第39話 泊まる部屋は……日和の部屋!?
「あ、ヒデくん」
脱衣所から出ると、直ぐ近くに立っていた日和が俺の名を呼びながら、トテトテと歩み寄ってきた。
風呂上がりだからか、頬が少し赤くなっていたり、少ししっとりしている髪がとても色っぽく見えてしまい、いつも以上に胸のドキドキを感じてしまっていた。
このドキドキ、前までは原因がわからなかったけど……もしかして、日和を異性として好きだから感じるドキドキなんだろうか?
そう考えると、日和の笑顔や言葉、仕草などにドキドキを感じていた事に説明がつく。
やっぱり……俺のこの気持ちは……。
「ヒデくん、どうしたの? ジッと見て」
「あ、ああ……ごめん、ちょっと考え事をしてた」
「何か悩み事? 私で良かったらいくらでも聞く」
「ありがとう。じゃああとで聞いてくれるか?」
「もちろん」
俺に頼られるのが嬉しいのか、日和は嬉しそうに微笑みながら頷いた。
ああもう、そんな顔をされたら、またドキドキしちゃうじゃないか……。
「お嬢様、英雄様」
「真琴さん? どうしたんですか?」
「流華様から、夕食前に英雄様を本日泊まる部屋に案内しろと命じられたので、ご案内いたします」
「わかりました」
背筋をまっすぐ伸ばす真琴さんの後に続くように歩き出す。それはいいんだが、なぜか日和も一緒にくっついてきた。
そんなに俺と一緒にいたいのだろうか? もしそうなら嬉しいな……って、流石にそれは都合よく考えすぎか?
「こちらです」
真琴さんに通された部屋は、とても広くて綺麗な部屋だった。ベッドには屋根みたいなやつがあって、とんでもない高級感だ。
それ以外には、勉強机とか大きい本棚、そしていろんな動物の可愛いぬいぐるみが存在感を放っている。あと俺の持ってきた荷物が部屋の隅に置いてある。
「……真琴さん、ちょっと聞きたいんですけど」
「はい」
「俺、ここに泊まるって話でしたよね?」
「はい」
「この部屋、ひょっとして日和の部屋じゃないですか?」
「おっしゃる通りでございます」
やっぱりかよ! どうみたって普通の客人に泊まらせるような部屋じゃないもんな! ていうか、流華さんがここに通せって言ったってマジかよ!? 自分の娘の部屋に泊めさせるとか、あの人の頭の中はどうなってるんだ!?
「婚約者なんだから、同じ部屋に泊まるのは当然でしょ~?」
「おわっ!?」
「あ、お母さん」
急に背後から声をかけられてビックリした俺は、思わず飛び上がってしまった。は、恥ずかしい……。
「あの……流華さん」
「お義母さんって呼んでも良いのよ?」
「そ、それはまた別の機会に。まさかとは思うんですけど、日和と同じベッドで寝ろって事でしょうか?」
「そうよ~。何か問題があるかしら?」
問題しかねえよ! なんで問題が無いみたいな感じになってるんだよ!
「一緒に寝た事はあるんでしょう? なら問題ないわよね。ね~日和?」
「問題ない。むしろヒデくんと一緒に寝たい」
「…………」
完全に逃げ場がない……確かに二人の言う通り、日和と一緒に寝たことは確かにある。
だけど、それは雷が怖かったりとか、黒鉄に襲われかけたショックで、一人でいるのが怖いといった、日和を一人にする訳にはいかない理由があった。
でもこれは違うよな! 流石に何の理由も無しに男女が同じベッドで寝るとかマズいよな! あれ、これって俺の考えがおかしいのか!?
「ま、真琴さん。普通に問題あると思いますよね?」
「特には。むしろ寝ない方がおかしいかと」
「…………」
真琴さんも日和側の人間でしたちくしょう! 誰でもいいから今だけここにきて助けてくれー!
「ヒデくん、私と一緒に寝るの……イヤ?」
「うっ……」
そんな悲しそうな目をしないでくれ……あとそこの母親とメイドのお二人、めちゃくちゃ冷たい目で見ないでくれ。
「わ、わかったよ」
「……えへへ」
俺の了承がよっぽど嬉しかったのか、少しモジモジしながら笑みを浮かべる日和。可愛さの破壊力が高すぎて、いまにも爆発四散しそうだ。
「ねえ真琴。私の娘、可愛すぎないかしら?」
「ええ。世界一愛くるしいです」
なんかだらしない顔をしている大人が二名ほどいるけど……触れないでおこう。
「英雄様、荷物はそこに置いてありますので。ではそろそろ私は失礼します。お食事の準備が出来たらお呼びします。では」
「私もおじゃまになりそうだから部屋に戻るわね~。じゃあごゆっくり~」
なんか少しわざとらしく部屋を出ていった二人を見送った俺は、嬉しそうにしている日和に向き直す。
「とりあえず、なにしようか?」
「うーん……ゆっくりお話したい」
「そうしようか」
「えへへ、ここ座って」
日和は俺の手を引っ張ってソファに座らせると、自分も俺の隣にちょこんと座る。近すぎて普通に肩が触れているけど……まあ日和が嬉しそうだからいいか。
それから晩飯の時間まで、俺は日和と他愛もない話をして過ごすのだった――
****
「こちらへどうぞ」
同日の夜、俺と日和は真琴さんに連れられて、何故か外に連れていかれた。
晩飯だからって言われたからついてきたんだけど、なんで外なんだろうか?
「敷地内なのに、街灯みたいなのがたくさんあって明るいな……」
そんな事を呟きながら歩いていると、大きな庭に連れてこられた。そこには、大きな鉄板を使って、肉や野菜を焼いている誠司さんと流華さんの姿があった。
「二人共遅いわよ~」
「やあ日和、英雄君」
「こんばんは、誠司さん、流華さん」
「お父さん、なにしてるの?」
「見ての通り、バーベキューだ。せっかく英雄君が来てくれたのだから、堅苦しい食事よりもこっちの方がいいと思ってね。もうすぐ焼けるからそこで待っていなさい」
めちゃくちゃ旨そうな肉や野菜を焼きながら答える誠司さんの周りには、同じような鉄板を囲うように、執事さんやメイドさんが集まっていた。
「なあ日和、ちょっと気になったんだけど、執事さんとメイドさんって何人くらいいるんだ?」
「人数に変化がなければ、三十人はいるはず」
想像以上に多いな。それだけの人数を雇えるんだから、やっぱり神宮寺家って凄いんだな。
「ここで私達が焼いててあげるから、二人はそこの椅子に座って食べててね~」
「そんな、僕が焼きます!」
「英雄君、君はいずれは家族になるとはいえ、今は客人なのだから、気にせずに食べなさい」
「うっ……」
そう言われると確かにそうなんだけど……日和の両親が焼いてくれてるのに、俺だけ呑気に座ってるのはあまりにも気が引ける……。
って、今なんかすごい事を言われた気がするけど……きっと気のせいだろう。
「それに、君まで焼く係になったら、誰が日和の話し相手になるのかね?」
「そ、それは……」
「そういうわけだから、英雄君は気にせずに食べていいからね~」
「……わかりました」
流石にこれ以上は二人に失礼になると判断した俺は、日和と一緒に近くの椅子に座る。椅子のそばにはテーブルもあり、その上には皿や焼き肉のタレ、箸などが用意されていた。
ちなみに日和は俺の対面に座らず、わざわざ隣の椅子に腰を下ろしている。
「は~い、さっそく焼けたわよ~」
流華さんは笑顔で皿を俺達の前に運んでくれた。そこには、沢山の牛肉や野菜、海鮮類が盛りつけられていてる。見てるだけでも腹がどんどん減っていきそうだ。
「ありがとうございます」
「ありがとうお母さん。見てヒデくん、凄くおいしそう」
「そうだな。早速食べようか」
「うん。運動した後だから、お腹ペコペコ」
日和といただきますをしてから、俺はまずは玉ねぎを口にする。俺も腹が減ってるから、思わず冷ましもせずに口に入れたせいで、危うく火傷する所だった。
「うっま! こんな美味い玉ねぎ食べた事無いぞ!」
「はふっ、はふっ……こりぇも……おいひぃ……」
俺の隣で牛肉を口にした日和は、必死に熱さと格闘しながらも、俺においしさを伝えようとしてくれている。
そんな急いで俺に感想を伝えなくても別にいいのになぁ。味の感想よりも、火傷をしてないか心配になってしまう。
「ヒデくん、このお肉柔らかくておいしいよ。はい、あーん」
「ひ、日和?」
あの、さりげなくあーんをしようとしてるけど、ここはいつもの狭い部屋の中じゃないんだぞ? ほら、周りの人達が温かい目で見てるし! 流華さんに至ってはヨダレを垂らしながらスマホで写真を撮りまくってるんだけど!
「……ヒデくん……食べないの……?」
「わ、わかったから。あーん……」
日和の悲しそうな目にあっさり負けた俺は、潔く口を大きく開くと、熱々の肉が口の中に入ってきた。
うわっなんだこれ! うますぎだろ! 俺が今まで食ってた肉なんかとは比べ物にならないぞ! 一気に舌の上で溶けた! 歯が全くいらない!
「おいしい?」
「ああ、めっちゃおいしい」
「よかった。じゃあこっちのエビも……あーん」
「あ、あーん……」
だから、こんなところであーんは恥ずかしいって……まあ日和が嬉しそうだし良いか。
「あぁ~……まさに青春……初々しいわ……これだけでもご飯五合は食べられそう……」
「さすがにそれは食べ過ぎだろう。ほら流華、焼けたぞ」
「ありがとう、誠司さん」
日和にあーんしてもらったエビに舌鼓を打ちつつ、両親の方に視線をやると、凄く自然な流れであーんをしていた。
大人になっても仲良しなんだな……とても良い事だ。
その後、日和と一緒に美味しいご飯を食べて満腹になった頃、誠司さんが歩み寄ってきた。
「二人共、満足したかい」
「はい。凄くおいしかったです」
「私、ちょっと食べ過ぎて苦しい」
「満足してくれたようで何よりだよ。ちょっと食後の運動として散歩に付き合ってくれないかい?」
散歩? 俺は別に構わないけど……ちらっと日和の方を見ると、俺の視線に気づいたのか、こっちを向きながら頷いてくれた。
「じゃあ行こうか。ついておいで」
誠司さんにつれられてのんびりと数分程散歩をすると、誠司さんは突然足を止めて、とある場所を指さす。そこは、さっきバーベキューをしたのと同じくらいの広さの広場だった。
「……あれ、広場の中央に何かあるな」
「なんだろう……?」
ちょっと遠くのせいではっきりとはわからないけど、木が積み重ねられてるように見えるな。その隣に、誰かが立っている。
「私だ。着火してくれ」
急にスマホで電話を始めた誠司さんは、それだけを言うとすぐに電話を切る。それと同時に、視線の先にある木が燃え始めた。
まさか火事かと思ってビックリしたけど、すぐにその判断は間違っていた事に気づく事になる。
「お父さん、あれって……」
「ああ、キャンプファイヤーだよ」
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。
少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。
ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします。




