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第82話 目が覚めたらそこは

「……くん……」


 なんだ……? 誰かの声が聞こえる……。


「ヒ……ん……」


 随分と聞き覚えのある声だ……それに……凄く安心する……。


「ヒデくん!」

「ん……?」


 はっきりと俺の事を呼ぶ声に反応するように、俺はゆっくりと目を開けると、そこは真っ白な天井と、見慣れないこじんまりとした部屋だった。


 この部屋の感じ……もしかして病院か? しかも個室じゃないか。俺……なんでこんな所にいるんだ……?


「ヒデくん! 私がわかる!?」

「……日和」


 俺は身を起こしながら、世界で一番大好きな女の子の名前を呼ぶと、彼女は目から大粒の涙を流しながら、勢いよく抱き着いてきた。


「よかった……ホントによかった……もう目を覚まさないんじゃないかって……!」

「日和……」


 俺は日和を安心させるために、そっと背中に両手を回した。


 どれくらい寝ていたのかわからないけど……日和にはかなり心配をかけてしまったんだな……ホントに申し訳ない事をしてしまった。


「日和、俺はあの後どうなったんだ? いやそんな事よりも! 日和やみんなは無事か!?」


 日和が泣き止んだタイミングでみんなの事を聞くと、日和は少し慌てながら口を開いた。


「お、落ち着いて。まずは起きた事を病院の人に伝えないと」

「あ、ああ。そうだな」


 そ、それもそうだな……どうもみんなの事になると周りが見えなくなってしまう。俺の悪い癖だな。


「今ナースコールを押したから、すぐに病院の人が来ると思う」

「わかった」

「日和ちゃん、どうかした?」

「え、母さん??」


 なんと、部屋に来た看護師さんは俺の母さんだった。って事は、ここは最寄り駅の近くにある病院って事か……まさか仕事中の母さんの世話になるとは思ってもみなかったな。


「英雄! よかった……目を覚ましたのね」

「ああ。心配かけてごめん……」

「いいのよ。英雄が無事ならそれで」


 母さんは俺の頭を撫でながら、とても優しい笑みを俺に向けてくれた。


 母さんに頭を撫でられるのなんて、何年ぶりだろうか……日和の前でそんな事をされるとちょっと恥ずかしいけど、それよりも安心感が勝っていた。


「それで、俺はどうしてここに?」

「えっと……」


 俺が聞くと、日和はゆっくりではあったが、簡潔に話してくれた。


 俺が倒れた後、騒ぎに気づいた教師達によって、俺や猿石君、そして倒れた不良達は病院に運ばれた。


 その後に、残った女子三人と真琴さんは、学校側に今まであった事の説明や証拠を提示したそうだ。ちなみにその時は真琴さんはまた変装をしていたらしい。


 そもそも、真琴さんはどうやって変装して潜り込んだんだろうか……あの時は何とも思わなかったけど、よくよく考えると不思議だ。


 あと、真琴さんは日和の為に昨日はこっちに滞在して、家に一緒にいてくれたようだ。真琴さんには何から何まで感謝しかないな……。


 そして猿石君についてだが……すぐに意識を取り戻したらしく、今日の午前中に退院したそうだ。出雲さんもあれだけ戦ったのに、大きな怪我をしてなかったとの事。山吹さんも怪我はないそうだ。


 ホントにみんなが無事でよかった……。


「日和ちゃん、今日の朝からずっと英雄と一緒にいてくれたのよ」

「え? 今日って木曜だよな……普通に学校あるだろ?」

「学校よりも、ヒデくんの方が大切……それに、ヒデくんと一緒じゃないと……怖い」


 日和は顔を俯かせながら、震える手で俺の手をギュッと握る。


 そうだよな……林間学校の時と同じか、それ以上の怖い事を体験してしまったんだもんな……怖いに決まっているよな。


「日和、ごめんな……こんな事に巻き込んで……」

「どうしてヒデくんが謝るの? 悪いのは鬼塚さん」

「そうだ! 鬼塚は!?」

「英雄、病院では静かにね」

「ご、ごめん」

「その……あっそうだ。みんなにもヒデくんが起きたことを伝えないと。そろそろ学校が終わった頃だと思う」


 日和はわざと話題を逸らすかのように、唐突にスマホを持って病室を後にした。


 ……一体どうしたというんだろうか? 鬼塚のその後を聞くのがそんなにいけない事だったんだろうか?


「話は日和ちゃんから大体聞いてる。そんな大変な事になっててビックリしたわ」

「まあ……な」

「やり方は乱暴だったかもしれないけど、母さんは英雄を誇りに思うわ。頑張ったわね」

「……ありがとう」

「さて、私は英雄の担当医に目を覚ました事を伝えてくるわ。何かあったらナースコールで呼ぶのよ」


 そう言うと、母さんは小さく手を振って病室を後にした。


 なんか……一気に静かになっちゃったな。昨日あれだけ色々あった後だからか、余計に静かに感じてしまうな。


 それにしても……身体いてぇな……いくら鍛えているとはいえ、拘束されている時に結構殴られたからな……そりゃ痛むのも納得だ。


「桐生君! 大丈夫!?」


 ボーっと窓から快晴の空を眺めていると、日和がいつもの三人を連れて部屋に入ってきた。


 一気に部屋が賑やかになったな……病院なんだから、もうちょっと静かにした方が良いと思うんだが。


「咲ちゃん、ここ病院」

「あ、そうだったね……嬉しくてつい」

「みんな、無事でよかった……」

「それはウチの台詞だよ! 倒れた時、心臓が止まるかと思ったよ!」


 あのままだったら乱暴をされていたにも関わらず、思ったより元気な山吹さんは、バシバシと俺の肩を叩きながら言う。


 いや……怖くなかったはずがない。きっとわざと明るく振舞っているのだろう。


「猿石君、動いて大丈夫なのか?」

「問題あらへん。ワイは今回全く役に立てへんかったから、見舞いぐらいはちゃんと行かないとってな」

「気持ちは嬉しいけど、無理だけはしないでくれ」

「せやな!」


 いつもの様に楽しそうに笑う猿石君に続くように、みんなも同じように笑う。


 きっと、俺に心配かけないように……そして責任を感じないようにしてくれているのだろう。そう思うと、元々あった罪悪感がどんどんと膨れ上がっていった。


「……みんな、ごめん。元はといえば俺の問題だったのに……散々巻き込んだあげく、危険な目に合わせてしまった……ホントにごめん……!」


 俺は勢いよく頭を下げながら、みんなへの罪悪感や、無事だった事の安心感、こんな俺を助けたうえに心配までしてくれるみんなへの感謝——色んな気持ちが混ざって、気付いたら涙が流れていた。


「ヒデくん、顔を上げて」

「ひよ、り……」

「みんなヒデくんが悪いなんて思ってないよ。よく見てみて」


 日和に促された俺は、順番にみんなの顔をジッと見つめると、ニコッと笑ったり親指を立てて見せたりと反応はバラバラだったが、俺を責める人は誰もいなかった。


「ごめ……ホントにごめん……」

「ごめんじゃないよ。ヒデくんには他に言う事があるよ」

「……ありがとう」


 これ以上心配をかけないように、俺は涙を拭ってから、今できる精一杯の笑顔で言う。


 俺から返せるものなんて全然ないうえ、こんな面倒な事に巻き込んでしまったのに、誰も怒らないなんて……俺はホントに良い友達と彼女を持ったな……。


 これから先、みんなが困っていたら……今度は俺が全力で助けよう。


「それで、その……鬼塚はどうなったか、みんな知らないか?」


 先程日和にはぐらかされた事を今度はみんなに聞くと、やはりというか……どこか気まずそうな雰囲気になってしまった。


「実はな……こんなのがネットで流れてんねん」

「……?」


 俺は猿石君にスマホとイヤホンを渡してから、とある動画を見せてくれた。


 それは……どこかの廃ビルの中で、鬼塚が黒鉄に酷い事をされている動画だった。撮っているのは姫宮か? 所々に声が入っている。


 嫌がる鬼塚の悲鳴が痛々しく、黒鉄や映像の外から聞こえてくる姫宮の楽しそうな笑い声からは、狂気のようなものも感じる。


「なんだこれ……」

「ワイらにもわからん。乱闘があった後の事だとは思うんやけど……ネットで世界中に拡散されてもうてる」

「マジかよ……」


 俺は途中で動画を止めると、猿石君にスマホを返した。


 どうして姫宮が黒鉄と一緒に鬼塚に酷い事をしているんだ?


 確かに俺は鬼塚が憎い。自分の欲望の為にみんなを傷つけて……俺をいじめ続けて……絶対に許せない。ぶん殴ってやりたいとも思った。


 でも……なにもここまでしなくても……。


「すぐにこいつらは警察に捕まるやろな。敵同士のつぶし合いなんて、なんとも皮肉なもんや」

「そうだな……」


 俺は猿石君に同意を示しながら、何とも形容のしがたい胸のモヤモヤを感じるのだった――



 ****



 ――私は汚された。


 ただの利用する相手だと……散々バカだと思っていた相手に、私の大切なものが奪われ、その姿は全世界に流されてしまった。


 別にこれが知らない連中に見られる事は、なんとも思わない。


 でも、これが大好きなヒーロー君に見られてたら……そう思うと、目の前が真っ暗になりそう。


「こんなのを世界に晒すなんて……どれだけ私に恥をかかせるの!」


 カーテンを閉め切って薄暗い自室の中で、ヒステリックになった母親に殴られた。


 こんなのは子供の頃からの日常……私は日頃から、この女の気分で殴られたり食事を抜きにされる。


 別に慣れてるし、痛みも感じない。この女になにか感じる事も無い。この女にとって、私は迷惑な存在だから。


 父親も仕事しか見ていなくて、私に金を渡す事しかしない。


 家族の愛なんて私は知らない……私が知っている愛は、ヒーロー君に向けてのものしかない。


 私には、ヒーロー君しかない。だからあなたに、私からの最大の愛を向け続けたわ。


 でも、あれだけやってもヒーロー君はくじけなかった。仲間達も、誰一人としてヒーロー君を裏切らなかった。


 これ以上やっても、きっとヒーロー君は私に苦しむ姿を見せてはくれないだろう。


 そんなの……私はもう生きてる意味を失ったのと同じ。これから先、私は親らしき人間に叩かれ、罵られ、周りのどうでもいい連中に蔑まれる日々を送る事になるのね。


 そんな灰色の人生なんて……どうでもいいわ……ヒーロー君を苦しめられないなら……私の愛をヒーロー君にぶつけられない私には……もう何もない……なにも考えない……。


 心を――壊そう。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は明日の夜に投稿予定です。


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