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第78話 予想外の証言者

「嫌がらせ? 急にどうしたのヒーロー君。私には何の事かさっぱりだわ」


 鬼塚はとぼけるようにふふっと笑いながら、頬に片手を当てる。


 まあこのへんの反応は予想通りというか……逆にこれでハイそうですって認められたらビックリしてしまう。


「あんな酷い事をしておいて、この期に及んでとぼける気!?」

「お、落ち着いて咲ちゃん」

「でもっ!!」


 今にも殴りかかりに行きそうな出雲さんを、日和が何とかなだめる。


 その気持ちは俺も大いにわかるけど、ここで感情的になったところで事態は好転しない……とにかく冷静にいこう。


「証拠はある。猿石君!」


 俺の声に応えるように、猿石君は自分のスマホを操作して、昼休みの男子生徒と会話した録音を流す。


「こいつは日和の下駄箱にいたずらをしていた奴でな。脅されて仕方なくやったって言っている。その脅した相手は、お前だって言っている」

「ふふっ……こんなの誘導尋問じゃない。この人が明確に私に脅されたなんて言ってないわ」


 音声を全て流しきってもなお、鬼塚は余裕たっぷりの笑みを崩す事は無かった。


 まあ確かに鬼塚の言う通りなのかもしれない。そして、ここでもまだとぼけてくるのも想像通りだ。


「証拠はまだある。これを見ろ」


 俺は流華さんからもらったデータを映した自分のスマホを鬼塚に見せつけながら、更に言葉を続ける。


「学校のSNSに、みんなの過去の過ちが暴露がされている。その出所を調べてもらった。すべて同じ捨て垢から広まっていてな……それの持ち主がお前だ」

「そのアカウント……そんな事に使われていたの?」


 一瞬だけ鬼塚の表情が曇ったが、すぐにあの嫌な笑顔に戻してから、想定外の切り返しをしてきた。


「どういう事や?」

「元々趣味用のアカウントとして作ってあったんだけど、アカウントが誰かに乗っ取られちゃったのよ。別にほとんど使ってなかったから放置してたんだけど……こんな事に使われてたなんて驚きだわ」

「ふざけんな! いい加減認めろ!」


 口元に手を当てて上品に笑う鬼塚の態度に、出雲さんの怒りは頂点に達してしまったようで、物凄い形相で飛び掛かる――が、その間に俺が割って入る事で何とか止めることが出来た。


「出雲さん! 落ち着け! 殴ったところでこっちが悪者になるだけだ!」

「でも!!」

「ふふっ、血気盛んな子……そんなんだから相手の選手を壊しちゃったのかしら? ああ怖い怖い……ふふふ」

「っ!? このおおおおお!!」

「落ち着け言うとるやろ!」

「放せ間猿! こいつだけは許せない!!」


 出雲さんの後ろに回り込んだ猿石君が、羽交い締めにしてなんとか出雲さんの動きを止めているけど……このままじゃいつこっちの我慢の限界が来るかわからない。


「お話はそれで終わり? それじゃ私は忙しいから帰るわね」

「ちょっと! まだウチらの話は終わってない!」

「そう言われてもね……私には、身に覚えのない話を長々とされる時間は無いのよ」


 そう言うと、鬼塚は「じゃあね」と言い残してその場を去ろうとする。


 くそっ、ここまで証拠を突きつけてもしらばっくれるなんて……考えろ、こいつにどうすれば認めさせられる!?


「待ちなさい!」


 必死に思考を巡らせていると、去ろうとする鬼塚の前に立ちはだかるように、一人の女子——姫宮杏奈が現れた。


「姫宮? どうしてここに?」

「あんた達が昼休みに話をしてたのを聞いてたのよ。それで、このクソ女に一泡吹かせるためについてきたの!」


 あの話を聞かれていた? 周りに聞かれないように注意をしていたつもりだったけど……いや、過ぎてしまった事はしょうがない。それよりも、一泡吹かせるって……どういう事だ?


「その女が全ての元凶! アタシや花園って子を脅して、神宮寺日和を排除させてヒーローが嫌な思いをするのを楽しもうとしてるの!」


 姫宮はビシッと鬼塚を指さしながら、高らかに言い切った。だが、俺には姫宮が言っている事がイマイチ理解することが出来なかった。


「どういう事だ?」

「そいつはヒーローが苦しむ姿を何よりも好む、異常性癖者なのよ! 昔ヒーローがいじめられてたのも、そいつが仕組んだ事なの!」

「なっ……!?」


 姫宮から放たれた衝撃の言葉に、俺は開いた口がふさがらなかった。


 いじめの主犯格だったのは知っていたけど、俺はてっきり黒鉄が俺を嫌っていじめを始めたものだと思っていたのに、まさかこいつが……しかもそんな気持ちの悪い理由だっていうのかよ!?


「あら……随分とよく喋る口ね。だから自分から勝手に他人をおもちゃにしてた事を喋っちゃったのかしら?」

「うるさい! 元はといえばあんたがヒーローをいじめなければこんな事にはならなかったし、アタシが脅される事も無かった!」

「清々しいほどの責任転嫁ね。ホント無能すぎて笑っちゃうわ。頭に行くはずの栄養が顔に全部行っちゃったの?」


 姫宮をわざと煽るような事を言ってから、鬼塚はおもむろにスマホを取り出してから、不敵な笑みを浮かべた。


「……そろそろね」

「何を言っている!?」

「こっちの話だから気にしないで。それで、私が全ての黒幕かって事だけど……その通りよ。私が黒鉄や他の連中を利用してヒーロー君をいじめ、お友達と一緒に、あなた達に脅迫や、過去の出来事をSNSに流して追い詰めた……全ては私を満たすため」


 やっぱり……こいつが元凶だったのか!


「私ね、ヒーロー君が大好きなのよ。初めて会った時に一目惚れだったわ……みんなを助けるカッコイイヒーロー君……そんなあなたを、私はめちゃくちゃにしたかったの」

「ヒデくんを……? どういう事?」

「あなたのような無垢な子にはわからないわ。私はね……ヒーロー君が苦しむ姿に、何よりの快感を覚えるの。ヒーロー君がいじめられてどんどん落ち込む様……神宮寺さんに嫌がらせをされてると知った時のヒーロー君の取り乱し様……あぁ……今思い出しても高ぶるわぁ……!」


 鬼塚はうっとりとした表情で自分の身体を抱きしめながら、ブルブルと身震いをする。


 そんな意味のわからない理由の為に、俺は何年もいじめられ続けたっていうのか……? ようやく出来た大切な人達が傷つけられたっていうのか……?


「つまり、全ては俺の嫌がる姿を見るために……そんな意味のわからない事で、みんなを傷つけたのかよ!!」

「別に理解してもらうつもりも無いわ。趣味嗜好なんて人それぞれよ。ヒーロー君が正義感を振りかざして喜んでたのと同じよ」

「偉そうな事を言ってたって、あんたがやった事は悪い事だよ!」

「あら、窃盗なんて犯罪行為をしたあなたが偉そうにお説教なんてできるかしら?」

「うっ……」


 言い負かされた山吹さんは、悔しそうに唇をギュッとしながら、鬼塚の事を睨みつけた。


「その情報は、一体どこで仕入れたんだ?」

「教えてほしい? そうね……企業秘密っ」


 こいつ……どこまでも神経を逆撫でする奴だ……だが、認めさせた以上、この事を学校に言ってしまえばそれでおわりだ。


 流石に腰の重い学校でも、ここまで証拠が揃えば動かざるを得ないだろう。


 ちなみにだが、今回は山吹さんのスマホで今の会話も録音はしてある。さっきの二つの証拠と合わせれば大丈夫だろう。


 そう……これはもうほとんどこっちの勝ちと言っても良い。なのに……なんでこんなに嫌な予感がするんだ?


「ふふっ……大切な事を言い忘れてたわ。確かに私がやったのは認めるけど、私はやめるとは言ってないわ」

「お前、続けるつもりだというのか!?」

「ええ。あと……勝ったつもりでいるところ悪いけど、ここまではおおよそ私のシナリオ通りなの」

「シナリオ……どういう事なの……?」

「さっきまでのはただの時間稼ぎ。私はお友達から、あなた達が黒幕は私だと気づいているって情報を得ていたの。だからね……こんな事をしてみたの」


 鬼塚がそう言うのとほぼ同時に、俺達の周りは何十人もの男達に囲まれてしまった。その男達には、他校の制服を着ている連中が多数を占めていた。


 そして……その連中には、俺は見覚えがあった。


「ヒーロー君からしたら、軽い同窓会みたいな感じかもね? ふふっ……」

「ど、どうしてお前らが!?」

「桐生君! こいつら知り合い!?」

「……中学の時に俺をいじめてた連中だ。初めてみる顔もあるけど……そもそもどうやって入ってきた!?」

「ここは学校でもほとんど使われていない区域だからかしら? 結構抜け穴とかがあるのよ」


 動揺する出雲さんに答えながら、俺は自然と日和を守るように後ずさりをする。


 そんな中、猿石君が一人で何か納得したように微笑を浮かべながら、うんうんと頷いているのが目に入った。


「はっ……そこのお前、あんときは世話になったな」

「なんだよ、生きてたのかよクソザル男!」


 不良の中にいた、派手な青髪をした男が猿石君を馬鹿にするように笑いながら言う。


 もしかして……こいつらが猿石君に絡んできた連中だって事か? やっぱりあの不自然な出来事も、鬼塚が絡んでいたって事か!


「ふふっ、あなたの目の前で、大切なお友達が傷つくさまを……そして、何もできない苦しみに悶える最高のあなたを見せて!!」

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼ぐらいに投稿予定です。


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