第45話 あれから一か月
「今日も雨やまないね」
「まあ梅雨だからな」
日和と付き合い始めてからしばらくが経ったある日――六月も半ばになり、梅雨も本番となったせいか、今日も雨が降る中、俺は日和と一緒の傘に入って帰路についていた。
雨は嫌だけど、こうやって相合傘が出来るのは、雨ならではの醍醐味だろう。
「なんか二人で帰るのって久しぶりだね」
「そうだな。なんだかんだでいつものメンバーと一緒が多かったからな」
「今日は猿石君と綾香ちゃんは掃除で、咲ちゃんは家の用事だっけ?」
「そうだったはずだ」
誰かが用事で欠けることがあっても、全員いないっていうのは珍しい。なんか静かすぎて変な感じだけど、たまにはこういう日もあっていいよな。
「周りに誰もいないし……えいっ」
日和はキョロキョロと辺りを確認してから、俺の腕にぴったりとくっつきながら、俺が傘を持つ手に自分の手を重ねてきた。
……見ての通り、日和とは今も上手くやっていけている。
ただ、この一か月で甘えん坊っぷりが悪化してるっていうか……隙さえあればこうやってくっついてくるし、あーんとか頭なでなでとかキスをねだってくる。
俺を慕ってくれるのはとても嬉しいし、日和が望む事は叶えてやりたい。でもやっぱり恥ずかしいから、極力甘えるのは家の中だけにしてもらっている。
今みたいに誰もいなかったら甘えてくるけど、それはまあ許容範囲内って事で。
それよりも問題なのは、一緒に寝ようって言ってくる事だ。
こう言っては何だけど、この一か月ちょっとの間に、日和への想いが更に膨れ上がっていて……それに比例するように、煩悩も膨れ上がっている。そのせいで、何度手を出しそうになった事やら……。
だから、一緒に寝るのはやめようって日和に話したことがある。
けど、めちゃくちゃ悲しそうな顔をされてしまって……申し訳なくなってしまった俺は、週に一、二回くらいならいいよと言ってしまった。そのせいで、一週間のうちで何日かは、ほとんど眠れない日々を過ごしている。
いや嬉しいよ? 寝る時も日和と一緒に居られるとか、めっちゃ幸せだ。でもだからこそ辛いっていうか……無防備に寝てる日和を見ると、結構来るものがある。
手を出しても良いんじゃないかって? そういう訳にはいかない。流石に高一でするのは……早すぎると思う。せめて大学生とか社会人になってからの方が……俺がクソ真面目なだけなんだろうか?
あと最後になっちゃったが、ジムには週三で通っている。なかなかハードだけど、確実に強くなれている気がする。豪さんにも、センスがあるからまだまだ伸びるという、お褒めの言葉も貰えた。
そしてジムが終わった後は、一度帰って留守番をしている日和と合流して買い物に行ったり、マッサージをしてもらったりしている。ありがたすぎて、死んでしまいそうだ。
「あ、ヒデくん肩濡れてる」
「別にこれくらい大丈夫だよ。日和が濡れる方が問題だ」
「ダメ。ヒデくんが濡れる方が問題。だからもっとくっついて」
「日和がくっつきたいだけじゃないか?」
「そ、それもある……でも、ヒデくんが濡れて風邪引いて欲しくない」
ちょっと頬を赤く染めながら言う日和。なんだこの可愛い生き物……前に出雲さんが持って帰りたいって言ったのもよくわかる。
「わかったよ。これでいいか?」
「うん。えへへ……こんな所を綾香ちゃんに見られたら凄い事になりそう」
「あー……山吹さん、恋愛沙汰が大好きだもんな」
鼻息を荒くする山吹さんの姿を想像した俺は、思わず苦笑してしまった。
この一か月で、山吹さんともだいぶ仲良くなった。その過程で知ったんだけど、彼女が重度の少女漫画オタクで、特に恋愛ものが大好きだそうだ。そのせいか、俺達が仲良くしていると、興奮して暴走する事がある。
そこにいつもの猿石君の暴走まで加わると、手が付けられなくなるのも最近の小さな悩みの一つでもある。楽しいから良いんだけどさ。
あと、いつの間にか女子二人が山吹さんの事を、下の名前である綾香ちゃんと呼ぶようになっている。仲が良くて何よりだ。
まあこんな感じで、俺は何事も無く、大切な彼女や友人達と楽しくやっている。
それともう一つ……黒鉄に関してだが、退学になったようだ。
どうやら俺を呼び出して撃退された日に、外で暴力沙汰を起こして停学になったのに、すぐに日和に乱暴しようとしたという事で、反省の意識なしとなり、退学が決まったらしい。
正直、停学になってた事を知らなかったから、それを聞いた時は少し驚いた。それと同時に、どうしてあんな反撃をした後に報復に来ないのだろう? っていう疑問の回答にもなった。
もちろん外では報復の可能性はあるから、今も気は抜けないけどな。
「ヒデくん、今日も買い物行こう」
「そうだな。何が食べたい?」
「ハンバーグ」
「わかった。じゃあ材料を買いに行こうか」
「うん。ヒデくんのハンバーグ大好き」
今にも小躍りしそうなくらい、嬉しそうに笑う日和を見ていたら、急に誰かに見られているような気配を感じた俺は、勢いよく背後に顔を向ける。しかし、そこには誰もいなかった。
「どうしたの?」
「いや……」
まただ。
どうもこの一か月の間、誰かに見られているような気配を感じる事が多い。誰かに後をつけられているのだろうか……? でも、周りを見てもそれらしい人物を見つけられないんだよな……。
「なんでもないよ。スーパーに行こうか」
「うん」
考えても仕方ないと思った俺は、日和と一緒にスーパーへと向けて歩き出す。
なんか嫌な予感がする。俺の思い過ごしならいいんだけど――
****
数日後、俺は今日も日和と一緒に学校へと登校した。今日は珍しく雨が降っていなかったおかげで濡れずに済んだが、日和は相合傘が出来なくてちょっと残念がっていた。
朝から日和は可愛いな。今日は金曜日だし、残念だった分は土日に一緒に居てあげて帳消しにしてあげよう。
「きゃっ」
「日和?」
「びっくりした……」
下駄箱で上履きに履き替えようとしていると、日和は小さくて短い悲鳴を上げる。すぐに日和の近くに行くと、手に持った上履きをじっと見つめていた。
「どうした?」
「上履きの中に画びょうが入ってた。びっくり」
「……上履きに?」
「うん。三つも入ってた」
上履きに画びょう――この瞬間、俺は猛烈な嫌悪感を胸に感じていた。
普通にしていれば画びょうが上履きの裏に刺さる事はあっても、中に入る事はあり得ない。って事は……まさか、そんな事はないだろう。
「ヒデくん……? 顔が凄く怖い。どうしたの?」
「……いや、なんでもない。画びょうはもう入ってないか?」
「うん」
「じゃあ教室に行こうか」
俺は学校の中で周りの視線がある中、それを無視するように日和の手を取って教室に向かう。
何事も無ければいいんだが――そんな俺の望みは、あっさりと絶たれる事になる。
「あっ! 桐生君! 日和ちゃん! 入って来ちゃダメ!」
「え? 咲ちゃん?」
教室に入ろうとすると、何故か入口の前に立っていた出雲さんに止められてしまった。なんか凄く切羽詰まった感じというか……ただ事ではない。
中で何かあったのだろうか? そう思いながら中をチラッと見ると、クラスメイト達は遠巻きに日和の机を見ているようだった。
「……まさか!?」
「あっダメだって!」
俺は出雲さんの制止を振り切って教室の中に入り、日和の机に真っ直ぐ向かう。
すると、そこには死ね、消えろ、学校来るな、ウザイ、ブス、キモイといった、低レベルな悪口が書かれた、変わり果てた日和の机が置いてあった――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼頃に投稿予定です。
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