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第68話 どうすればいいかわからなくて

「「「………………」」」


 約一時間後、俺達を乗せた車は無事に日和の家に着いた。放課後からすぐに着たとはいえ、もう空は少し暗くなり始めている。


 そんな空の下で俺の友人である三人は、神宮寺家の屋敷を見上げながら、目を点にさせていた。


 なんか三人揃って俺が初めて来た時の再現をしてくれてるみたいで面白いな。やっぱり一般人はみんな同じ反応になるって事だろう。


「真琴さん、ありがとうございました」

「恐縮です。ではお嬢様の元にご案内します」


 真琴さんはお辞儀をしてから、俺達を屋敷の中へと通してくれた。何度来ても中の広さとか豪華さには圧倒されてしまう。


『いらっしゃいませ、英雄様、ご友人様』

「うわっ、お出迎え!? お、おじゃま……しま~す」

「おじゃまします……咲ちゃん、ウチこんなすごいお家初めてだよ……」


 女子二人がアワアワと震えている中、猿石君だけは少し落ち着きを取り戻したのか、壁に掛かっている大きな絵を見ながら、「これナンボくらいするんやろな……」と呟きながら眺めていた。


「こちらです。お嬢様、真琴です」

「……どうぞ」


 以前にも来た日和の部屋の中から、今にも消えてしまいそうな日和の声が聞こえてきた。


「失礼します」

「……え? みんな……どうして……」


 ベッドの上で体育座りをしていた日和は、真琴さんの後に続いて入ってきた俺達を見て唖然としていた。


 これってもしかして……真琴さんは俺達が来る事を伝えていなかったのだろうか?


「では私は部屋の外でお待ちしておりますので」


 丁寧に頭を下げて部屋を去る真琴さんを見送ってから、俺は再度日和の事を見つめる。日和からは、全く覇気が感じられなくて……今にも消えてしまいそうなくらいだ。


「……みんな、お願い……帰って」

「日和……どうしてそんな事を言うんだ」

「いいから、帰って!」


 日和らしくないくらいの声量で、俺達を拒絶する。まさかこんなにはっきりと拒絶されると思ってなかったから、少しビックリした……。


「私がいたら、みんなが辛い思いをする……そんなのヤダ……!」

「やっぱり、昨日のワイらの話を聞いたんやな?」

「……三人がこっそりと教室を出ていったから気になって……そうしたら……猿石君と咲ちゃんにまで……それって、私がいるからだよね? 私とバイバイすれば……みんな辛い思いをしなくて済む!」


 日和は悲痛な思いを吐露しながら、再度体育座りをして顔を足にうずめる。まるで自分の殻に閉じこもって一人で泣いているような……あまりにも見ていて痛々しい。


 そんなの……放っておけるわけないだろ!


「日和っ!」

「来ないで!」

「へぶっ……」


 日和の元へ走りだしたが、近寄るのを拒むように枕やぬいぐるみを俺に投げつけてくる。その一つが俺の顔面に当たって変な声が出てしまったけど、そんなの知った事ではない。


「あっ……」

「日和!!」


 俺に攻撃してしまった罪悪感からか、物を投げるのを止めた隙をついて接近した俺は、日和を強く抱きしめると、それに続くように出雲さんと山吹さんも日和に寄り添った。


「離して! 離してよぉ!」

「絶対に離さない!」

「そうだよ! あたしだって、日和ちゃんが悲しんでるのを放っておけないよ!」

「ウチね、バカな事をしたウチを許してくれた日和ちゃんに、すごく感謝してるんだ。だから今度はウチの番っていうか……日和ちゃんが悩んでるなら、ウチにも話して欲しいな」


 俺達をなんとか振り解こうと暴れる日和だったが、三対一じゃ叶うはずもない。日和もそれがわかったのか、すぐに大人しくなったと思った矢先、日和から小さな嗚咽が聞こえてきた。


「ぐすっ……ヤダ……みんなと離れたくないよぉ……でも……私のせいで……もうどうすればいいかわからない……!」

「日和は悪くない。悪いのは全部こんな事をしてきた奴だ」

「でも……でもぉ……!」


 よっぽど辛かったのだろう……日和は俺にすがるようにしがみつきながら、声を上げて泣いた。


 優しい日和なら、自分のせいでって思うのなんて想像できただろう……なのに俺は……黒幕を見つける事ばかりを考えて、日和の事を疎かにしていたのかもしれない。


 そう思うと、黒幕への怒りよりも、自分への怒りの方がどんどんと湧いてきて……自分を思い切りぶん殴りたい衝動に駆られた。


「日和ちゃん、落ち着いた?」

「うん……ありがとう、咲ちゃん」


 日和が感情を涙にしてから数分後、嗚咽が収まったタイミングで出雲さんが声をかけると、日和はゆっくりと頭を上げた。


「ごめんなさい……心配かけて……みんなだってあんな酷い脅迫をされて辛いのに……私だけ勝手に逃げて……」

「気にせんといてええで。ワイ達は大丈夫や」

「……ありがとう。私ってホントだめだめだ……いつも助けてもらってばかりで……みんなに何一つ返せてないどころか、心配や迷惑をかけて……」

「日和ちゃん、あたし達の話を聞いてたって事は、あたしと間猿の過去を聞いたって事だよね?」


 出雲さんの優しい声色による問い掛けに、日和はこくんと頷いて見せる。


「それで……どう思った?」

「……二人は大切な人が傷つけられたから……許せなかったんだよね」

「うん。そう思ってくれるだけで、あたしにも間猿にも救いなんだ。当時、結構色々と言われたからさ……」


 出雲さんは少し悲しそうに目を伏せながら言う。


 事情を聞いたから、俺や日和は二人が悪くないって思えるけど……表面上だけしか見ていないと、猿石君が相手選手を怪我させて、出雲さんがやり過ぎたってだけに見えるだろう。だからこそ、心無い言葉を言うような連中も出てくる。


 大体そういう奴らは、物事の本質を見ようとしない奴が多い……ホントに、ムカつく話だ。


「ワイらには、そういう暗い過去がある。それでも……神宮寺さんは一切責める事をしなかった。それだけでも、十分なお返しなんやで」

「……そう、なのかな」


 俺から少しだけ離れてから、不安そうな顔で順番に俺達の顔を見つめる日和を安心させるために、俺達は笑って頷いて見せると、ようやく日和も笑顔を見せてくれた。


「それで……日和はどうして実家に?」

「えっと……昨日話を聞いた後に、このままだと私が一緒にいるせいで、みんなが……ヒデくんが辛い思いをしちゃう……でもどうすればいいのかわからなくて……ずっと家に閉じこもって考えてたの。それでもわからなくて……気づいたら涙が溢れて……家に電話したら、真琴が家に帰っておいでって……」


 大体俺の想像通りだったか……そんなの気にしないで相談してくれても良かったし、なんなら日和が悪いなんてこれっぽっちも思っていないのに。


 優しすぎるっていうのも、ちょっと問題なのかもしれないな……。


「お父さんとお母さんも、今は仕事で海外に行っちゃってるから……真琴がずっと一緒にいてくれたの」

「そうだったんだな……なんにせよ、日和が無事でホントに良かった」

「ありがとう。えっと……その……私が一緒にいたら、またみんなに迷惑をかけちゃうかもしれないけど……これからも一緒にいていいかな……?」


 そんな事、聞かれるまでもない――みんなも俺と同じ気持ちだったようで、揃って日和に向かって首を大きく縦に振った。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。


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