第74話 来訪者
「ベッドふっかふかやん……」
「そうだな……安物のベッドとは大違いだよな」
大浴場で風呂を済ませた俺達は、今日泊まらせてもらう部屋にあるベッドの上で、ゴロゴロと寝転がっていた。
今回は俺と猿石君はベッドが二つある客室、女子三人は日和の部屋でそれぞれ寝るようにと真琴さんから話を聞いている。
……普通に寝れる部屋、あるじゃないか。だったら俺が前回来た時も、俺が一人で寝る部屋の確保くらい、容易に出来たと思うんだけど……いや、日和と一緒にいられたし、良しとしよう。
「あー……ワイも神宮寺さんの部屋に泊まって、女子達と同じベッドに寝たいわぁ……」
「それはつまり、日和と一緒に寝たいという事か?」
「ちょ、冗談やって! そんな怒らんといて!」
「別に怒ってない」
「バリバリ怒っとるやんけ! 背後から黒いオーラが見えとる!」
あはは、猿石君は大げさな男だな。そんな黒いオーラなんて出る訳ないし、そもそも俺は怒ってなんかいないんだけどなー?
「あのおっぱいに顔をうずめながら寝たい気持ちはあるけど……桐生君に殺されたないからグッと我慢やな……」
「な・に・か?」
「ひぃ!?」
「はぁ……ったく。ていうかさ、そんな事ばかり言ってると出雲さんにいつか愛想尽かされるぞ」
「な、なんでここで咲が出てくるんや?」
俺がやや呆れたように出雲さんの名前を出すと、猿石君は誰が見てもわかるくらい動揺していた。
……さすがに隠すのは無理があるだろ。いくら鈍い俺でも、今日の出来事を見ていれば、猿石君が出雲さんの事を少なからず想っているのはわかるって。
まあ出会った時から息はぴったりだったから、出雲さんの事を想ってるってわかっても驚きはしないけどさ。
そんな事を思っていると、部屋の中に控えめなノック音が響いてきた。
時間はもう二十二時を過ぎてるっていうのに、一体誰だ? 日和達が遊びに来たとか……それだったら、まだ起きてるかってスマホで聞いてきてもおかしくないよな?
「はーい」
「こんばんわ、英雄君、間猿君」
部屋のドアを開けると、そこにはピンクのネグリジェを着た流華さんが立っていた。
うわっ……スタイルが良いうえに胸元が開いているせいで、目のやり場に困る……あれ? 流華さんは確かまだ仕事があるからって言ってたよな?
「こんばんわ! 流華さん、ネグリジェも凄く似合っとりますね! ホントに一児の母とは思えないくらい綺麗でビビっとりますわ!」
「ふふっ、ありがとう~」
「こんばんわ。流華さん、お仕事は大丈夫なんですか?」
「ええ、一区切りついたから。ちょっと二人とお話したい事があって……少しだけいいかしら?」
話したい事……日和とのその後を聞きたいのだろうか? それにしては随分と真面目な雰囲気だし、仮にそうだったとしても、俺一人だけで十分なはずだ。
あっ……もしかして、あの事だろうか?
「僕はいいですけど、猿石君は?」
「ワイも構わへんで。なにか大事な話っぽそうやしな」
「ええ。ありがとう」
流華さんのお願いを承諾した俺達は、部屋の中にあった椅子にそれぞれ腰を下ろすと、流華さんは今までにないくらい真剣な表情で口を開いた。
「単刀直入に聞くわね。日和に何があったの? 急に連絡をしてきて帰ってくるなんて、普通とは思えないわ」
やっぱりその事か……真琴さんも、日和がなんで落ち込んでいるかの理由は聞いてなかったみたいだし、流華さんにも言っていなかったんだろう。
「えっと、実は――」
俺は今まであった、花園や姫宮が行った日和への嫌がらせ、そして俺の友達三人に脅迫状が来て、それを自分のせいだって思いつめてた事を流華さんに話した。
「そう……そんな事があったのね」
「すみません……僕がいながら、日和を辛い目に合わせてしまって……」
「英雄君は何も悪くないわ。その犯人の女の子達が悪いんだから」
流華さんはそう言いながら、優しく俺の頭を撫でてくれた。
いくら俺が悪くないと言ってくれても、俺が近くにいておきながら、日和を苦しめてしまっていると思うと、どうしても申し訳なさは感じてしまう。
「それで、その名前がわかってる二人は、どうしてそんな事を日和に?」
「最初の花園ってやつは、自分は僕と友達と思っていたのに拒絶された原因を日和のせいと思ったみたいで、嫌がらせをして潰してやろうと思ったみたいです」
「あ、ちなみにそいつは、過去に保身の為に桐生君に酷い事をした前科持ちなんで、同情の余地はないっすわ」
猿石君、フォローありがとう。流華さんなら変な誤解はしないだろうけど、今の言葉だと俺が花園を一方的に拒絶したように聞こえるもんな……。
「大丈夫よ~英雄君が理由も無しにそんな事をしない子ってわかってるから~」
「ありがとうございます。姫宮ってやつは、僕を自分の言う事をなんでも聞く、都合の良いおもちゃにしたがってたんですけど、僕が一向になびかない理由を日和がいるからだと思い込んで、同じ様に嫌がらせをして潰そうとしたみたいです」
「そうだったのね……その時は、二人が日和を?」
「僕達と、あと今日一緒に来た女子二人も協力してくれました」
「なるほど……助けてくれてありがとう」
流華さんに深々と頭を下げられた俺達は、思わず慌てながら必死に「頭を上げてください!」と頼み込んでしまった。
「けど、その二人は誰かに弱みを握られていたみたいで……」
「なら、その子に脅されたから仕方なく? それにしては明確な嫌がらせの理由があったわよね?」
「二人は脅した人間と、利害が一致したんやないかって思っとりますわ」
「ふむふむ。じゃあ最後の件も、その子がまた誰かを脅してやってるって感じかしら?」
「恐らくそうかと……」
くそっ、思い出したらまた腹が立ってきた。どうして黒幕は日和に嫌がらせをするってんだ……一体日和が何をしたっていうんだ。
「ちょっと思ったんだけど、その子は本当に日和を狙ってるのかしら?」
「……どういう事ですか?」
「犯人の子が日和に酷い事をする理由に思い当たる節が無いのなら、日和に酷い事をするの自体が、何か別の目的を果たすため……って可能性もあると思うの」
日和に酷い事をしたのは、別の目的があるから……? でも、その目的って一体何なんだろう?
いや……ちょっと待てよ。
「どう? 心当たりはない?」
「……ない、わけではないです」
「ホンマか? それって……もしかしてあいつか?」
「ああ。鬼塚美織だ」
「それって、前に違うと思うっていうとらんかったか?」
「日和に何か恨みがあるって前提で考えると、鬼塚が犯人の可能性は低いと思っていた。でも、俺に何かをする目的なら話は変わってくる」
あいつは元々俺をずっといじめていた、主犯格の一人だ。入学してすぐの頃にも俺にちょっかいを出してきた事もあるし、何かしてきてもおかしくはない。
ん……? ちょっと待てよ、よくよく考えてみたら……黒鉄が林間学校の時に日和に手を出してきたのも、鬼塚がなにか吹き込んだんじゃないだろうか? 丁度黒鉄も日和の容姿を気にいってたみたいだし……。
「じゃあ鬼塚ってやつの目的は、桐生君をもっといじめたいっちゅー事か?」
「だと思う……流華さん、ありがとうございます。ずっと僕は日和に恨みのある人間と思い込んでました」
「きっかけになれたなら良かったわ~。本当は私が学校に潜入して犯人を見つけて、もう生きていくのが嫌になるくらい、完膚なきまで――」
「る、流華さん。気持ちは凄く分かったので落ち着いてください」
顔は凄く笑っているのに、言っている事が怖すぎる……。
「問題はどうやって現場を抑えるかやな。向こうとしては立て続けに失敗しとるし、警戒してもおかしないで」
「そうだな……もしかしたら、脅す相手を増やして複数人でやってくる可能性もある」
「だからって常に教室や下駄箱に張り込むわけにも……」
「あら、監視するのは人間じゃなくてもいいんじゃないかしら?」
流華さんのよくわからない提案に、俺と猿石君は目を点にしながら流華さんに顔を向ける。
人間以外で監視って、一体どういう……あっ!
「監視カメラ、ですか?」
「大当たり~! さすが英雄君ね!」
「さ、さすがにそれは無理っすわ……一台ならまだしも、ワイら全員の下駄箱、机、ロッカー……まあロッカーはカギがかけてあるさかい、他人には開けられないから必要ないとして。それでも十台は必要になってまう。それにバレないように小さいので、尚且つ高性能ってなると、さすがに金が足らへんで……」
だよなぁ……良い手だとは思うけど、一台最低でも数千円……下手したら数万はいくかもしれないカメラを何台も用意するのは無理がある。
そう思っていると、流華さんがスッと立ち上がってから、日和に負けず劣らずな大きさの胸を叩いた。
「カメラならウチで用意するわ! 専用のアプリを入れておけばスマホから見れて、誰かが映ったら通知が来る最新型!」
「え、いやいやいや! そんなご迷惑をおかけするわけには!」
「せやで! ワイらで他の手を考えるさかい!」
「そんなの気にしなくていいわよ~。日和の初めてのお友達や、将来息子になる子が苦しんでるのを見過ごすなんて、私には出来ないわ。それに……日和と一緒にいてあげられないんだから、親としてこれくらいはしたいの」
だから気にしないでと言わんばかりに、流華さんは笑顔で俺と猿石君の頭を撫でる。
流華さんは俺の母親じゃないはずなのに……不思議と安心感を感じる。これが母性というやつなのだろうか?
「あと、秘密をばらすって事は、SNSとかで拡散すると思うのよね~。もしそうなったら、すぐに私に連絡してほしいの」
「どうしてですか?」
「ふふっ、私や誠司さんの知り合いに頼んで、それが誰なのかを調べるためよ。匿名で投稿してても、今の時代じゃ割と簡単に特定できるからね~」
そこまでしてくれるなんて……ホントに誠司さんにも流華さんにも頭が上がらない。
「「ありがとうございます」」
俺と猿石君は、感謝の言葉を述べながら、深々と頭を下げる。
流華さんの信頼に応えるため、そして日和の楽しくて幸せな学校生活と笑顔を守るため――絶対に黒幕を見つけてやる!
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。
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