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第48話 英雄を狙う女達の密会

 日曜日の昼下がり、どんよりと広がる曇り空に憂鬱になりながら、アタシは駅前のとあるカフェへと向かって歩いていた。


 ホントならこんな天気の悪い日に外なんて出たくないけど……金曜日の放課後に、あいつに呼び出されたから、仕方なくこうして出歩いている。


 それにしても、一体何の用件なんだが……まあ大体は想像がついてるけど。


「ここね」


 駅前から少し離れた所にある、アンティークな雰囲気のカフェの前に立ったアタシは、ゆっくりと入口を開ける。すると、カランカラン――と、ベルの音が鳴り響いた。


「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

「あ、人を待たせてて」


 女の店員に適当に返事をしてから辺りを見渡すと、一人の女子がアタシを見ながら、小さく手を振っていた。


 そう――鬼塚美織が。


 全く、あんないかにも自分は害がありませんって言わんばかりの微笑み……見ててイライラするわ。


「こんにちは。もしかしたら来ないかと思ったわ」

「ふん。来なかったらどうするつもりだったわけ?」

「ご想像にお任せするわ」


 この余裕たっぷりな態度、何かイライラするのよね。だから中学の卒業式以来、一切喋っていなかったんだけど……。


 そんなこいつが呼び出すって事は、きっとあの事だと思う。


「ご注文は?」

「あ、オレンジジュースで」

「かしこまりました」

「ふふっ、随分と可愛い飲み物を飲むのね。それも可愛く見られたいから?」

「うっさいわね。普通に好きなだけよ! あんたこそコーヒーなんて飲んで、大人の女をアピールしたい訳?」

「そうね。あなたよりは大人って思われるために飲んでるのかも」


 ああもう、ホントにイライラさせるわね! そうやって人をおちょくるような事を言って何が楽しいの!?


「それで、休みの日に呼び出して何よ? まさか普通にお茶しようと読んだわけじゃないわよね」

「そうだって言ったら?」

「帰らせてもらう」

「冗談よ。そんなイライラしてたら、せっかく仲良くなった男の子達に嫌われるわよ?」


 うっさいわね、別にあんたに心配される筋合いなんて無いわよ!


「いいから用件を言いなさいよ」

「言わなくてもわかってるでしょう?」

「まあなんとなくは。神宮寺日和の件でしょ」


 あたしの言葉に、鬼塚は余裕を崩すことなく、「ええ」と言いながら頷く。やっぱりこいつがあんな事をしているの?


「あれ、あんたの仕業?」

「いいえ。でも……誰がやってるかは知ってるわ」

「へえ。それって誰なの?」

「あなたは知らない子よ。私の小学校の頃のお友達……ふふっ」


 何がお友達よ。完全にこいつが仕組んでるって言っているようなものじゃない。


「で、そのお友達とやらは何で神宮寺日和に嫌がらせしてるわけ?」

「なんか変に拗らせちゃってる子でね……その子、ヒーロー君の事が好きなんだけど、神宮寺さんがずっとヒーロー君にべったりじゃない? だから、ヒーロー君を彼女から取り戻したい……その為に、彼女に嫌がらせをして潰そうって魂胆らしいわよ」

「うわぁ……なにその意味のわからない思考……」


 拗らせてるっていうか、もはやただの病んじゃってる子って言った方が正しい気がする……。


「それで、アタシにそれを喋ってどうするの?」

「ええ。あなたもその嫌がらせに加担してみない?」

「……は?」

「だって、あなたも神宮寺さんは邪魔でしょう? そうじゃないと、いつまで経ってもヒーロー君はあなたの()()()()にならないわよ」


 不敵に笑う鬼塚の言葉に驚いてしまったアタシは、思わず目を大きく見開いた。


 どうしてこいつが知ってるわけ……!? そもそも、男をおもちゃにしてること自体、誰にも言った事ないのに!


「どうして知ってるか不思議? あんだけ露骨に男に媚び売ってれば、簡単に分かるわよ」

「……アタシを脅すようなことをして……あんたは何がしたい訳?」


 話題を逸らすように、キッと睨みつけながら声を荒げてみたものの、鬼塚は特に調子を崩すことなく、ゆったりとした動きでコーヒーを口にする。


「そんなの、今も昔も変わらないわ。世界で一番大好きなヒーロー君の苦しむ姿を見たいのよ。昔は直接いじめたほうが苦しんでくれたから、黒鉄のようなバカと一緒にいたの。邪魔になったから学校から排除したけどね」

「は……? 意味わかんないんだけど……」

「言葉通りの意味よ。あのバカの性欲を煽って神宮寺さんを襲わせるように仕向けて、神宮寺さんの心に傷を負わせながら、黒鉄を退学に追い込んだ……って、そんな話はどうでもいいわね」


 一体何を言っているの? 排除って……黒鉄ってあの不良よね? 確か最近退学になったって言ってたけど……それをまさかこいつが? 信じられないんだけど。


「じゃあもしかして、お友達とやらを使って神宮寺日和に嫌がらせをしてるのも……不良達とつるんで直接ヒーローをいじめてたのも……今もアタシを脅すような事を言って、言う事を聞かせようとしてまで神宮寺日和に嫌がらせをしてるのも……」

「ええ。全てはその目的の為。ついでに言うと、さっき話に出てきた子を唆したのも私」

「きもすぎるんだけど……」

「私からしたら、不特定多数の男に媚びを売って、チヤホヤされようとするあなたの方が理解できないわね」


 それはそうかもしれないけど……だからといって、普通好きな人が苦しんでたら、見てて辛くなったりするもんじゃないの!? アタシは好きな人が出来た事が無いからよくわからないけど……え、アタシの考えがおかしい??


「なんで? って顔してるわね。そんなの私もわからないわ。昔からこうだったとしか言いようがないの。趣味嗜好なんてそんなものでしょう?」

「…………」

「話を戻しましょう。あなたは嫌がらせをしつつ、ヒーロー君の味方をするようにすれば、もしかしたら上手く近づけるかもしれない。私は神宮寺さんが嫌がらせでショックを受けた時、それに対するヒーロー君の苦しんだり怒ったりする姿を見る。どう? 互いに利益があるでしょう?」

「そうかもしれないけど……アタシはそんな嫌がらせなんて……!」


 アタシがヒーローに嫌がらせをしてって……それじゃ完全に自作自演って事じゃない! そんな事をしてもしバレたら……もう二度とヒーローをおもちゃに出来ないじゃない!


「別に嫌がらせじゃなくてもいいわ。やり方はあなたに任せる。私はどんな理由であれ、ヒーロー君が苦しんでればいいから。あ、それと……断っても良いけど、その際は……わかってるわよね」

「っ!? アタシがしてきた事をばらすって事!? そんな事をしたら、アタシだってあんたの事をばらすわよ!」

「お好きにどうぞ。私は別にばらされた所で問題ないもの。でも……あなたはどうかしら? せっかく手に入れた男達も……みんな離れていくかもしれないわね」


 くっ……この女……! 最初からアタシにイエス以外の選択肢を与えるつもりが無かったって事……!? 完全にやられた……!


「そんな怖い顔をしないで。私達は互いの利益が一致してるのよ。いわば協力者ってやつね」

「脅しておいて……よくもそんな事が言えたわね!」

「あらやだ怖い。さあ、話はこれでおしまいよ。それじゃ、応援してるから……あ、ここの代金は払っておいてあげるから」


 そう言うと、鬼塚は千円札を一枚テーブルに置いて、店の外へと去っていった。その時の笑顔が……アタシに逃げ場は無いって言ってるように感じられた。


 上等よ――やってやろうじゃない。別にアタシがやらなくても、おもちゃ達に適当な理由を話してやらせればいいだけよ。それでアタシは上手くヒーローに近づけば万事解決!


 そうよ……これを窮地と思うか、チャンスと思うかはアタシ次第! 鬼塚はアタシを追い詰めて利用して……いい気になってるかもしれないけど、そうはいかない!


 勝つのは……アタシよ!

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼ぐらいに投稿予定です。


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