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第56話 英雄は真面目さん

「日和……!」


 完全に俺の中の煩悩に身体を支配されていた俺は、ゆっくりと右手を日和の胸元へ向けて下げていく。


 日和から一切抵抗は無いし、このままあと数センチ動かせば……その流れで日和と……!


「……ダメだ!!」

「ひ、ヒデくん?」


 ギリギリの所で理性を取り戻した俺は、自分の右手を左手で掴んで動きを止める。その際に大きな声を出したせいか、日和を驚かせてしまった。


「ごめん日和、俺……自分の欲に負けて……」

「……?」


 俺の言っている事がよくわからなかったのか、小首を傾げる日和。


 くそっ……一挙一動がホントに可愛すぎて、俺の煩悩に直接攻撃してきやがる!


「その……日和が可愛くて魅力的だったから……えっちな事をしそうになって……」

「……あ、あぅ……そうなんだ……」


 ストレートな説明でようやくわかったのか、日和は耳まで真っ赤にしながら俯いてしまった。


 い、言わないほうが良かった……前に日和の家に行った時も、似たような事を言って恥ずかしがらせてしまっただろ……! 完全にミスった……!


「ご、ごめん! 変な事を言って!」

「う、ううん。いいの……」

「俺、先に出るな! このままここでシャワー済ませていいから! じゃあ!」

「あ、ヒデくん……」


 この空気と罪悪感に完全敗北した俺は、自分でも驚くくらいのスピードで泡を流し、身体を拭いて風呂場を後にした。


「はぁ……はぁ……あぁぁぁ!!」


 今に戻ってきた俺は、置いてある座布団に顔をうずめながら悶え始める。


 確かに俺達は付き合ってるし、えっちな事をしてもおかしくはないのかもしれない。


 でも……いくら日和の事が魅力的だからって、日和の同意を得ずに、自分の煩悩に負けて手を出しそうになるとか、そんなの日和を傷つける行為だろ!


 それに、そんなえっちな事を高一でやるとか……は、早すぎるって! そういうのは大学生とか社会人になってからが普通なんじゃないか!?


「すー……はー……落ち着け……落ち着け……」


 今まで生きてきた中で、一番深いと言っても過言ではないくらいの深呼吸をして、なんとか冷静さを取り戻そうとしても、さっきの日和のとろけた顔や、柔らかい感触ばかりを思い出してしまい、全く落ち着ける気配が無い。


 落ち着こうとしてまた煩悩が出て、また落ち着こうとして――そんな無意味な事を何分続けていたのだろう? 気づいたら、風呂場から日和が顔だけ出してこっちを見ていた。


「ひ、ヒデくん……その、バスタオルほしい。さっき巻いてたの濡れちゃったから」

「あ、ああ! ごめん今用意す――ぐえっ!」

「ヒデくん!?」


 俺は慌てて立ち上がってしまったせいか、足をもつれさせて転倒してしまった。


 ああもう、日和に手を出しそうになるし、みっともない所を見せてるし……自分が情けなさすぎて自己嫌悪に陥りそうだ……。


「は、はい!」

「ありがとう」


 俺はタンスからバスタオルを一枚手に取ってから、なるべく日和を見ないようにしてバスタオルを渡す。


 それから数分後、頭にバスタオルを巻いた日和が風呂場から出てきた。風呂上がりだからなのか、それともまだ恥ずかしがってるのか――日和の頬はほんのりと紅潮していて、凄く色っぽく見える。


「その、お風呂ありがとう」

「お……俺こそシャワーの手伝いをしてくれてありがとな!」

「う、うん……」

「あー……俺飲み物取ってくる!」

「あ、じゃあ私が……」


 日和が動き出す前に、俺は逃げるようにキッチンへと向かう。


 なにやってんだ俺……こんな日和を避けるような事をして……とにかく今のうちに少しでも冷静さを取り戻さないと。


「お、お待たせ」

「うん」


 俺は麦茶が入ったコップを二人分持って居間に戻り、一緒に麦茶を口にする。


「ヒデくん」

「な、なんだ?」

「その……ね。私……え、えっち……な事は……イヤってわけじゃない。でも……まだ恥ずかしい」


 日和は視線を下に落とし、モジモジとしながらゆっくりと話す。


 ああもう、可愛すぎる! しかもイヤじゃないって……だからダメだって! いい加減収まれ俺の煩悩!


「俺こそごめん……日和は俺の事を考えて手伝ってくれたのに……」

「ううん。恥ずかしいけど……嬉しいの。だって、ヒデくんが私の事を一人の女の子として見てくれてるって事だよね」

「当然だろ! 日和以外の女の子とか考えられないから!」

「そ、そうなんだ……えへへ」


 出会った頃や再会した当時からしたら想像も出来ないような、少しだらしない笑顔で喜ぶ日和。


 日和もこの数ヶ月で、ホントに感情をたくさん表に出してくれるようになったな……そんな日和が魅力的すぎる。今も可愛すぎて、正直しんどいくらいなんだけど。


「それで、その……俺さ、女の子をこんなに好きになった事が今までなくて……日和への気持ちが自分でもびっくりするくらい大きくなってて……自分で自分が抑えられなくて」

「……うん」

「そういうえっちな事は、最低でも五年は早いってわかってる! でも自分を抑えきれなかったっていうか……ホントにごめん!」


 俺は土下座する勢いで頭を下げる。こんな事で許されるかなんてわからないけど、俺にはそうする事しか出来なかった。


「……ちょっと待って。五年?」

「あ、ああ。高校生でそんな事をするのは不純っていうか……えっちな事は大学生とか社会人みたいな、もっと大人になってからするものじゃないのか?」

「…………」


 恐る恐る頭を上げながら答えると、何故か日和は目を丸くしながら、パチパチと瞬きを素早く繰り返していた。


「ふふっ……ヒデくんって、ホントにすっごく真面目さんだよね」

「……誠司さんにも同じような事を言われたな」

「そうだったんだね。真面目なお父さんが言うって事は、よっぽどだね」


 怒ったり呆れたりとかせず、上品に口に手を当てて笑う日和の姿を見て少し安心出来たのはいいけど……やっぱり俺の考え方って、ただのクソ真面目野郎なんだろうか……。


「でも……それくらい私の事を大切にしてくれてるって事だよね」

「もちろん!」

「ありがとう。じゃあ私も……ヒデくんに苦しい思いをして欲しくないから、ちゅーとかくっつくのとか、一緒に寝るのを我慢する」

「で、でも日和はしたいんだろ?」

「うん。あ……ううん、したくない」


 急いで否定するけど、目は泳いでるしソワソワしてるしで、全く気持ちを隠しきれてない。


 全く……ウソをつけない日和、ホントに可愛すぎるだろ。


「今までのは大丈夫だよ。実際に抑えられてたし」

「でも……いいの?」

「いいよ。その……俺もしたいし。ただ、さすがに裸やバスタオルは刺激が強すぎるから、ちょっと勘弁してほしいかな」

「わかった。じゃあ次はバスタオルじゃなくて水着を着る」

「いや、そういう問題じゃ……」

「冗談」


 なんだ冗談か……ビックリさせないでくれ……。


 それにしても、日和の水着か。絶対可愛いだろうな……ビキニも良いし、ワンピースタイプも……夏は一緒にプールとか海に行きたいな……でも、きっと周りの男達が日和を放っておかないだろうし、それに……日和の水着を独り占めしたい。


 俺って、思ったより独占欲が強いのかもしれないな。


「じゃあ、そろそろホントに帰るね」

「ああ。っと帰る前に……おやすみのやつ」

「さっきしたのに……いいの?」

「もちろん」

「えへへ……ちゅっ」


 いつもの様に触れるだけのキスを交わしてから、日和を見送るために玄関に向かう。そこで今度こそ今日はバイバイだと思っていたら、何故か日和は振り返って口を開いた。


「あ、ヒデくん……私ね、頑張って少しでも早く、恥ずかしいのを克服する。だからその……五年はちょっと長いかな……なんて……」

「え……?」

「な、なんでもない。おやすみなさい!」


 照れ笑いをしながら小さく手を振った日よりは、小走りで自分の部屋へと戻っていった。


 えっと……日和の言葉って……そういう意味だよな……。


「今日は寝られそうもないな……」


 ドキドキが一向に収まる気配のない胸を押さえながら、俺はそそくさと部屋の中へと戻るのだった――



 ****



「英雄くん……なんでわたしの方を向いてくれないの……?」


 英雄くんにわたしのやっている事がバレてしまった日の夜中、わたしは自分の部屋のベッドに寝転びながら、大切な友達の英雄くんへの想いを口にしていました。


 運命的な再会をしたあの日から、いつかはまた英雄くんと仲良くできる日が来ると思ってました。でも……現実は優しくありませんでした。


 英雄くんは一切私の事など気にもかけず、例のあの銀髪の女とずっと一緒にいるんです。しかもものすごく楽しそうで、幸せそうに笑うんです。


 どうしてそんな女と一緒にいて、楽しそうにしているんですか? 小学校の時、わたしと一緒にいるのが楽しいって言ってくれたじゃないですか。


 あの時、わたしがキライと言った事をまだ怒っているんですか? わたしは悪くないんです。全てはあのいじめっ子達が悪いんです。なのに、どうしてわかってくれないんですか?


「どうして……英雄くん……」


 私はベッドから起き上がると、壁一面に貼られた英雄くんの写真をそっと撫でる。


 ふふっ……この一か月の間、英雄くんにストーカーしながらたくさん撮った英雄くんの写真……何回見ても良い……。


「……でも」


 英雄くんの写真に写りこむ、忌々しい女——神宮寺日和。こいつが憎くてしょうがない。こいつさえいなければ……わたしは英雄くんと仲良くできたのに!


「憎い……お前が英雄くンを騙してるから、英雄くんハわたしを否定しタんだ!!」


 わたしは勉強机に置いテあったハサミを手に持つと、忌々シい女に向けて思い切り突き刺しマシた。


 こんな事をやッても意味のない事だとハわかっています。もう英雄くんはわたしの事なんて見てくレないでしょうし、いくら頑張っテモあの女と離れル事もしないと思います。


 そレなら……現実ノ英雄くんがわたしを嫌ウトいうなら……わたしの世界で英雄くんと仲良くスレばいイダけ。


 この部屋の中にいれば、わたしはずっと英雄くんと一緒……たくさんの英雄くんに囲まれてる……あは……アハハハ……そうデスよね、現実なんていつも上手くいかないんですから、最初からこうすればよかったんですよね?


「英雄くん……ひで、お……今日……ご本……」


 アハハ……ひでおクンってば……そんなにわたしノ本のハナシが聞きたいノ……? いいよ……今日はトッテオキの恋愛小説ガアッテ……。


「ウン……ソウナノ……エ、オモシロイ……? ヨカッター」


 ヒデオクン……ワタシノオトモダチ……ズット……ズット……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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