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第83話 全てが終わり……

 二日後の昼下がり、俺はもう退院してもいいという事で、帰るための荷物整理を行っていた。


 まだ身体は痛むけど、検査をした結果、骨が折れてたり内臓に損傷があるわけでもないそうで、ただの打撲程度だろうと母さんを通して伝えられた。


 正直、俺の身体の事なんてどうでもいいんだよな……みんなが無事ならそれでいい。その事を日和に言ったら、めちゃくちゃ怒られてしまったのはここだけの話な。


「ヒデくん、忘れ物はない?」

「ああ、全部持った」

「もうこんな所に来るんじゃないわよ」

「わかってるって。ところで母さんはここにいていいのか?」

「英雄が帰る時間に、昼休憩を貰ったのよ」


 そ、そうだったのか……母さんにも今回の件で色々と迷惑や心配をかけてしまった……それ以前にも心配ばかりかけてしまっているし、俺を食わすために、土曜日だっていうのにこうやって働いている。


 ——これからは沢山親孝行をしないとだな。


「日和ちゃん、英雄にずっとついててくれてありがとう。おかげで凄く心強かったわ」

「い、いえ。私もヒデくんと一緒にいたかったから……」


 そう言いながら、日和は俺の服の裾を控えめに掴む。


 きっと母さんの前でいつもの様に手を握ると、俺が照れるとわかっているから、裾を握るだけにしているのだろう。


 そんな日和の優しさが嬉しくて……俺は気づいたら日和の手を強く握っていた。


「あっ……えへへ」

「あらあら英雄ったら!」

「うっせえ」


 案の定というべきか、母さんはニヤニヤしながら俺の事を見てきたけど、そんなのは気にしていられない。


「じゃあ俺達は帰るよ。母さんもあまり無理をしないでくれよ」

「ええ。また帰る時は連絡するわね」

「その時は今度は俺が飯を用意しておくよ」

「楽しみにしてるわ!」


 俺は深々と母さんにお辞儀をする日和と一緒に、病室をあとにした。


 この病院って初めて来たけど、どこに行ってもとても清潔感があるし、勤務してる人も良い人が多くて好感が持てる。


「日和、帰りに昼飯の食材を買いに行こうか」

「あ、真琴がお家でご飯を用意して待ってくれてる」

「そうなのか? じゃあ真っ直ぐ帰ろうか」

「うん」


 わざわざ助っ人に来てくれて、日和の面倒を見てくれただけじゃなくて飯まで用意してくれてるのか……帰ったら真琴さんにお礼を言わないとな。


「今日も暑いな……」


 病院を出ると、容赦のない真夏の太陽の光が俺達に襲い掛かる。暑すぎて立っているだけでも汗をかきそうだな……。


「ヒデくん……一個お願いがある」

「なんだ?」

「その……腕にギュッてしていい? 男の人が怖くて……」

「日和……ああ、いいよ」


 日和の悲痛な叫びに心を痛めながらも、俺は優しく頷いてあげると、日和は嬉しそうに俺の右腕にギュッとしがみついてきた。


 やはり、この前の出来事は日和の心に傷を残していったんだな……少しでも日和が早く楽しい生活に戻れるように、少しでも一緒にいてあげないとな。


 そう思いながら、俺は日和と一緒に家へと向かって歩き出すのだった――



 ****



「ではお嬢様、英雄様。私はこれで失礼致します」

「はい、真琴さん……色々とありがとうございました」

「ありがとう、真琴」


 同日の夜……俺と日和は、屋敷に帰る真琴さんを玄関で見送っていた。


 これが何度目のお礼になってるかわからないけど、真琴さんにはいくらお礼を言っても言い足りないくらいだ。


 ちなみに晩飯も真琴さんが用意してくれたんだけど、食べている時にどうやって潜入したのかとか、流華さんがどうやってアカウントの持ち主を特定したのかを聞いてみたんだが、やんわりとはぐらかされてしまった。


 ……実は神宮寺家ってちょっと危なかったりするのか? 金持ちって怖い。


「さて、じゃあ部屋に戻るか」

「うん」


 見送りが終わって部屋の中に戻ると、日和は急に後ろから俺に抱きついてきた。


 びっくりした……思わず変な声を出してしまう所だったぞ。


「日和? どうした?」

「ごめんなさい……真琴がいなくなっちゃったら、急に不安になって……ヒデくんにくっついてると……少し怖いのが無くなるの」

「……そうか。ならいくらでもくっついていいからな」


 弱々しい声で答える日和の手に、俺は自分の手を重ねながら答える。


 こんな事で日和が少しでも安心できるなら……いくらでも日和にくっついてあげよう。


「いいの……? ずっと一緒にいてくれる?」

「もちろん」

「一緒に寝てくれる?」

「ああ」

「お風呂は?」

「お、おう……カーテン越しでいいなら」

「お手洗いは?」

「さすがにそれは一人で行ってくれ」

「ずっと一緒にいてくれるって言ったのに……」


 いやいや、さすがにトイレは安全だと思うんだが? それにその……音とか聞かれたら普通に恥ずかしいんじゃないのか?


「家の中には日和をいじめる奴はいないから、大丈夫だよ」

「う~……じゃあお手洗いは一人で頑張る……」


 トイレは……? おいおい、風呂は一緒にいてもらう気満々って事じゃないか……まあいいか。俺がなんとか耐えればいいだけだし……日和の為ならいくらでも耐えよう。



 ****



「じゃあそろそろ寝るか」

「うん」


 風呂を済ませた俺達は、寝室に布団の敷いてその上に座っていた。


 正直、また煩悩が出てくるんじゃないかと不安に思っていたんだけど、日和が怖がって俺に頼ってきてるんだって思ったら、全くそんな気持ちは出てこなかった。


 代わりに俺の胸にあるのは、少しでも日和の不安や恐怖が無くなって欲しいという願いだけだった。


「あ、そうだ……寝る前のやつするか?」

「いいの?」

「日和がしたいなら」

「したい」


 そう言いながら、日和は俺の首に手を回しながら目を閉じる。それも日和を抱きしめながら、日和の唇に自分の唇を重ねた。


「んっ……ちゅっ……」


 ちいさな寝室の中に、唇を重ねる音が響く。それから間もなく、どちらからともなく舌同士を絡め始めた。


「んっ……んんっ……くちゅ……んちゅ……じゅる……はうっ……」

「日和……」

「んむっ……もっとぉ……」


 一度離れて息を整えようとしたが、日和にもう一度キスされた。いつもの寝る前のキスは、触れるだけのソフトなものなんだが……今日はかなり深いし、時間もかなり長い。


「んっ……んうっ……ぷはっ……はぁ……はぁ……」


 ちゅっと唇同士が離れる音と共に、俺はそのまま布団に仰向けに倒れてしまった。


 身体がまだ痛むせいで、グイグイと身体を押し付けてくる日和を支えきれなかったみたいだ……おかげで日和も一緒に倒れこんでしまった。


 不幸中の幸いというべきか、俺の上の乗っかって胸の中にすっぽり収まる形になってるから、ケガはしていないだろう。


「だ、大丈夫?」

「大丈夫だ。たくさんキスしたら、身体から力が抜けちゃってな」


 俺は倒れたまま日和を抱きしめながら、頭を優しく撫でる。


「えへへ……ヒデくんがたくさんギュってしてしながらちゅーしてくれたから、ヒデくんをたくさん感じられて……怖いのがだいぶ無くなった」


 俺の胸元に頬ずりをしながら喋っているからか、ちょっと胸元がムズムズする。


 まあ日和は嬉しそうだし、日和はかなり軽いおかげで、乗っかられても全然へっちゃらだ。俺としても、こうやって密着してると安心感を覚えるからずっとくっついていたいくらいだ。


 流石にずっと乗っていられるとしんどくなりそうだけどな。


「でも……その、ね。まだ怖いから……ヒデくんをもっとたくさん感じさせてほしい……」

「まだキスするか?」

「そ、それもいいんだけど……その……あの……!」

「……?」

「えっと……は、恥ずかしいけど……ヒデくんの温もりをね、肌で直接感じたいの」

「あっ……」


 凄く言いにくそうに、そしてリンゴみたいに顔を真っ赤にさせる日和のお願い事——いくらバカな俺でも、日和の言いたい事がわかった。


 そのせいで、心臓が一気に高鳴り、顔をめちゃくちゃ熱くなったのを感じる。


 正直まだ早いと思うし、めちゃくちゃ緊張するけど……日和がして欲しいなら……それで日和が幸せだと思えるなら……俺はそれに応えたい。


「あ……その……あんな事があったから……なんていうか……私……あうぅ……!」

「わかった。でも、ホントに俺でいいのか?」

「ひ、ヒデくん以外なんてヤダ! あっ……! でも、ヒデくん身体痛いよね!? やっぱり今のは聞かなかった事にして!」

「ははっ……ありがとう。身体は大丈夫だよ」


 正直あまり大丈夫ではないんだよな……実際に日和を支えきれなくて倒れちゃったくらいだし……。


 でも、日和はきっと不安で怖くてどうしようもなくて……それで俺を求めてるんじゃないかって思うと、身体の事なんてどうでもよくなる。


「前も言ったと思うけど、俺だって日和とそういう事はしたい。でも、俺の一方的な欲で日和を傷つけるのが怖くて……」

「……ヒデくん、やっぱり優しい……初めてだから、優しくしてね」

「もちろん。嫌な事があったらすぐに言うんだぞ」

「うん。ヒデくん……大好き」

「俺も大好きだよ」


 三度目のキスをしながら、俺達は互いを求めあう様に、強く抱きしめ合うのだった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。次回で最終回となります。次のお話は明日の二十時頃に投稿予定です。最終話では、ちょっとしたお知らせもございます。


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