第50話 作戦会議
「おじゃましま~す!」
日和のメイクの可愛さに驚いたり、陰湿な嫌がらせへの怒りを燃やした日の放課後——出雲さんの元気な声に続くように、日和、猿石君、山吹さんが俺の家の中へと入ってくる。
今日は俺の家で今後の相談をみんなとする為に、誰にも邪魔されないであろう俺の家へと招集した。急な招集だったとはいえ、みんな快く来てくれた。感謝しかない。
あと、出雲さんが豪さんに、今日もジムを休むという連絡を入れてくれた。
「ここで、桐生君と神宮寺さんが愛を育んでおるんか……」
「ま・さ・る?」
「冗談やって! だからその凶悪な握力を持った手を引っ込めんかい!」
「ははっ……今お茶を入れるから、適当に座って待っててくれ」
「ヒデくん、私も手伝う」
「ああ、ありがとう」
俺は日和と一緒にキッチンへ行くと、手早く人数分のお茶を用意する。日和は湯飲みやお茶菓子を用意するために、茶箪笥をガサゴソと漁っていた。
「ヒデくん、湯飲みはこれでいい?」
「大丈夫。ありがとう」
「お茶菓子、おまんじゅうがあった」
「じゃあそれを持っていこうか」
日和が用意してくれた湯飲みにほうじ茶を注いでから、日和と手分けをして今に持っていくと、何故かニヤニヤしている猿石君と出雲さん、そして鼻息を荒くしている山吹さんに迎えられた。
「ほう……咲、どう思う?」
「いや~完全に自分の家みたいに慣れてるよね。きっとこの家によく来てると思われる!」
「まるで熟年夫婦みたいに息が合ってる! もしかして日和ちゃんはここに住んでるの!? ふんすふんすっ!」
「わかったわかった! お茶がこぼれるから揺らすな!」
鼻息を荒くしながら目をキラキラさせる山吹さんを、俺はなんとかなだめながらテーブルに湯飲みとまんじゅうを並べる。
ホントはこのままみんなと楽しく雑談をしたい所なんだけど……そういう訳にもいかない。
「いただきま~す……はぁ……お茶おいしぃ」
「そりゃよかったよ。それじゃ……早速話をしたい」
ほんわかとする出雲さんに苦笑をしながら、俺は本題を切り出すと、みんな空気を読むように真剣な顔になった。
「みんなも知ってる事だけど……先週の金曜と今日、日和に嫌がらせをする奴が現れた」
「桐生君、相手に心当たりってないの? もしあるなら、あたしが蹴り飛ばしてくるよ!」
「ゴリラが蹴っ飛ばしたら首が飛ぶからやめとき」
この前は頭に血が上ってすぐだったから思いつかなかったけど、冷静な今ならなにか思いつくかもしれない……ちょっと考えてみよう。
とりあえず、今は俺の知らない連中の線は除外しよう。あまりにも人数が多すぎるし、こんな事をする理由がわからないし。
じゃあ俺の知っている人間でこんな事をする奴……。
「心当たりは……ないこともない」
「それは誰なんや?」
「同じクラスの姫宮杏奈、別クラスの鬼塚美織と……花園こころだ」
日和に嫌がらせをしそうな三人の名前を上げると、女子三人は知らないのか、小首を傾げるだけだった。
「ヒデくん、姫宮さんは知ってるけど……あとの二人って誰?」
「順番に説明するよ。姫宮は中学を卒業後の春休み、俺を騙した事があるんだ。それに、何故かはわからないけど、やたらと俺に絡んでくる」
「あ~それウチも見たことある。じゃあもしかしたら、姫宮さんは桐生君の事が好きで絡んできてて、恋人の日和ちゃんが邪魔になったとか」
「ない、とは言えない」
そうなると、やっぱり姫宮がやっているのだろうか……? でも、そんな汚いような事をする奴には思えないんだよな。なんていうか……あいつなら、そんな事をしないで俺に直接誘惑してくる気がする。
「そういう事かいな……納得したわ」
「猿石君?」
「実はな、林間学校のレクリエーションの後、姫宮さんに呼び出されたんや。ほんで仲良うなりたいって誘惑してきたんやけど……ワイを取り込んで、桐生君に近づくための架け橋にするつもりやったみたいやろな」
「そ、そんな事があったのか……」
「ちょっと間猿!? まさかホイホイと誘惑に乗ってないでしょうね!」
凄い剣幕で猿石君に迫る出雲さんの姿に、ちょっと引いてしまった。実際に女の子が大好きな猿石君なら、喜んで誘惑に乗りそうだけど。
「怪しいから乗らんかったわ」
「ほっ……よかった」
「なんや咲、ワイがついていったら不都合なんか??」
「別にそんなんじゃないわよ!」
相変わらずこの二人は仲がいいなぁ……って、それは今は置いておくとして。まだ決めつけるのは早いけど、何かの理由で俺に近づきたい姫宮が、ずっと俺と一緒にいる日和が邪魔だから、嫌がらせをして潰そうって思ってる可能性は高そうだ。
「ヒデくん、後の二人は?」
「ああ。鬼塚美織は小学校の頃から俺をいじめてた奴でな……みんなも知ってる、あの黒鉄の仲間だ」
俺が鬼塚の説明をすると、みんなに表情に、今日一番の緊張が走った。
まあ黒鉄の名前が出れば、嫌が応でも警戒はするよな……。
「あの黒鉄の仲間って、完全にクロやないか?」
「そこだけ見ればそうなんだけど、日和に嫌がらせをする理由がわからない。ただ、色々と怪しい人物である事に違いはないな」
鬼塚はいつも余裕たっぷりっていうか、底知れぬ黒さがあるっていうか……注意した方が良い人物なのは確かだ。
「あたし、その鬼塚って人知ってるかも。なんか先生が、すごく優秀な生徒がいるって言ってて、その名前が鬼塚だった気がする!」
「ますますよぅわからんな? 優等生なくせに黒鉄と長年つるんでおったんか?」
「その辺は考えてもわからないだろうし、最後の奴の話をするぞ。といっても、あんまり話すことは無いんだけど……」
俺の言葉をしっかり聞くために、再度みんなの視線が俺へと集中する。
「花園こころは、小学校の頃の同級生でな。昔は仲良くしていたんだけど、急に嫌われてそれっきりだったんだ。でも、高校に入学してすぐの頃に再会したんだ。その時に、また仲良くしようって言われたんだけど……」
「なら仲良くすればよかったんじゃないの?」
「出雲さんの言う事もわかる。でも……花園のせいで、黒鉄や鬼塚の俺に対するいじめが悪化したうえ、唯一の友達と思っていた花園に嫌われて、俺は絶望に叩き落とされた。それに……一方的に俺を拒絶しておいて、今更どの面下げて仲良くしようって言ってんだって思ったら……」
「……ごめん。あたしが無神経だった」
出雲さんは申し訳なさそうに眉尻を下げながら、ぺこっと頭を下げる。
別にそんな気に病む事じゃないんだけどな……事情を知らなかったら、普通に仲良くすればいいんじゃないのかって思うのは、別におかしなことじゃないしな。
「俺は大丈夫だから気にしないでくれ。んで、花園に関してだけど……こいつが一番嫌がらせをする意味がわからない。再会した時に拒絶した俺に逆恨みをしていて、腹いせに俺じゃなくて日和に嫌がらせをしてるって可能性はあるけど……」
「もしそうなら、随分と遠回りやなぁ」
「そういう事だ」
猿石君の言葉に、俺は頷きながら同意をする。
結局のところ、こいつが犯人だっていう明確な証拠どころか、手掛かりすらないから、憶測で考えるしかないんだよな。
「とりあえずさ、犯人が誰かとか後回しにして、これからどうするか決めない?」
「ウチも咲ちゃんに賛成!」
……それもそうだな。犯人なんて誰でもいい……大切なのは、一日でも早く嫌がらせを止めて、日和が安心して学校に通えるようにしないと。
「その、先生に相談してみる……とか?」
「日和、それはあまり効果が無いんだよ」
「そうなの?」
「まあ学校にもよるかもしれないけど、少なくとも俺は小学校と中学校でいじめられ続けた時、学校が対応してくれたことは一度もない。だから、俺は自分で犯人を見つけたい」
実は俺はいじめられていた時、先生にいじめられているから何とかしてくれって言った事がある。しかも一回や二回ではない。
その度に、わかったって言ってくれる先生もいれば、いじめられる側にも問題があるという、ふざけた返しをしてくる先生もいた。
まあ他にも色んなタイプの先生がいたけど……共通していたのが、誰も俺を助けてくれなかった事だ。
しかも、俺の知らない所で母さんも学校に連絡していたとこの前聞いた瞬間、俺の中での学校のいじめへの対処は全く期待できないと思うようになった。
「……桐生君、苦労して来たんだね……」
「お、おう……山吹さん、急にどうした?」
「だって……そんな過去があったなんて知らなかったし……さっきも鬼塚さんと花園さんの時にもいじめられてた事が出てきてたし……学校も助けてくれなかったなんて……」
何故か涙ぐむ山吹さんに続くように、猿石君と出雲さんもうんうんと頷く。
そういえば、面白い話でもないから、別にいう必要は無いと思って、日和にしかいじめられていた事は言ってなかったな……。
「まあ当時は大変だったけど、過去は過去だしな」
「ヒデくん……」
「話が逸れちゃったな。それで、どうするかだけど……現場を押えたいって思っている」
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。
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