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第65話 二人の犯した過ち

「さて、帰るとするか」


 山吹さんに脅迫状が送られるという事件が起こったけど、それ以外はこれといって問題も起こらずに一日が終わった。


 今日は木曜日でジムもないし、久しぶりにみんなと一緒に帰って寄り道でもするか――そう思っていたら、凄く真面目な表情の猿石君と出雲さんが歩み寄ってきた。


「桐生君、ちょっとええか?」

「ああ、いいけど……二人して真面目な顔して、どうかしたか?」

「うん。桐生君に伝えたい事があって」


 俺に伝えたい事……? なんだ、二人が付き合い始めたとか? そんな訳ないか……もしそうだったら、もっと嬉しそうな感じになってるだろうし。


「三人で話したいから、ちょっと移動してもいい?」

「三人……? 日和と山吹さんは抜きか?」

「せやな。特に神宮寺さんにはあまり聞かせたくない話や」


 そう言うと、二人は早足で教室を後にしていったため、俺も急いで二人の後を追いかけると、行き先は屋上だった。最近ここに変な縁があるな。


 それにしても、日和には聞かせたくなって……もしかして……いや、まさかな……そんなはずはない。


「ごめんね桐生君、急でびっくりだよね」

「気にするな。それで、伝えたい事って……」

「ああ、実は……」


 嫌な予感を胸に感じながら聞くと、二人はそれぞれ一枚の紙を取り出した。そこには、


『神宮寺日和と縁を切れ。さもなければ、お前が過去に犯した、野球の試合の暴力沙汰を周りにばらす』

『神宮寺日和と縁を切れ。さもなければ、お前が過去に犯した、試合中に選手を壊した事を周りにばらす』


 と、それぞれの紙に書いてあった。


 やっぱりか……もしかしたら、二人にも脅しの手紙が来たんじゃないかって思ったけど……嫌な予感が的中してしまった。


「日和と縁を切らなければばらすって……山吹さんのと同じような感じだな。これは、いつどこにあったんだ?」

「ワイのは昼飯を食い終わったら机に入っておったわ」

「あたしのは、五時間目の教室移動から戻ってきて、ロッカーに教科書をしまおうと思ったらロッカーに入ってたんだ。多分ロッカーの隙間から入れたんだと思う」

「そうか……ちなみにこれは事実なのか?」


 こんな事、真実じゃなければいいんだけど……そんな俺の願いは虚しく、二人は深々と頷いて肯定の意を示した。


「詳しく……聞いていいか?」

「ワイのも咲のも、あんまり面白い話やあらへんけど……それでもええか?」

「ああ。二人が理由も無しにそんな事をする訳ないって信じてるからさ」


 俺の言葉で少し安心してくれたのか、二人は表情を和らげながらぽつぽつと話し始めた。


「ワイは中学まで野球をしておったんやけど、相手のピッチャーが割と危険なデッドボールをしたんや。ほしたらうちのチームメイトがブチ切れおってな」

「うんうん」

「相手のピッチャーもブチ切れて……乱闘にまで発展したんや。ワイはそれを止めるために加勢したんや。ほしたら、ピッチャーがうちのチームメイトをバカにしよったんや。ほんでムカついたワイは思い切りどついてしもうて……ケガを負わせてしもたんや」


 なんだかんだで友達想いの猿石君らしいな。この脅迫文だけをみると、猿石君が暴力沙汰を起こしたように見えるけど、そうじゃなくて安心した。


「ほんで、そのピッチャーは将来プロになってもおかしくないって言われてた有望株でな。そんな男をケガさせたっちゅー事で大騒ぎ。責任を全部ワイに押し付けてハイおしまいや」

「は……? そのピッチャーがバカにしたのが原因だろ?」

「せやな。でも相手はプロを期待されてた奴……相手を擁護する奴は沢山いた一方で、ワイの味方をしてくれる奴はおらんかった。それで責任を取ってチームを追い出されたっちゅー事やな」


 ……ふざけた話だ。確かに殴ったのは良くないけど、どうしてチームメイトは誰も猿石君の味方をしなかったんだ? 聞いてるだけで腹が立ってくる。


「ホント納得いかないよね。あたしはクソピッチャーが間猿の実力を怖がってて、自分の立場を守るために煽ったんじゃないかって思ってるの。だって間猿もすごいピッチャーだったんだから」

「猿石君もピッチャーだったのか。だから黒鉄との一件の時、あんな薄暗い所でも黒鉄に石ころを当てられたんだな」


 中々に凄いことが出来るんだなとは思ってたけど、今の話を聞いて納得した。


「ちなみにそのピッチャー、つい最近肩をぶっ壊して選手生命が断たれたらしいよ? ホントざまあみろってね!」

「咲、別にそんな慣れない悪態をつく必要はあらへんで?」

「だって、少しは言ってやらないとムカつくじゃん!」

「気持ちはわかるけどさ。とりあえず猿石君のはわかったけど、出雲さんのは?」

「あー……えっとね」


 出雲さんは気まずそうに視線を逸らし、ポリポリと頭を掻きながら口を開いた。


「あたしのも間猿と結構似てる感じっていうか……中学の時、キックボクシングの大会があったの」

「うんうん」

「順調に勝ち上がって、決勝までいったんだけど……相手の選手とかコーチが、パパの事をすっごい馬鹿にしたの」

「どういう事だ?」

「パパもキックボクシングの選手で、凄い選手だったの。でも……いつも二位にしかなれなかった。それで、万年二位の奴の娘なんて取るに足らない相手だってバカにしてきてさ」


 話しながら昔の事を思い出してきてしまったのか、出雲さんは悔しそうに歯ぎしりをしながら、握りこぶしを作っていた。


「あたしはパパが馬鹿にされた事が許せなくて……相手の子まで、パパを負け犬ってバカにしてきた。それで……相手を再起不能になるまでボコボコにしちゃったの」

「…………」

「あはは、引いちゃうでしょ?」


 なるほど、そんな事があったのか……今日の昼休みの話じゃないけど、やっぱり誰でも間違いは犯しているものだな。


「出雲さん、頭を上げてくれ。むしろ俺は安心してるんだ」

「え……?」

「だって、二人共大切な仲間や親を馬鹿にされたから……つまり、誰かの為に行った事じゃないか。まあちょっとやり過ぎちゃったのかもしれないけど……」


 二人は凄く優しい。だからこそ、仲間や親を馬鹿にされて許せなかったんだろう。結果的には悪者にされてしまったんだろうけど、だからといって、俺は二人を軽蔑する事はない。


「ホントに……? 最低な奴だって思ってない?」

「全然」

「……おおきに、桐生君」

「ぐすっ……ありがとう。あたし……桐生君と友達になれてホントに良かった。もちろん日和ちゃんとも、綾香ちゃんとも!」

「せやな。桐生君、ワイらはみんながおるから……この事を周りにバラされても問題あらへん。だから……絶対に一緒に黒幕を捕まえたろな!」


 俺はニカッと笑う猿石君とうれし泣きをする出雲さんに、これからも友達でいよういうのと、絶対に黒幕を捕まえようという意思を込めて、強く握手をするのだった――





「二人にも脅迫状……私が……私がいるせいで……みんなが……ヒデくんが辛い思いをしちゃう……私……私がいるせいで……」

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。


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