、もしかしたら泣いちゃうかも」
誠司さんが泣く!? あの厳格そうで真面目な誠司さんが泣くところなんて、全く想像出来ないんだけど!
「あと、お母さんがもしホントにドレスを取り寄せたら、そのままお父さんが式場を貸し切って式をあげちゃうかも」
「マジかよ……」
流石にそんな事は……いや、金持ちは常人の感覚じゃ測れないし……日和が言うんだから、ホントにやってしまうかもしれない。
「結婚式……早くやりたい」
「気持ちはわかるけど、俺達はまだ結婚できる歳じゃないからな」
「そうだね。あ、それならせめてあれだけはやりたい」
あれってなんだろう? そんな事を呑気に考えていたら、日和は俺の手を取り、頬を赤らめながら微笑んだ。
「私は……ヒデくんを夫とし、病めるときも健やかなるときも、愛をもって支える事を誓います」
「……それって」
「牧師さんの前でする誓いの言葉……こんな感じかなって。えへへ……ホントは牧師さんが言う事だけどね。式はまだあげられないけど、ドレスを着たんだから、言ってみたかったの」
「……俺も……日和を妻とし、病めるときも健やかなるときも、愛をもって支える事を誓います」
「ヒデくん……」
俺は愛の誓いをしてから日和を抱き寄せ、日和の頬を優しく撫でると、それに応えるように、日和はゆっくりと目を閉じた。
「んっ……」
ほんの数秒間の、触れるだけの優しいキス――でもそれは、俺達のこの幸せな気持ちを互いに伝え合うのには十分すぎるものだった。
「日和、愛してるよ」
「ヒデくん、愛してます」
唇を放してから、俺達は互いに愛を誓いあう――そのタイミングがあまりにも合いすぎてて、思わず二人して笑ってしまった。
「ははっ。息ぴったりだな、俺達」
「私とヒデくんなら、当然だよ」
「ずいぶん大きく出たな」
「うん。だって……愛し合ってるんだもん」
「日和……」
「ヒデくん……」
「お待たせしました。カメラマンの準備が出来たので、撮影を始めます」
このままだとイチャイチャしはじめてしまいそうな空気になりかけたが、日和の担当の女の人が戻ってきたおかげで、なんとか踏みとどまることが出来た。
危ない危ない……完全にバカップルになりつつあるな……こんなんじゃ、またみんなにからかわれてしまう。
「じゃあ……行こうか!」
「うん!」
俺は満面の笑みの日和の手を取りながら、控室を後にする。
これから先、様々な試練が俺達を待ち構えているだろう。もしかしたら、先日の事件よりも、更に厳しいものかもしれない。
でも……俺は何があっても大丈夫だと胸を張って言える。
何故なら、あの絶望の日々の時の、一人ぼっちと決めつけていた俺と、今の俺は違う。
今の俺には……大切な家族、大切な友達、大切な人達。そして、最愛の人が傍にいるから。
俺を絶望から救ってくれてありがとう。学校が楽しいって思える生活をくれてありがとう。幸せな気持ちを教えてくれて。
本当に、ありがとう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。これにて英雄と日和の物語は完結となります。ここまでお付き合いしていただいた方、応援してくださった方、本当にありがとうございました!
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そしてお知らせなのですが、つい先ほど新しいお話を投稿させていただきました。タイトルは、
『魔法が使えない無能と父に罵られ、妹に婚約者を奪われた挙句に家を追放された侯爵令嬢の私ですが、 美形で心優しい魔法使いに拾われて溺愛されてるうえに聖女の力に目覚めて戸惑ってます』
となっております。異世界恋愛の物語となっております。目次にあるリンクから飛べるので、是非そちらもお手に取ってみてください!




