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第40話 やっとわかったこの気持ち

「キャンプファイヤー……? お父さん、どうして……?」


 俺の隣に立つ日和は、小さな両手を口に当てながら、目を丸くしてキャンプファイヤーを見つめている。


 驚くのも無理は無い。俺だって、まさかキャンプファイヤーを今日この目で見る事になるなんて、全く思ってなかったんだから。


「ちょっとした余興だよ。では私は戻っているから、何かあったらすぐに連絡を入れるように」


 さっきまでいた広場の方へと去っていくの誠司さんを見送った俺と日和は、ゆっくりとキャンプファイヤーへと視線を再度向ける。


 生で見ると結構迫力があるし、凄く綺麗だな……って、いくら神宮寺家の敷地内とはいえ、こんな事をしても良いのだろうか?


「ヒデくん、もっと近くで見たい」

「ああ、行こうか」


 やや興奮気味な日和に手を引っ張られながら、勢いよく燃える火に近づいていくと、近くにいた執事さんに止められてしまった。


「お嬢様、英雄様。これ以上近づくのは危険ですので」

「わかった」

「では私はこれで……」


 キャンプファイヤーの近くにいた執事さんはそう言うと、深々とお辞儀をしてから去っていった。


「それにしても……お父さん、どうしてキャンプファイヤーをしてくれたんだろう」

「さあ……でも、林間学校のキャンプファイヤーに参加できなかったし、丁度良かったな」

「うん」


 その場に腰を下ろした俺達は、キャンプファイヤーを眺めながら寄り添う。


 誠司さんは、日和が黒鉄に襲われかけた事を知っていた――きっとキャンプファイヤーに参加できなかった事も聞いていたのだろう。だから、日和の為に準備をしていたんじゃないかって思う。


 この考えを日和に伝えても良かったんだけど、誠司さんがあえてとぼけたような態度を取ったって事は、それを知られたくなかったんじゃないか?


 その理由は、きっと日和は黒鉄との一件を誠司さんが知っているって事がわかったら、自分のせいで誠司さんに心配をかけてしまっているって気に病んでしまうからだろう。


 だから、なんでキャンプファイヤーをやってくれたかの理由がわかっていても、俺から伝える事はしない。


 ……まあこの考えが違ってたら、ただの恥ずかしい勘違い野郎なんだけどさ。日和も、もしかしたら本当はわかってるかもしれないし。


「ヒデくん、お願いがある」

「なんだ?」

「……くっついても、いい?」

「……いいよ」

「えへへ、やった」


 日和は嬉しそうに微笑みながら、俺に寄り添うようにぴったりとくっつく。


 ……周りに誰もいないし、なんだかいい雰囲気だし……今こそあの話をするチャンスじゃないだろうか?


「日和、さっき俺が考えていた事を後で話すって言ったよな?」

「うん」

「今……聞いてくれるか?」

「うん」


 メチャクチャ緊張しているせいか、心臓がバクバク言ってるし、呼吸もかなり苦しい……ふぅ……落ち着け……今こそ一歩踏み出す時なんだ……頑張れ、俺。


「俺……日和と一緒にいたり、話したり、触れたり、笑った顔を見たりすると……すごくドキドキするんだ」

「……私と同じだね」


 少し照れくさそうに、えへへと笑いながら頬をほんのりと赤らめる日和の姿に反応するように、俺の心臓が更に大きく高鳴った。


『相手の事を想ってドキドキし、相手のために行動が出来て、相手の幸せを願う事が出来るその気持ちが、異性を好きになる――愛する気持ちだと思うのだよ』


 俺の脳裏に、誠司さんの言葉が蘇る。


 ――ここまでお膳立てしてもらって、ようやくわかった。


「そっか……そういう事だったんだな」

「……?」

「この気持ちが……友達としてなのか、異性の女の子としてなのか……わからなくて、ずっと考えてた。なんでドキドキするかもわからなかった。でも……やっとわかったんだ。俺は……日和の事が、異性として……世界一大好きだからそうなっていたんだって」

「ヒデ、くん……」

「俺は日和の事が大好きだ。自分をヒーローと思い込むどころか、日和を想う気持ちすらわからないようなバカだけど……俺と付き合ってほしい!」


 ようやくたどり着いた答えを伝える為に、俺は日和の手を強く握りながら、真っ直ぐ見つめて言い切る。すると、日和は大きな瞳からポロポロと輝く涙を流しはじめてしまった。


 え、もしかして……泣くほど嫌だったのか……ウソだろ……!?


「あ、あれ……涙が勝手に……ぐすっ……ご、ごめん……きっと安心したからだと思う……ヒデくん、私とずっと一緒にいてくれて、ご飯を一緒に食べたり、手を繋いだり、寝てくれたり……恋人みたいな事をしてくれてたのに……全然好きって言ってくれなかったから……ひっぐ……もしかしたら、私の事を妹みたいな感じに思ってるのかなって……ずっと不安で……怖くて……!」

「日和……!」


 目の前で涙を流す日和を、俺は強く抱きしめると、それに応えるように、日和も俺の背中に腕を回してくれた。


 俺はバカだ。日和をこんなに苦しめておいて、全く気付かないで……呑気に過ごしていたなんて……!


「ごめん……ごめんな……俺がバカなせいで……」

「ヤダ……許さない」

「え……ど、どうしたら許してくれる……?」


 やっぱり怒ってるよな……ずっと不安にさせてしまったんだから、日和の望む事をなら何でもしてあげてもいい。


 そう思っていると、日和は顔を上げてニッコリと笑う。それは、ヒマワリのような眩しい笑顔で――世界で一番美しいと思えるものだった。


「私と……結婚を前提にお付き合いをしてくれたら、許せると思う」

「……もちろん。喜んで」

「嬉しい……ヒデくん、大好き……」


 日和はそう言いながら、何かを求める様に、顔を俺に向けながら目を閉じる。そんな日和の唇を、俺は優しく奪った。


 触れるだけのキス……それは、幼い頃に日和と別れた日に、日和が俺の頬にした時と同じような……とても優しいキスだった。


「……ぷはっ……はぁ……はぁ……嬉しすぎて、息するの忘れちゃってた……ちょっと苦しい。えへへ」

「奇遇だな、俺もだよ」


 少し恥ずかしそうに笑う日和は、俺の胸の中にポスンッと顔をうずめてきた。


 自分の気持ちに気づいたからなのか、今までよりも日和が可愛く見えるし、もっと触れ合いたいって思うようになっている。俺ってホントに単純だ。


 まあ、恥ずかしいって思うのは今も変わらないけどさ。こんな事が出来るのは二人きりの時だけだ。


「私、ずっとヒデくんの事が大好きだったんだよ? 会いに来てくれるって言ってくれたから待ってたのに、全然来てくれないし……」

「うっ……ごめんな……」

「寂しかった分、くっついたり甘えたりしてもいい……?」

「もちろん。今まで辛い思いをさせてしまった分、たくさん日和のしたい事をさせてくれ」

「嬉しい。ずっと抱きついたり、ちゅーしたいのを我慢してたけど、もうしなくていいんだね」

「ああ」

「じゃあ……もう一回、ちゅーして」

「……いいよ。目を閉じて」


 ちょっとだけ俺から離れた日和は、顔を上げながら目を閉じる。


 うっ……キスを待つ日和……可愛さの破壊力がやばすぎて心臓が爆発しそうだ……まつ毛ながっ……唇も小さいけどプルプルしてて……俺、こんな可愛い子とさっきキスしたのか……!?


「……ヒデくん?」

「あ、ああ……ごめん。日和が可愛くて見惚れてた」

「~~~~っ!? も、もう……ヒデくんのばかっ」


 日和しては珍しく取り乱しているのか、顔を真っ赤にしながら俺の胸をポカポカと叩く。全然痛くないし、むしろ可愛すぎて悶えてしまいそうだ。


 そんな可愛い日和に、俺は再びそっとキスをする。


「んっ……ちゅ……ヒデくん……大好き……」


 さっきよりかは少しだけ長い時間キスをしてから顔を離すと、日和は目をトロンとさせながら俺を見つめてきた。


 くっそ……可愛すぎる……! そんな目で見られたら、もっとしてあげたくなってしまう……!


「ヒデくん、もっと……」

「ああ……」


 おねだりするように、俺の服をぎゅっと掴む日和のお願いに応えた俺は、三度目のキスをしてあげるのだった――

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼に投稿予定です。


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