第76話 現行犯
「まさかホントにやってくるとはな……」
二日後の昼休み、俺は教室で自作のおにぎりにかぶりつきながら、大きく溜息を吐いた。
溜息の理由だけど、どうやら俺達が離れずに一緒にいるのが気に食わなかったのか、今日の朝に誰かが猿石君達の過去の事を言いふらした。そのせいで、三人は色んな奴にホントの事なのかと問い詰められてしまった。
三人はそんな出所もわからない事なんか鵜呑みにするなって言ってるみたいだけど、三人と小学校や中学校が同じ連中が、それはホントの事だって言ったみたいで……クラスの話題はそれでもちきりになっている。
「ホント参っちゃうよ……どいつもこいつも全然話を聞いてくれないんだもん……」
「せやな……」
流石に同じ事を何度も言い続けたせいか、少し疲れ気味に溜息をする猿石君と出雲さん。
そりゃ疲れるよな……聞いてくる連中の中には、ちゃんと事情も知らないで酷い事を言うような奴もいた。
それを聞いて、俺は思わずぶん殴りそうになってしまったが、日和に必死に止められたおかげで、何とか踏みとどまれた。
情報の出どころだけど、どうやら捨て垢を作成して、学校のSNSに情報を流したみたいだ。
その嫌がらせにかける情熱を他にかける事は出来なかったんだろうか……暇というか、執念深いというか……。
あと、この事は既に流華さんには伝えていて、すぐに調べてくれるとの事だ。
……一体どうやって調べるんだろうか? 俺にはわからないけど、きっと何かやり方があるんだろうな。
「でも、今はぐっと我慢の子だよね! ウチ頑張る!」
「そうだね! 今もこうして教室で食べてるし……」
出雲さんの言う通り、今日は教室の廊下側……しかも一番後ろの席に座って食べている。ちなみにここは出雲さんの席だ。
普通だったら、質問攻めにされる可能性がある今こそ、教室以外の静かな所に行くべきだと思うだろう。
でも、ここにいる事で教室とロッカーを監視することが出来る。犯人が俺達の机やロッカーにまた何かするのをためらわせ、下駄箱に行くように誘導するってわけだ。
もちろん下駄箱にはあのカメラが仕掛けてあるから、何かあったら即座に飛んでいけるようにしている。
「犯人、どうやってみんなのヒミツを知ったんだろう……」
「他のクラスにウチと同じ小学校とか中学校の出身の子がいるから、そういう子から聞いたんじゃないかな」
「ワイらにも出身校が同じやつはおるし、そんなところやろな。ワイらの事を拡散したし、もしかしたら完全に別の事で何かしてくるかもしれへんな」
「無いとは言えないよな。もしそうなら、また対処策を考えないと……」
くそっ、完全に後手後手に回ってしまっているのがもどかしい。なんとかこっちから黒幕へ攻撃できる術があればいいんだが――
「……ヒデくん、スマホ!」
「っ!?」
咄嗟に机の上に置いておいたスマホに目をやると、そこにはカメラのアプリからの通知が表示されていた。どうやら日和の下駄箱に異常が発生したようだ。
「猿石君!」
「よし来た! 咲、二人の事は任せたで!」
「おっけー!」
万が一、日和と山吹さんに何かあった時に対処が出来る様に、出雲さんに二人の事を任せた俺と猿石君は、すぐに下駄箱に向かって走りだした。
「犯人はまだおるか!?」
「ちょっと待ってくれ……ああ、下駄箱の蓋を開けたまま立っている!」
俺はカメラのライブ映像を見ながら答える。
制服や体格からして、どうやら細身の男子っぽいな……恐らくだけど、誰かに見られてないか周りを確認しているんじゃないかと思うんだが……うわっ、虫の死骸を下駄箱に詰め込み始めやがった!?
念の為に、今日も日和の靴は俺が預かって鍵付きのロッカーにしまってあるから、直接靴に被害が出る訳じゃないけど……こんなの気づかずに下駄箱を開けたら、びっくりして腰を抜かすかもしれない。
ふざけた事をしやがって……幼稚な事だけど、決して許される事ではない!
「桐生君! 見つけたで!」
「あいつか!」
階段を転がるような勢いで降り、無事に下駄箱にまでたどり着いた俺達の前には、こそこそと日和の下駄箱に悪さをする、いかにも根暗な感じの男子がいた。
「なっ!? なんでバレたんだ!?」
「逃がすかっ!!」
俺達の存在にいち早く気が付いた男子生徒は、一目散に外へと逃げていく。
絶対に逃がすかよ! 捕まえてなんでこんな事をしたのか吐かせてやる!
「はぁ……はぁ……し、しつこいな!」
この夏の日差しの中を全力疾走したせいか、男子生徒は校舎裏で息が上がってしまったようで、その場に座り込んでしまった。
逃げるのに必死だったのかは知らないけど、人気の少ない所に来てくれたのは助かるな。ここならゆっくりと話しが出来そうだ。
「よう、なんか面白そうな事しとったやないか。ワイにもその遊び教えてくれへんか?」
「ひっ……な、なんのことだよ!」
「この期に及んでしらばっくれる気かボケぇ!」
「逃げようとしても無駄だ。お前の犯行の証拠はある」
完全に悪役の台詞としか思えないような事を言う猿石君のせいで怯えてしまっている男子生徒に、俺は先程の犯行現場の映像を見せると、男子生徒の顔は真っ青になった。
「なぜこんな事をしたんだ? ちゃんと話すのなら、この事は誰にも言ったりしないと約束するし、お前に仕返しをしたりはしない。だが言わないなら……わかってるよな?」
「あ……あぁ……僕は悪くない……あいつに脅されて仕方なく……!」
「お前も脅されて……その脅した奴は誰だ?」
「い、言えない! 言ったらみんなにバラされる!」
……こいつも弱みを握られた結果、黒幕の人形にされてしまったという事か。全く、そもそもそんなバラされたらマズいような事をしなければいいのに。
まあ今はこいつの事情は関係ないか。とにかく、普通に聞いても話しそうにないし、ちょっとカマかけてみるか。
「その脅した奴の名前は、鬼塚か?」
「ど、どうしてそれを!? はっ……」
やっぱり、今までの事は全て鬼塚が黒幕だったのか……いや、まだ決めつけるのは早いな。たまたま今回だけ鬼塚が関わっていただけって可能性も僅かながらある。
「し、知らない! そんな女なんて知らない!」
「おかしいな? 桐生君はそいつが女なんて一言も言っとらんで?」
「あ……」
猿石君の言う通り、俺が言ったのは鬼塚という名字だけだ。なのにこいつは女と言い切った……どう考えてもおかしいよな。
「さっきも言ったが、ちゃんと話してくれるならそれでいい」
「僕は、あいつに急に声をかけられて……僕が犯した過ちをバラされたくなければ、言う事を聞けって……」
「それはお前にだけか?」
「他にも何人にも声をかけてたみたいで……」
何人にも……って事は、こいつや花園、姫宮以外にも声をかけている可能性は十分あるという事か……今みたいに実行犯を捕まえていても埒が明かなそうだ。やっぱり鬼塚を叩かないとダメか。
「鬼塚って女は、何故そんな事をしとるんや?」
「し、知らない……僕はあくまで言われた通りにしてただけで……」
「うーん……桐生君、どう思う?」
「そうだな……」
「い、今だ……!」
俺と猿石君が顔を見合わせていた隙を突いた男子生徒は、這いつくばってその場から逃げようと試みる。
当然止めようと猿石君が走りだそうとするが、俺はその肩を掴んで追跡を止めた。
「逃がしてええんか?」
「多分あれ以上聞いても情報は出ないさ。それより……記録は取れてるか?」
「ばっちりやで」
猿石君はふふんとドヤ顔をしながら、ポケットからスマホを取り出す。
実は事前に猿石君には、現場を抑える時に、音声の録音をするようにお願いしていたんだ。これがあれば、黒幕を追求する際に言い逃れするのを防げるだろう。
「とりあえず収穫があってなによりやで」
「ああ。ん? 電話だ……」
ホッと一息を入れていると、スマホの画面に着信表示がされていた。相手は……流華さんだ。
「はい、英雄です」
『こんにちは~。今大丈夫?』
「こんにちは。大丈夫です」
電話の向こうから、流華さんのおっとりした声が聞こえてくる。
流華さんから電話が来たって事は……きっとあの事だろう。それにしては、随分と早くてビックリだな……それとも別の案件だろうか?
『あのアカウントの持ち主、わかったわよ~』
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は火曜日の朝に投稿予定です。
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