第47話 日和の悪夢
「あれ……? ここは……?」
私は気が付くと、真っ白な空間に立っていた。
おかしいな……さっきまでヒデくんの布団で一緒に寝ていたはずなのに……どうしてこんな所にいるんだろう?
「もしかして、夢?」
夢ならこんな変なところにいるのにも納得が出来る。
そういえば、初めてヒデくんと一緒に寝た時も夢を見てた……あの時は、ヒデくんと出会った時の夢だったはず。
そんな事を思っていると、急に真っ白だった空間が別の空間に切り替わった。
「……ここ、教室?」
黒板があったり勉強机があったり、どう見ても学校の教室だ。そして、部屋の中は顔が黒く塗りつぶされた、小さな女の子達で賑わっている。正直ちょっと怖い。
そんな中、教室の隅にある席には、幼い私が座って静かに読書をしていた。
……ここ、どこだろう? 今通っている青蘭高校のものとは違うし……でも見覚えがある……。
「そっか、ここ……私が通っていた小学校の教室だ」
懐かしいな……この頃はまだ身体が弱いままだったから、ほとんど学校には通えてなかった。
そのせいで、お友達も誰もいなくて……登校が出来た日も、こうやってずっと一人で本を読んで過ごしていた。
「辛かったけど……ヒデくんに再会したいって一心で頑張った……」
再会して、一緒に楽しい生活を送る。それだけが私の目標で、支えで、慰めだった。その為に、私は嫌いなものを食べたり、毎日ほんの少しずつ運動をして、体力をつけた。
もしこれが無かったら、私は自分の身体の弱さを呪って、みんなが楽しそうにしてるのを羨んで、妬んで、そして人生に絶望して……死んじゃってたと思う。
「諦めなくてよかった……きゃっ」
また辺りが光って場面が変わった――と思ったら、また教室だった。
でもさっきのものとは違う……それに、今通っているのとも違う。
「今度は……中学校の教室だ」
ここでも、同学年と思われる女の子で賑わっているけど、今度は顔にモザイクみたいなのがかかっている。
これって、私がみんなの顔を覚えていないからなのかな。
ちなみにこの時の私も、やっぱり自分の席に座って本を読んでいた。
「中三の頃には、身体の弱さはほとんど克服できてたけど……やっぱりこの時期も、お友達はいなかったな」
ずっと本を読んで過ごす一人ぼっちの学校生活——全然楽しくなかったけど、この時もヒデくんを心の支えにして乗り切った。
「ホントに……ヒデくんには感謝してもしきれないな」
優しくて、カッコよくて、料理が上手で、笑った顔が可愛くて、ちょっぴり照れ屋な所もあって……他にもたくさん良い所があるヒデくんは、私のヒーロー。
えへへ、思い出したら顔がにやけてきちゃった。これが夢の中で良かった。
「あっまた場面が変わった……あれ、今通っている教室だ……でも、なんで誰もいないんだろう?」
自分の事ながら、見ている夢の意味がよくわからない。どうして私はこんな夢を見ているのだろう……?
あと、さっきまでは客観的に過去の私を見ているだけだったけど、今は自分が席に座っている。場所からして、私の席みたいだ。
「……ひっ!?」
何気なく机を見ると、酷い言葉が殴り書きされている机が目に入った。
今朝、咲ちゃんと綾香ちゃんが机を換えてくれた時に、ちらっと見えた内容と全く一緒だ……まさか夢にまで出てくるとは思ってなかった。
こんなのは見たくない。幸いにも身体は自由に動かせるみたいだし、早くここから離れよう。
「どこに行くつもり?」
「え……? 綾香ちゃん? 咲ちゃん?」
誰もいないと思っていた教室に、いつの間にかお友達の二人が現れて私に声をかけてくる。
でも……その表情はいつもの笑顔と違って、とても冷たかった。
「こんな汚い机をあたし達に変えさせて自分は知らんぷりって、ホント良い身分だよね~」
「そうだよね! ちょっと可愛いからってウチらの事を見下してるんだよ!」
「え……?」
「もうこんな奴は放っておいて、あたし達だけで遊ぼうか!」
「さんせー! ウチ面白い場所知ってるんだ!」
「ま、まって……!」
そう言うと、二人は教室から姿を消した。
これは夢だ……夢だ……二人がそんな酷い事を言うはずないもん……!
「あいつらの言う通りやな。ナイト様を携えたお姫様……いや、家来と言った方が正しいか? 羨ましいこっちゃ」
「え……猿石くん……?」
教室の壁に寄り掛かりながら、氷のように冷たい目を私に向けてくる。
違う、私はお姫様なんかじゃないし、ヒデくんは家来なんかじゃない! ヒデくんは……私の大切な……!
「日和……」
「っ!? ヒデくん!」
猿石君が目の前から消えたと同時に、後ろからヒデくんの声が聞こえてきた。
すぐにそっちに振り返ると、そこには明るいヒデくんの姿はなく……再会した時みたいな、暗い雰囲気のヒデくんが立っていた。
「ホント良かったよ。嫌がらせされたのが日和でさ」
「え……」
「婚約者とか言っておきながら、お前だけいじめられないとか不公平だろ。お前も……俺と同じ苦しみを味わえ!」
どうして……どうしてそんな事を言うの……!? イヤ……やめてよ……!
「苦しいだろ……一日程度で俺の気持ちがわかると思ったら大間違いだ。そのままいじめ抜かれて死んでしまえ!」
「イヤ……イヤアアアアアア!!!!」
****
「——より――ひ――!」
「はっ……!? はあ……はあ……」
目を開けると、そこはさっきまでの教室じゃなくて、ヒデくんの布団の上だった。隣では、ヒデくんが驚いたような顔で私をジッと見つめている。
「大丈夫か? 凄くうなされていたけど……」
「ヒデくん……ヒデくん……!」
やっぱりさっきのは夢だった。ヒデくんがあんな酷い事を言うはずがない。
それがわかって安心した私の目からは、涙がポロポロと溢れてきて……どうする事も出来なくて……ただヒデくんの胸の中で、嗚咽を漏らす事しか出来なかった。
「……大丈夫だ。大丈夫……」
「ひっく……ぐすっ……あ、あぁ……」
私が泣きじゃくってる間、ヒデくんは大丈夫……大丈夫……と言って、私を抱きしめてくれた。そのおかげで、数分もしないうちに涙は引っ込んでくれた。
「……もう大丈夫」
「それはよかった。でもどうしたんだ?」
「凄く怖い夢を見て……みんなが私のそばからいなくなって……昔みたいに一人ぼっちに……ヒデくんも酷い事を言って……」
「そうか……可哀想に」
こんな説明じゃ、きっと全然わからないと思う……でもヒデくんは一切文句を言わずに、私の事を慰めてくれた。
やっぱりヒデくんは凄く優しい。そんなに優しくされたら、もっと好きになっちゃう……。
「その酷い事っていうのが、どんな内容かはわからないけど……俺は絶対に日和にそんな事は言わない。きっとそれはみんなも同じだと思うよ」
「……うん」
「もし……もし万が一、周り全員が日和の敵になったとしても、俺は絶対に日和を見捨てたりしないから……だから、安心していいよ」
「うん……うんっ……!」
ヒデくんの優しくて頼もしい言葉を聞いたら、また涙が溢れてきちゃった……どうしよう、止まらないよ……また心配かけちゃう……。
「日和……」
「ヒデくん……大好き……」
ヒデくんの優しい声に慰められたおかげか、すぐに涙は止まってくれた。
それからもヒデくんは、寝ないでずっと私の頭を撫でてくれた。そのおかげで、さっきまであった不安な気持ちは無くなり、ゆっくりと眠りにつく事が出来た――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。
少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします。




