第61話 孤立
前回書いた予定より投稿の遅れてしまい申し訳ございませんでした!
「酷い……なにこれ」
黒板に書かれた言葉を見た日和は、表情を歪めながら口を両手でおさえていた。
所々に書いてある姫宮っていう単語から見るに、これは姫宮に当てられた悪口というのがわかる。一体誰がこんなのを書いたんだ……?
「ん? なんだ?」
黒板を眺めていると、スマホから通知音が鳴り響いた。確認をすると、俺達仲良し五人のグループチャットに、猿石君から一つの動画が添付されていた。
『こんなのがクラスのグループチャットに流れてたんやけど』
猿石君のメッセージの後に添付されていた動画を見て、俺は驚きを隠せなかった。
何故なら、その動画は先週の金曜日に、田中君から姫宮の事を聞いた時の現場を隠し撮りした動画だったからだ。
いつの間にこんな動画を……? いや待て。そういえば話が終わった後に、屋上の出入り口から視線を感じた。もしかして、誰かがついてきて隠し撮りをしたって事か?
『どうみてもこれ隠し撮りだよね?』
『さっきあたしの他のクラスの知り合いからチャットが飛んできた。多分他のクラスどころか、学校中に拡散されててもおかしくないかも……』
学校中に拡散って……そうか、登校中にやたらと視線を感じたりヒソヒソ話をされてると思ってたけど、この動画が原因だったのか!
「な、なにこれ……!」
バンッ!! と、教室のドアが壊れるんじゃないかと思ってしまうくらいの音と共に、姫宮が教室に飛び込んできた。きっと姫宮もあの動画を見て、どういう事なのか確認するために急いで来たのだろう。
「ヒーロー……! あんたこんな動画を撮って拡散するとかどういう事!?」
「俺じゃない。むしろ今動画の事を知って、驚いてるくらいだ」
「ウソよ!」
全く聞く耳を持たない姫宮は、俺の胸ぐらを掴んで、前後に俺の身体を振り回す。取り乱す気持ちはよくわかるけど、少しは話を聞いて欲しい。
「うわー桐生君のせいにしてるー」
「サイテー!」
「やっぱり性悪女だわ!」
普段から姫宮を嫌っている三人の女子達から、まるで小学生みたいなヤジが飛んできた。それに便乗するように、他のクラスメイト達も「やっぱり性格が悪いんだ」とか、「最悪だな」といった声が聞こえてくる。
……これは、誰も姫宮の味方をするつもりが無いようだな。
「動画で言っている事は正しい! 実際に俺は一緒にカラオケに行ったんだが、奴は確かにそう言っていた!」
教室にいた眼鏡の男子が、眼鏡を上げながら勢いよく立ち上がる。
現場にいた奴が言うなら、間違いは無いだろうな……。もしかしたら、ホントはいなかったのに嘘をついている可能性もあるけど。
「うっ……ねえ、ヒーローは信じてくれるよね? アタシが動画のような酷い事をしないって。あんなのは、根暗男が捏造した事だよ!」
さっきまでの態度はどこへ行ったのか……姫宮はすがるような目で俺を見つめてくる。
正直な所、これが姫宮じゃなければ絶対にお前が悪だ! 助ける価値は無い! なんて思わなかった。
でも……俺の中では悪という認識になっている。
「お前……前に俺と春休みに遊んだ時に、俺を騙して不良達にボコらせただろ」
「え……? 急になに? ていうか、それアタシじゃないって言ったじゃん!」
「その出来事と、お前が男をおもちゃにしてるって聞いただけじゃ、どうして俺を騙したのか、まだわからなかった……それで、じっくり考えてみたんだ」
田中君から姫宮の本性を聞いた時、最初は何故姫宮が俺を騙したのかわからなかった。おもちゃにしたいのなら、普通に仲良くなればいいのだから。
でも、あの後に家でじっくりと考えてたら一つの仮説が出てきたんだ。
「お前は、不良達にボコられて俺を更に絶望の底に叩き落として、弱ってる隙に近寄り、俺を慰めて好感度を上げておもちゃにしようとした。違うか?」
「っ!?」
俺は真っ直ぐと姫宮を見つめながら言うと、姫宮は目を丸くしながら視線を泳がせ始める。
これは、多分クロだろう。ふざけやがって……そんなくだらない理由で俺は不良達にボコられた上、落ち込み過ぎて自殺しようとしたんだぞ。絶対に許せる事じゃない。
「えーなにそれーサイテー!」
「クズ過ぎるでしょ!」
「うるさい。外野は黙れ」
またしても姫宮を嫌っている女子達から声が上がるが、俺が思い切り眉間にしわを寄せながら連中を睨みつけると、一瞬で静かになった。
ああいう安全な所から人の悪口を言うような奴を見ると……反吐が出る。
「……元はといえば、あんたがさっさとアタシのおもちゃにならないのが悪いの! ヒーローの心の支えになったあんたも! アタシを脅したあいつも! こんな動画を撮ったやつも! 全部全部! そいつらが悪いのよ!! アタシは悪くない!!」
「やっぱり、全部ホントだったのか」
「ええそうよ! 悪い!? あんたも馬鹿な男達も、可愛いアタシの言いなりになってればいいのよ!」
全ての怒りや憎しみを俺にぶつけるように、大声を教室に響かせる。
自分でここまで言えるとか、逆に尊敬に値するな……真似したいとは全く思わないけどさ。
「ヒデくんは……おもちゃなんかじゃない! あなたみたいな酷い人に……ヒデくんを悪く言う資格は無い!」
「何よ生意気な! あんたみたいな根暗な女、どうせヒーローがいなきゃ何もできないお荷物でしょ!」
「は……? おい、もう一回言ってみろ」
「ヒデ、くん……?」
お荷物だと……? そいつは聞き捨てならない。俺の事をどうこうするのは、百歩譲って良いとしよう。だが、日和を馬鹿にする事だけは断じて許すことは出来ない!
「日和はお荷物なんかじゃない。日和はお前にトドメを刺されて、人生に絶望していた俺を救ってくれたどころか、俺に目標を決めるきっかけもくれた。ずっと俺と一緒にいて支えてくれた。それだけじゃない……日和がいたから、俺は学校生活で初めての友達が出来たんだ」
これ以上こんな奴に言っても仕方のない事かもしれない。周りの連中に変な目で見られるようになるかもしれない。
でも……俺はどうしても止めることは出来なかったんだ。
「てめえみたいな、人の事を自分を気持ちよくする道具としか思ってないような奴に、非難される筋合いなんて、これっぽっちもねえんだよ! わかったか!」
「うっ……!」
俺の怒りをぶつけられてたじろいだ姫宮は、数歩後ずさりしながら教室内を見渡した。
きっと誰かに助けを求めようとしているのだろうが、こんな状況で姫宮を助けようとする奴なんて一人もいるはずもなく――みんな冷たい目線を送るだけだった。
「……ああイライラする! どうしてアタシの思い通りにいかないのよ!! お前ら全員死んじゃえ!!」
姫宮は捨て台詞を吐きながら、教室から走り去っていった。
正直、寄ってたかって姫宮をリンチしたみたいな後味の悪さがあるが……これも全てあいつが自分で蒔いた種だ。同情の余地はない。
「…………」
「ふう……日和? どうした?」
姫宮が去って一息入れた俺の視界には、酷い落書きが書かれている黒板をジッと見る日和の姿があった。
こんなの見ても嫌な気分になるだけだと思うんだけど……そう思っていたら、日和は突然黒板消しを手に取って、悪口を消し始めた。
「よいしょ……よいしょ……」
「日和……?」
「……姫宮さんは確かに悪い事をしたと思う。ヒデくんに酷い事をしたのも許せない。でも……だからってこんな酷い事をしていいわけじゃない。だから消すの」
日和の真っ直ぐで優しい気持ちによる行動を目にした俺は、そうだなと頷いてから一緒に落書きを消し始める。
日和の言う通りだ……いくら姫宮が悪い事をしていたからといって、嫌がらせをして良いという理由にはならない。嫌がらせもいじめも、正当化なんて出来るものじゃないのだから。
「なにあいつ……良い子ちゃん気取り?」
「ああやって男子達のポイントを稼ぐつもりじゃない?」
「えー桐生君がいるのに? あいつもビッチじゃん」
「…………」
またしても、あの三人から嫌味が飛んできやがった。姫宮だけじゃなくて、きっと目についた奴の陰口を言わないと生きていけないタイプなのだろう……いるんだよな、こういう心の狭い人間。
日和は落書きを消すのに夢中になっているのか、あの女共の陰口は聞こえていないのが幸いってところか。
あと、あいつらには俺もちょっと用があるし……丁度いい。声をかけるか。
「ちょっと可愛いからっていい気になってるよねー」
「わかるー」
「なあ、少しいいか」
まだ陰口をやめないこいつらに苛立ちを覚えながらも、俺は今できる最高の作り笑顔で話しかけながら、とある物を出した。
「このイルカのキーホルダー、三人のうちの誰かのじゃないか?」
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は火曜日の朝にに投稿予定です。
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