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第41話 日和と一緒に幸せに

「……どうしたものか」


 キャンプファイヤーを楽しみ、そして日和と結ばれた俺は、日和の部屋のドアの前で腕を組みながら頭を悩ませていた。


 なぜこんな所で頭を悩ませているかというと、日和が寝間着に着替えると言って着替え始めたから、俺が急いで部屋を出てきてここにいる。


 悩みの原因は言うまでもないかもしれないが……今日の寝床問題だ。このままでは、俺は日和と同じベッドで寝ることになってしまう。


 もちろんそれが嫌なわけじゃない。むしろ日和を想う気持ちに気づいてからというもの、日和の笑顔を見たいし、日和に触れたくて仕方がない。


 ――だからこそ、一緒に寝るのはマズい。


 過去に二回ほど一緒に寝た事はあるくせに、今頃何言ってんだって思われるかもしれないが、あの時とは状況が違う。


 何が違うか? 一緒に寝た理由が今と前では違う。


 前のは日和が一人で寝るのが怖いからという理由で一緒に寝た。この理由があったからこそ、メチャクチャ緊張はしたものの、日和を安心させるためにという気持ちのおかげで乗り越えられた。


 そして一番の問題は……俺が自分の気持ちに気づいてしまった事だ。これのせいで、日和への想いが溢れてきてしまっていて……抑えられる自信が無い。


 いや、こんな邪な気持ちを持っちゃダメだ……日和は俺を想い、信用してくれているんだ。もうこれ以上俺のせいで日和を悲しませるわけにはいかない。


 それに、一方的に襲うなんて……日和を傷つけるに決まっている。それだけは避けなければならない。


「ヒデくん、着替え終わった」

「っ!? わ、わかった」


 日和に呼ばれた俺は、すぐに部屋の中に戻ると、そこには真っ白なネグリジェを着た日和がベッドに腰を下ろしていた。


 めっちゃ可愛い……やっぱり日和は何着ても似合うな。


「い、いつもの寝巻きと違うな」

「うん。一人暮らし用に持っていったのは、いつものモコモコの寝巻きが多いの」

「なるほど」


 だからいつもと違うのか納得……じゃなくて! 今は日和の寝巻き事情よりも寝床をどうにかしないと!


「なあ日和、やっぱり一緒に寝るのはマズいと思うんだ」

「え……? どうして? 今まで一緒に寝た事はあるし、それに付き合ってるなら一緒に寝ても問題ない」

「まあそうなんだけど……前に寝た時は日和を安心させるためだったし、付き合ってるからこそマズいっていうか……」

「……そっか。さっきも嫌がってたし……私と寝るのがイヤなんだね……わかった。お母さんに言って部屋を変えてもらう」


 今にも泣きそうなくらい悲しそうな日和は、俺の横を通って部屋を出て行こうとする。そんな日和を、俺は後ろから抱きしめて止めた。


「ヒデ、くん?」

「イヤな訳ないだろ! 日和と一緒に寝たいどころか、片時も離れたくない!」


 日和の言葉を強く否定するように、俺は声を荒げてしまった。


 ははっ……俺、ホントはこんなに日和の事が大好きだったんだな。自分の気持ちに気づかなかった間に、好きって気持ちが積み重なり続けた結果、一気に爆発してるのかもしれない。


「じゃあどうして……?」

「その……日和の事が大好きだから……なんていうか、手を出しちゃいそうで……」

「どういうこと?」

「まあ……簡単に言っちゃうと、えっちな事をしちゃうって事だ」

「…………」


 変な勘違いをされて日和を悲しませるくらいなら、正直に話した方が良いと思って言ったはいいけど……普通に引かれるよなこれ!?


「あ、あう……」

「も、もちろん同意無しでなんかやらないぞ! ただ万が一の事を考えてだな!」

「はぁ……はぁ……」

「「っ!?」」


 耳まで真っ赤にする日和に必死に言い訳をしていると、どこからか変な声が聞こえてきた。


 ビックリし過ぎて、二人して変な声を出しながら離れてしまったぞ……どこから聞こえて……部屋のドアの方から聞こえてくるな。


 もしかして……誰か覗いている? とりあえずドアを開けて確認してみよう。


「あぁんもう! 良い所だったのに~!」

「流華さん……なにやってるんですか……」

「え? ちょっと近くを通りかかったら、大きな声が聞こえたから様子を見に来たのよ~?」


 うわぁ嘘くさい……視線泳ぎまくってるし、誤魔化しているつもりなのか、へたくそな口笛を吹いてるし……。


「あ、そうそう。別の部屋で英雄君が寝れそうな部屋は無いから、諦めて日和の部屋で寝ること。それじゃあね~」


 いたずらっ子みたいな笑みを浮かべながらウインクをした流華さんは、そそくさと日和の部屋を後にした。


 いやいやいや! こんなでかい家で他に部屋が無いとかありえないだろ!


 でも……あの感じだと、いくら言っても聞かなそうだし……仕方ない、こうなったら最終手段だ!


「よし、俺は床で――」

「そんなのダメ! それなら私が床で寝る!」


 床で寝ると言おうとしたら、凄い剣幕で拒絶されてしまった。


 日和を床で寝かすなんてもってのほかだ。変に頑固なところがある日和の事だから、本当に床で寝かねない……よし、もう今日は寝ないのを覚悟しよう。


 全ては日和を悲しませない為に……気合でこの溢れ出る日和への気持ちを抑えてやる!


「わ、わかったから。ちゃんとベッドで寝るから」

「よかった……それじゃもう二十三時だし、そろそろ寝よう」

「じゃあ寝間着に着替えちゃうな」

「うん」


 さて、着替えている間になんとか落ち着かないと……って、なんで日和は普通にベッドに座ってこっちを見ているんだ?


「…………」

「あのー……日和さん? 見られてたら着替えにくいんだけど……」

「……あっ、そうだね。じゃあ廊下で待ってる。はぁ……ヒデくんになら……でも、流石に裸はまだ恥ずかしい……バスタオルなら全然大丈夫なのに……」


 俺の言いたい事を理解してくれたのか、日和はそそくさとドアへと向かっていく。その途中に、何か小声で言っていた気がするけど……気のせいか?


「日和、何か言ったか?」

「ううん。なんでもない。終わったら呼んでね」


 うーん、気のせいだったのか? なにか言っていた気がするんだけど……まあいいか。さっさと着替えてしまおう。



 ****



「おやすみ、ヒデくん」

「おやすみ、日和」


 特に何事も無く着替えた俺は、日和と同じベッドの上で就寝の挨拶を交わしていた。


 俺にぴったりとくっつく日和の柔らかさや良い匂いが、俺の理性を容赦なく奪おうとしてくる……。


 おかしい、一緒に寝た経験はあるのに、自分の気持ちに気づいただけでこんなに変わるものなのか!?


「あ……ヒデくん、忘れてた」

「なにをだ?」

「んー……ちゅっ」

「っ!?」


 はにかみながら俺を見たと思った矢先、日和はその小さな唇を、俺の唇に重ねてきた。


「おやすみのちゅー、忘れてたから。今度こそ……おやすみ」


 その言葉から一分もしないうちに、日和は寝てしまったのか、静かな寝息が聞こえてきた。一方の俺は、キスされた状態の体勢から、全く動けずにいた。


 沈まれ……俺の煩悩……! キスなんて既に告白した時に何回もしただろ……! だから落ち着け……るわけない! なんなんだよおやすみのちゅーって! 可愛すぎる!


「日和……」


 俺は日和の事を抱きしめながら、頭を優しく撫でる。すると、それに反応するように日和は俺の服の胸元をぎゅっと掴んできた。


「日和? 起きてるのか?」

「……うん。なんか寝るのがもったいなくて」

「前はすぐ寝てたじゃないか」

「前は雷とか、あの男の子とかで怖くて……もちろんドキドキしたよ? でも、ヒデくんが一緒にいて守ってくれるって思ったら安心しちゃって……すぐに寝ちゃったの。でも今は……ドキドキしちゃって眠れない」

「そっか」


 さらに日和が俺に強くくっついてきたせいか、めちゃくちゃ柔らかい物が押しあてられている。


 このままじゃすぐに我慢の限界が来そうだ……そうだ、日和が起きてるなら気を紛らわせる為に会話をしていればいいんじゃないか?


「じゃあちょっと喋ろうか」

「うん。えへへ……幸せ……」

「俺も幸せだよ。俺を絶望から救ってくれて……ありがとう」


 俺は感謝の気持ちを込めて日和にキスをしてから、自然と眠りに落ちるまで日和とくっついて会話をするのだった――



 ****



「流華さん、お世話になりました」

「また来てね~」


 翌日の昼前、俺は日和と一緒に、玄関の前で流華さんと別れの挨拶をしていた。


 実は昨日、ずっと日和と会話をしていたせいで寝るのが遅くなってしまい、二人して盛大に寝坊してしまった結果……起きたらもう十一時を回っていた。


 予定では昼には帰る予定だったから、朝起きたらゆっくりと誠司さんと流華さんに挨拶とお礼を言うつもりだったのに……完全にやらかした。


 ちなみに、朝に真琴さんが起こしに来てくれたみたいだけど、揃って全く起きる気配がなかったらしい。ついでにスマホで寝てる所を撮っていたらしく、先程見せてくれた。


 俺と日和が寄り添って幸せそうに寝てる写真だったんだが……俺も日和も即譲ってもらい、スマホの待ち受けに設定した。


「そうだ英雄君、ちょっとこっちに来て」

「え、はい」

「……昨日はどうだった? 日和とイチャイチャできた?」


 笑顔で手招きをする流華さんの元に行くと、耳元でとんでもない事を聞いてきた。


「なっ……ななっ……」

「ふふっ、真っ赤になっちゃって~英雄君ってば可愛い~!」


 そりゃそんな事を聞かれたら顔も赤くなるって! ホントにこの人は……!


「むぅ……」

「え、日和?」


 何を思ったのか、日和は俺の腕を抱きしめる様にしてから、俺の事をジト目で見てきた。


 な、何か気に障るような事をしただろうか……?


「ヒデくん、私がいるのにお母さんにデレデレしないで。お母さんも、ヒデくんは私のだから。ちょっかい出さないで」


 ……もしかして、流華さんにやきもちを焼いてるのか? 日和……可愛すぎるだろ……。


「デレデレしてないから大丈夫だよ」

「ホントに……? ならよかった」

「あぁ~……私の娘も息子も可愛すぎるわぁ……食べちゃいたい……」

「食べないでください。あとまだ息子じゃないです!」

「まだ? まだって言ったわね! 言質取ったわよ~!」


 いい大人が目をハートにしてよだれを垂らしながら喜ばないでください。まったく……なんていうか、この人には色んな意味で、一生勝てる気がしない。


「流華さん、誠司さんは?」

「もう仕事に行っちゃったわよ~」

「そうですか……ご挨拶したかったんですけど……」


 やっぱり寝坊したのが失敗だった……日和に気持ちを伝えられたのは、紛れもなく誠司さんのおかげだ。だからそのお礼もしたかったんだけど……。


「ん~……ちょっと待ってね~」


 そう言うと、流華さんはスマホを取り出して耳に当てる。


 もしかして、誠司さんに電話をしているのか? 仕事中なんじゃないのか?


「あ、誠司さん? 私です~。ちょっと英雄君が話があるみたいで~」

「えっ!?」


 流華さんはちゃんとした状況説明をしないで、笑顔でスマホを俺に渡してきた。ちゃんと説明をしないと、誠司さん訳がわからないだろ!


「も、もしもし」

『おはよう英雄君。よく眠れたかい?』

「おはようございます。お、おかげさまで……お仕事中にすみません。寝坊してしまって、直接ご挨拶ができなくて……その……」

『構わないよ。それで、昨日はどうだっだかね?』

「誠司さんのおかげでうまくいきました。ありがとうございました」

『そうか、それならなによりだ……おめでとう』


 誠司さんの祝福の言葉に、思わず目頭が熱くなってしまった。こうやって直接祝福されると、やっぱり嬉しいものだ。


『英雄君。私の大切な娘をよろしく頼むよ』

「……はい! 任せてください! 必ず日和さんは僕が幸せにします!」

『ふっ……期待しているよ。でも幸せになるのは、君と日和の二人だ。それを忘れないようにね。それじゃあ、また遊びにおいで』

「はい。失礼します」


 通話を終えた俺は、スマホを流華さんに返した。


 それはいいんだけど……なんで流華さんはめっちゃニヤニヤしているんだ? 日和も顔を真っ赤にして俯いてるし……。


「英雄君ったら! カッコいい事を言っちゃって~。日和、良かったわね~」

「うん。カッコいい……惚れ直しちゃいそう」

「はっ……!?」


 そうか、今の俺の言葉だけ聞いたら、まるで俺がプロポーズの挨拶をしたように聞こえるじゃないか! だからこんな反応なのか!


 ……まあいいか。俺の本心だっていうのは紛れもない事実だし、結婚を前提としたお付き合いだしな。


「お嬢様、英雄様。そろそろ……」

「わかりました。流華さん、お世話になりました! 使用人の方々も、ありがとうございました!」

「お母さん、みんな。今度は夏休みに帰ってくるから」

「ええ。待ってるわ。次はお友達も連れていらっしゃい」


 俺はお世話になった神宮寺家のみんなに深くお辞儀をしてから、日和と一緒に車に乗り込む。すると、日和は俺にぴったりとくっついてから、肩に頭を乗せてきた。


「お嬢様、英雄様。出発いたします」

「はい! 真琴さん、帰りもよろしくお願いします」

「……えへへ」

「どうした?」

「幸せだなぁって思って」

「俺もだよ」


 嬉しそうに笑う日和の顔を見ながら、俺も笑みを浮かべる。


 ああ、ホントに幸せだ。こんな日々が来るなんて、少し前は思いもしてなかった。


 こんな幸せがずっと続きますように――俺は心でそう願いながら、日和の手を握るのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。少しお知らせですが、せっかくのゴールデンウィークということで、五日まで毎日投稿をしたいと思います。


というわけで、次のお話は明日のお昼頃に投稿予定です。


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