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第66話 消えた日和

「日和、学校にいなかったけど……もう帰っちゃったのか?」


 猿石君と出雲さんの過去の話を終えた俺は、珍しく一人で帰路についていた。


 今日も日和と一緒に帰りたかったんだけどな……なんで一人で帰ったんだろうか。日和の事だから、何か用事があって先に帰るなら、俺に一言あってもおかしくと思う。


「晩飯も何が良いか聞いてないんだよな……電話してみるか」


 俺はスマホを取り出して日和に電話をかけたが、何コールしても日和は電話に出なかった。


 ……出ないんじゃ仕方がない。とりあえず今日は日和の好きなものでも作ってあげよう。


 そう思いながら、一人で買い物を済ませてから家についた俺は、「ただいまー」と言いながら部屋に入ったが、日和からの返事は帰ってこなかった。


 こっちに来てないのか……? もしかして本当に何か用事があったのかもしれない。


「……さっさと飯の用意をしちゃうか」


 日和がいない寂しさを紛らわせるために、俺はちょっと早いけど晩飯の支度を始める。今日の献立は日和の好きなハンバーグだ。


 付け合わせにポテトサラダと……あとはワカメと豆腐の味噌汁を作ってっと……昨日作った煮物も出してあげよう。


 よし、あらかた準備は終わった。あとはハンバーグを焼くだけだし、日和を呼びに行こう。


「さすがに帰ってきてるよな?」


 スマホにも折り返しの連絡は来てなかったけど、もう十七時を回ってるし流石に帰ってきてると思う。とりあえず日和の部屋に行ってみよう。


「……あっ……ヒデくん……」

「日和、よかった。帰ってきてたんだな」

「あ、その……えっと……」


 日和の部屋に行こうとして部屋を出たタイミングで、丁度日和も部屋から出てくるところだった。


 けど、何故か日和はよそ行きの恰好をしているし、少し挙動不審というか……俺と目を合わせてくれない。


「ごめんなさいヒデくん……私、ちょっと用事があるから出かけてくる。ごはんは済ませるから……」

「日和……? なにかあったのか?」

「なんでもないから大丈夫。それじゃ私行くね……」


 まるで逃げるように走り去る日和。ホントは追いかけた方がいいのだろうけど、用事があるというなら仕方がない。


 それに……日和の背中は、俺に追ってこないで欲しいと言っているように見えてしまい、後を追う事を躊躇ためらってしまった。


「日和……」


 俺は日和が走り去った方を見ながら、日和の名を虚しく辺りに響かせるのだった――



 ****



「……日和、なにしてるんだろう?」


 翌日の朝、珍しく自分のアラームで起きた俺は、いつもの様に朝飯の支度をしながらボソッと呟いた。


 結局あれから、日和と一回も顔を合わせていない……こんなのおかしい。今までこんな事は一度もない。


「もう一度連絡してみるか……」


 俺はスマホを操作して日和に電話をかけてみるが、昨日と同様に出る気配がない。もちろんメッセージにも反応はない。


「明らかにおかしい……日和の部屋に入ってみるか……? 日和の部屋の合い鍵は前に貰ってるけど……いや、女の子の部屋に無断で入るのもな……」


 ……いや、やっぱり不安だし見に行こう。怒られたら、土下座でもなんでもして許してもらおう。


「…………」


 日和の部屋の前に来た俺は、インターホンを押してみる。だが、日和が出てくる気配はないどころか、物音すらしない。


「日和ー?」


 俺は合い鍵を使ってドアを開けながら日和の名を呼んでみるが、反応は無い。中は電気もついてないし、カーテンも開けてないせいか、薄暗さが部屋を支配していた。


「……日和?」


 部屋の中を探してみたが、日和の姿は無かった。もしかして、もう学校に行ってる……? でも、いつも日和が使ってるカバンは部屋の隅に置いてあるし……どういう事だ?


「……どこに行ったんだ……? もしかして、昨日出かけてから、帰ってきてないのか?」


 日和の身を心配していると、スマホから着信音が鳴り響いた。画面を確認すると、知らない番号からの電話だった。


 もしかして、日和は誰かに誘拐されて、身代金を俺に要求してきたとか!? って、それなら親にするよな普通……少しは落ち着け俺。


「それにしても……随分と粘るな」


 多分十コール以上してるはずなのに、いまだに電話は切れる気配はない。


 変な電話だったら嫌だから、基本電話帳に登録されていないものには出ないんだけど……仕方ない、出てみよう。


「も、もしもし……?」

『おはようございます、英雄様。真琴です』


 え、真琴さんって……日和の家のメイドさんの!? なんで俺のスマホに電話なんて……そもそもなんで俺の番号を知ってるんだ!?


『番号は薫子様から教えていただきました』

「な、なるほど母さんから……って、大変なんです! 日和が部屋にいなくて……」

『お嬢様は今お屋敷におります』

「……どういうことですか?」


 屋敷にって……実家にいるって事だよな? 今日も普通に学校があるというのに、なんで家に帰っているんだ?


『昨日の夜、お嬢様から連絡があってお迎えに上がりました。なにやら酷く落ち込んでおられて……理由を聞いてもお話してくださいません』

「落ち込んで……」

『はい。理由も聞かずに、学校を無断で休む事に加担してしまったのは大変心苦しいですが……お嬢様の様子が、まるで英雄様と出会う前の頃の様に沈んでおられたので、放っておくわけにはいかないと判断いたしました。なので、流華様の許可を取ったあとに、お屋敷にお連れした次第です』


 とりあえず日和が無事だってわかって安心はしたけど……なんで日和は落ち込んでいたのだろうか?


 いや……今は理由よりも、落ち込んでる日和の傍に一緒にいてあげたいし、困ってるなら助けてあげたい。


「わかりました。真琴さん、お願いがあるんですけど……」

『お嬢様に会わせてくれ、でしょうか?』


 さっきの電話番号の事を言い当てられた時も思ったけど……真琴さんって先読みが凄いよな。俺の考えがわかりやすいってだけかもしれないけどさ。


『今日も学校がありますでしょう。英雄様はしっかり勉学に励んでください』

「でも!」

『お気持ちは重々承知の上です。ですが、お嬢様も学校を休んで英雄様が来たと知られたら、きっと自分のせいだと気に病んでしまうでしょう』

「そ、そうかもしれないですけど……」

『お嬢様は私達にお任せください。学校が終わり次第連絡をくだされば、こちらからすぐにお迎えに参りますので。では』


 その言葉を最後に、通話は一方的に切られてしまった。


 確かに日和なら、自分のせいで学校を休むんだと知ったら悲しむかもしれないけどさ……日和が落ち込んでいるってわかっているのに、何も出来ないなんて……!


「……くそっ!」


 俺は焦りや怒りを少しでも発散させるように、部屋の壁を強く叩いた――

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼頃に投稿予定です。


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