第69話 いつもの俺達
「ま、とりあえず一件落着やな」
「そうだな」
俺はいったん日和から離れて女子二人に任せた後、少し離れた所に立っていた猿石君と安堵の息を漏らした。
日和が突然いなくなってしまった時はどうなる事かと思ったけど……とりあえずは何事も無くてよかった。
「これでようやくワイが桐生君に言いたかった事が言えるわ」
「なんだ?」
「……真琴さん、美人過ぎへんか?」
……真面目に聞いた俺が馬鹿だった。日和の一大事の後に続けてそんなシリアスな雰囲気を醸し出すから、何か重要な話かと思っちゃったじゃないか。
「めっちゃ美人で、礼儀正しくて、まさに大人のお姉さんって感じで最高やないか。しかもメイド服!」
「強調するのそこなのか?」
「当たり前やろ! メイド服はロマン!」
ロマンねえ……俺にはよくわからないな。真琴さんに似合っているのとか、美人だっていうのはわかるんだけどな。
「なーにクールぶっとるんや。あのメイド服を神宮寺さんが来てるのを想像してみい」
「日和があの服を……?」
あんなフリフリのメイド服を日和が着るだって……? そんなの似合うに決まっている。しかも俺の事を出迎えてくれて、おかえりなさいご主人様とか言ってくれるのか……!?
「どや? くるものがあるやろ?」
「猿石君………………俺が間違っていたよ」
「わかってくれればええんや」
俺が満足げに頷く猿石君と固い握手を交わすと、それを合図にするかのように部屋のドアが勢いよく開かれた。
あービックリした……急に誰が来たんだよ……って、流華さんじゃないか。しかもめっちゃ汗だくで息も切らせている。
「あれ、お母さん……?」
「日和!? 大丈夫!? 昨日真琴から連絡があったから急いで帰ってきたのよ!」
流華さんは一直線に日和の元に行くと、すぐ傍にいた女子二人を押し退けるようにして日和の両頬に手を当てながら、じっと日和の顔を見つめる。
「お、お仕事は大丈夫なの……?」
「そんなの、日和の一大事に比べたら些細な事だから気にしなくていいのよ! それで、なにかあったの!?」
「えと、もう大丈夫。みんなが来てくれたから……」
「……みんな?」
日和に言われてようやく気付いたのか、流華さんは俺達を順番に見ながら目を丸くさせて驚いた。
「あら~英雄君!? もしかして日和の為に来てくれたの?」
「こんばんは。はい、真琴さんから教えてもらって、友達と一緒に飛んできました」
「もしかして……あなた達が、前に日和が言ってたお友達?」
「は、はじめまして! 出雲咲っていいます!」
「ウチ……あっ、私は山吹綾香です!」
「ワイは猿石間猿いいます。えと、神宮寺さんのお母さん……? お姉さんの間違いやのうて?」
順番に挨拶をする中で、猿石君は少しだけ鼻の下を伸ばしながら聞くと、流華さんはさっきまでの鬼気迫る勢いなど何処吹く風かと言わんばかりに、ころころと笑ってみせた。
「あら~お上手ね。でも私は日和の母なのよ~。神宮寺流華です」
上品にお辞儀をする流華さんに釣られた友達三人は、ピシッと背筋を伸ばしてお辞儀をする。
「えっと、咲ちゃんに綾香ちゃんだったわよね? ごめんね~さっきは日和に夢中で押しのけちゃって……大丈夫? ケガとかしてない?」
「「大丈夫です!」」
「それならよかったわ~。お礼を言うのが後になっちゃったけど……みんな、日和の為に来てくれてありがとう。日和の初めてのお友達がみんな優しい人で安心したわ」
初めての友達……そういえば、前に日和が悪夢でうなされた日に、昔は一人ぼっちみたいな事を言っていた。やっぱり日和は別れた後、ずっと一人だったっていう事か……。
それなら尚更ちゃんと日和に連絡を入れるべきだった……今更そんな事を言っても遅いって言われればその通りなんだが、それでも後悔してしまう。
「お礼といってはなんだけど、よかったらウチでご飯食べていかない?」
「る、流華さん……?」
「そうだわ! なんなら明日は土曜日だし、学校も無いわよね?」
「うん、無い」
「それならうちに泊まっていったらどうかしら? 今から帰ると遅くなっちゃうし……それがいいわ!」
お、おう……なんだか俺達を置いてけぼりにして話が進んでいってる気がする。
とりあえず俺としては構わないんだけど、泊まる予定なんて一切なかったから、着替えとか持ってきてないんだよな。
「その、あたし達……急におしかけてきちゃったのに、いいんですか?」
「全然構わないわよ! 賑やかな方が楽しいし、日和もみんなと一緒が良いわよね?」
「うん、一緒が良い」
「なら問題ないわね~! あ、もちろん都合が悪いなら無理にとは言わないけど……」
流華さんがそう聞きながら俺達を見渡すと、山吹さんがおずおずと手を上げた。
「私達、着替えを持ってないんですけど……」
「それならこっちで用意するから大丈夫よ~」
マジかよ、すぐに準備できるとか、さすが金持ちといったところか?
「ワイは問題あらへん。今日は親もいるから弟達の面倒を見る必要があらへんからな」
「あたしも! お泊りなんてワクワクしちゃう!」
「ウチも!」
「ふふ、決まりね~! 部屋はどうしましょ? 英雄君は前回と同じように日和と一緒に寝る?」
「ぶふっ!?」
ちょ、ちょっと流華さん!? なにみんながいる前でそんな爆弾発言してるんですか!? 思わず吹き出しちゃったんですけど!!
「え、一緒に寝たって何!? その話詳しく聞かせてよ! ふんすふんすっ!!」
「案の定食いついてきたなこの恋愛大好き女子! あとふんすふんすっ言うな!」
恋愛系の漫画が好きすぎて恋愛沙汰に目がない山吹さんは、一瞬で俺に近づくと、俺の両肩をがっしりと掴んで前後に思い切り振り始めた。脳が揺れるからやめてほしんだが!
「別に恥ずかしがる事無いじゃないの~。日和と濃密であっまあまな一夜を過ごしたって言ってたじゃない~」
「捏造はやめてください!」
「桐生君! いつの間にそんな大人の階段を上ったんや!? ワイは置いてけぼりっちゅーのか!?」
「猿石君も信じるな! そもそも置いていかないなんて約束をした覚えはない!」
ああもう、収拾がつかなくなってきたぞ! 発端の流華さんは日和と一緒にくすくすと笑ってるし、出雲さんも「やれやれ」と言いながら肩を竦めてるし!
まあいつもの明るい雰囲気に戻ってよかったけどさ!
「そ、そう言えば流華さん! 誠司さんは帰ってきてないんですか!?」
「日和の事は連絡したんだけど、流石に仕事の都合がつかなくて帰ってこれないそうよ~」
話題を逸らすために誠司さんのことを聞くと、流華さんからは想定通りの答えが返ってきた。
今度こそ会って直接お礼を言いたかったんだけどな……仕事なら仕方がない。
「真琴、みんなのご飯の用意にどれぐらいかかりそうかしら?」
「ただいま確認致します」
真琴さんはポケットからスマホを取り出すと、誰かと電話をし始める。
一体誰と話をしているんだろう……? そんな事を思っていると、通話が終わったのか、真琴さんは再度こちらに視線を向けた。
「コック長に確認をしたところ、仕込みに少し時間がかかるので、二時間から三時間もあればすべて準備が出来るそうです」
「それだと、遅くても二十時には食べられるわね」
二十時か……今が十七時半くらいだから、まだ結構な時間がある。それまでちょっと暇だな……。
「せっかくだし、みんなで遊びたい」
「それはいいけど、何をするんだ?」
「こんな大豪邸といったら、やっぱりプールやろ!」
……いきなり猿石君は何を言っているんだ。確かにこの屋敷はでかいけど、いくらなんでもプールなんてあるわけ――
「あら、うちには屋内プールがあるから遊べるわよ~? せっかくだし、ご飯が出来るまで遊んで来たらどうかしら?」
……そうだった、前にも学んだじゃないか……俺の常識はこの家には通用しないんだと。
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼ぐらいに投稿予定です。
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