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第44話 呪いの言葉からの解放

「ヒデくん、あーん」

「じ、自分で食べれるから」

「あーん」

「……あーん」


 無事に肉じゃがとサラダと味噌汁を完成させた俺達は、小さなテーブルを囲んで食事をしはじめた。


 それはいいんだが、日和が早速俺にあーんをしようと、ジャガイモを箸で掴んで差し出してきている。


 周りに見ている人がいないとはいえ、やっぱり恥ずかしいからやんわりと断ろうと思ったけど、全く引く気が無いせいで、根負けしてしまった。


「おいしい?」

「あっふ……もぐもぐ……うん、おいしい」

「えへへ、よかった」


 恥ずかしいけど……こんなに日和が喜んでくれるなら、やってあげる価値はあるか。


 それにしても、日和は随分と気持ちを表情に出すようになったな。


 それこそ子供の頃は表情が乏しくて、何を考えてるかわかりにくかった。再会してすぐも、そこまで大袈裟に気持ちを表情に出さなかった。


 それが今では素直に笑ったり喜んだりしてくれるおかげで、表情を見れば大体気持ちがわかるようになった。


 人って短期間で変われるものなんだな……俺も結構変わった部類だろうけどさ。


「ヒデくん、私にもあーんして。ジャガイモ食べたい」

「わかったよ。ふー……ふー……はい、あーん」


 俺はジャガイモを食べやすい大きさに切ってから掴み、息で少し冷ましてから、餌を待っているひな鳥みたいに口を開けている日和に食べさせてあげた。


 なんともまあ……幸せそうに食べるな。見ているだけでこっちも幸せになれる。


「おいしい。大成功だね」

「ああ。ちゃんと調べて作ったかいがあったな」


 日和は嬉しそうに手のひらを俺に向けながら、腕を突き出してくる。


 これはハイタッチを求めているのか? 珍しいな……それくらいテンションが上がってるのだろうか?


 俺は自分の手を日和の手に合わせて、パンっと小さな音を鳴らすと、日和は満足そうに微笑んでくれた。どうやら正解だったみたいだな。


「ごちそうさまでした。それじゃ、お皿洗ってくるね」

「俺も一緒に洗うよ」

「ダメ。ヒデくんは練習で疲れてるんだから、お皿洗いは私がやる。テレビでも見てのんびりしてて」

「いやでも……」

「ダメ」

「…………」

「ダメ」

「何も言ってないんだが!?」


 完全に頑固な日和になってしまってるな……これはもう何を言っても聞かないだろう。仕方ない、ここはお言葉に甘えようとしよう。


「~♪」


 皿洗いをする日和の楽しそうな鼻歌に釣られるように、俺は日和の方に顔を向ける。


 なんていうか……マジで新婚さんみたいだな……やべぇ、めっちゃ抱きしめたい。でも邪魔になるのはわかりきってるし……我慢だ俺。


 それから少し経ち、日和は全部洗い終わったのか、居間へと戻ってきた。


「洗い物、ありがとな」

「ううん。そうだヒデくん、ちょっと布団に行こう」

「……へ?」


 欠片も想定していなかった発言に、俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまった。


 いやいや! いきなり布団に行こうとか言われたらそんな反応にもなるだろ!?


「え、なんで!?」

「いいから、早く」

「うわっ、背中押すなって!」


 有無も言わせぬ勢いで、俺は隣の部屋の和室へと連れていかれた。そこには、片付けるのが面倒で敷きっぱなしになっている布団が鎮座している。


「うつ伏せで寝て」

「うつ伏せ……? わ、わかった」


 めちゃくちゃドキドキしながらも、言われた通りうつ伏せに寝転がる。すると、背中に優しく押される感触を感じた。


 もしかして、マッサージをしてくれているのか? あっ……めっちゃ気持ちいい……日和、マッサージ上手いな……。


「よいしょっ……よいしょっ……気持ちいい?」

「ああ。でも急にどうしてマッサージを?」

「えっと、ヒデくんがジムでシャワーを浴びてる時に、疲れてる感じだったから……スマホで調べたら、少し時間が経った後にマッサージをすると良いって見つけたの」


 なるほどそうだったのか……ホントに日和は優しいな。それなのに俺は変な想像をして……。


「ありがとな。あとごめん……てっきり……」

「てっきり?」

「なんでもない!」

「……? 変なヒデくん。じゃあ足の方に行くね」


 危ない……俺の煩悩が思い切り顔を出しそうになっている。早く追い払わないと!


「うおおおお!!」

「え、ヒデくん!?」


 俺は煩悩を払う為に、枕に顔を何度も叩きつけた。日和の驚いた声が聞こえるけど、今はそれどころではない。猛省しろ俺!


「急にどうしたの!?」

「いや、気にしないでくれ」

「気にするよ! もしかしてどこか痛い所を触っちゃった!?」

「あ、いや。マッサージは最高に気持ちいいよ。これは俺の問題だから」

「そう、なの……? よくわからないけど……悩みだったら聞くから」

「あ、ありがとう」


 日和の気持ちは嬉しいけど、まさか日和にえっちなお誘いをされたって勘違いしました~なんて言えるわけないって……。


「練習しているヒデくん、凄くカッコよかった」


 足のマッサージに移ってから少し経った頃、日和は急に俺の事を褒めてくれた。


 そんなにカッコよかった場面があったかな……? 正直ついていくのに必死で、見苦しいものだったと思うんだけどなぁ。


「そ、そうか? ありがとう。日和の為にもっと頑張るよ」

「うん。えへへ……やっぱり、ヒデくんは私のヒーローだね」


 ヒーロー。


 それは俺にとって呪いの言葉だ。前に日和にそう言われた時に、一気に気分が悪くなってしまったくらい、俺にとっては禁句でもある。


 それを日和は思い出したのか、「あっ!」と何かに気づいたような声を上げた。


「ご、ごめんなさい! ヒーローって言われるのイヤなんだよね……!」

「……いや、それが……前は胸が苦しくなったんだけど、今は全然平気なんだ」

「ほ、ホントに? 無理してない?」

「ああ、全然無理してない」


 俺は起き上がって日和の方を見ながら、ニコリと微笑んで見せる。


 もしかしたらだけど、日和と一緒にいたり、みんなと楽しく過ごす事で、俺心の傷が癒えた結果、ヒーローと言われても反応しなくなったのかもしれない。


 そんな事を冷静に分析していると、日和は目尻に涙を溜めながら、俺の胸の中にすっぽりと収まった。


「よかった……ホントに良かった……」

「ありがとう。全部日和のおかげだよ」


 日和やみんながいなかったら、こんな楽しくて幸せな生活は絶対に訪れなかった。ホントに感謝してもしきれない。


 俺は日和の事を抱きしめながら、全ての感謝の気持ちを込めて、やさしくキスをするのだった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は明後日の朝に投稿予定です。


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