第30話 全ては大切な彼女の為
「じゃあ行こうか」
「うん」
無事に入浴を済ませた俺は、荷物を全部持って小会議室にもう一度行き、日和と合流をしてから、日和達の部屋へと向かって歩き出す。
俺が女子達の泊まる階へ、出雲さんが男子の泊まる階に移動するんだが、猿石君が自分が女子のいる階に行く! ってさっきまで騒いでたのには困ったものだ。
最終的に、出雲さんがいつものように手刀で気絶させて部屋に引きずっていったから大事には至らなかったけど……猿石君を女子の泊まる階に連れていったら、大変なことになりそうだ。
「ヒデくん、手……繋いで」
「いいよ」
もう就寝時間を過ぎているからか、廊下には誰もおらず、しんと静まり返っている。それをチャンスだと思ったのか、日和が俺の手にそっと触れながら言う。
日和がそれで安心するなら、いくらでも手を繋ごう――そう思った俺は、日和の手を優しく握ってあげると、日和は嬉しそうに微笑んでいた。
「ヒデくんの手、やっぱり安心する」
「それはよかった」
「えへへ……あ、部屋ここ」
手を繋いでからそれほど時間が経たないうちに、日和と出雲さんの部屋に到着した。
繋いだ手を離したくないのか、日和は器用に片手で鍵を開けると、俺を中へと案内してくれた。
部屋の内装は、俺達の部屋と大差ないな。まあそれもそうか。
「荷物は適当に置いていいか?」
「うん、大丈夫」
一応日和に確認をしてから、奥のベッドの近くに荷物を置く。
手前のベッドの近くには日和の荷物が置いてあったから、こっちが出雲さんのベッドと読んで置いたんだけど……そっちじゃないって言われない辺り、合っていたようだ。
「……はぁ」
「どうかしたか? 疲れたか? それともどっか痛い所でもあるのか?」
「ううん……キャンプファイヤー……猿石くんと、咲ちゃんと……ヒデくんと一緒に楽しみたかったなって……」
「日和……」
日和は、残念そうに……そして少し悲しそうに顔を伏せながらいう。
あのゴタゴタのせいで、キャンプファイヤーに参加できなかったからな……そんなに楽しみにしていなかった俺でさえ、ちょっと残念って思うくらいだ。日和はもっと残念だろうし、悲しいだろう。
日和の悲しい顔は見たくない。どうにか元気づける方法はないだろうか……そうだ!
「日和、こっちおいで」
「……?」
ベッドに腰を下ろした俺の言う事に素直に従った日和は、隣にちょこんと座る。
「ヒデくん、どうしたの?」
「まあいいから」
「部屋まで暗くして……」
俺の腕にぴったりとくっつく日和に謎のドキドキを感じつつ、自分のスマホを操作して、有名動画サイトにアップされていた、とある動画を流し始める。
その動画とは、キャンプファイヤーをしている動画だ。
「ヒデくん、これ……」
「その、一緒に雰囲気だけでも味わえればいいかなって……」
やってから気づいたんだが、動画を見たせいで余計に生で見たくなったら逆効果じゃないか……!? まずい、もしかしてやらかしたんじゃないか!?
「ご、ごめん! 嫌ならすぐ消す――」
「嫌なわけない。凄く嬉しい」
スマホの明かりで照らされる日和の表情は、嬉しそうな微笑みだった。
よかった、日和が嫌な気持ちになったらどうしようかと思った……俺ってホントに馬鹿だな。日和の為なら、いつも以上にちゃんと考えてから行動をしないといけないのに……早く日和を喜ばせたい一心でやってしまった。
俺ってどうしてこうなんだろう。日和の事になると視野が狭くなるっていうか、頭が働かなくなるっていうか……ちょっと自己嫌悪になりそうだ。
「うわぁ……凄い。大きな焚火みたい」
「そんな感じだな。火を囲いながらフォークダンスを踊るところもあるらしいな」
「フォークダンス……パーティーとかでやるような?」
「ちょっと違う気がするな……」
パーティーとかでするダンスって、もっと煌びやかなイメージだけど、フォークダンスはもっと地味な気がする。まあ俺の勝手な偏見だけどな。
「日和、ゴールデンウィークも夏休みも、一緒にいような」
「ヒデくん? 急にどうしたの?」
「ほら、今回は残念な結果だったから……それを忘れてしまうくらい、一緒に楽しみたいなって思って」
「ヒデくん、ありがとう」
日和は嬉しそうに呟きながら、俺の肩に頭を乗せてきた。
「いつも私の事を考えてくれて、守ってくれて……それなのに、私は全然ヒデくんの力になれてない」
「そんなわけないだろ!」
日和の言葉に半ば反射的に大声を出してしまった。その声の大きさでびっくりしてしまったのか、日和は俺を見上げながら目を丸くしている。
「日和がいなかったら、俺は春休みに死んでいたし、仮に生きていても、お先真っ暗な人生を続けていただけだ! 日和がいたから、俺はこうやって笑って過ごしていられるんだ!」
「私……ヒデくんの助けになれてたって事?」
「助けどころか、救われたんだ!」
日和はきっとわかっていない。日和がいたから、俺の今がある事を。
仮に俺が自殺をしなかったとしても、日和がいなかったら、猿石君とも出雲さんとも山吹さんとも知り合えてない。
誰かと一緒に下校をしたり、昼飯を食べる事も無かっただろうし、林間学校も楽しく過ごせなかっただろう。もちろん黒鉄に勝つ事も絶対に出来ない。
それ以外にも、日和がいなかったら誰かにご飯を食べてもらって、美味しいって言ってもらった時の嬉しさも知れなかった。
「日和は俺の大切な人で……俺の光なんだ。だから……そんな悲しそうな顔をしないでくれ……」
「ヒデくん……」
俺の名を呼びながら、すっぽりと俺の胸の中に納まった日和を、俺は優しく抱きしめるのだった――
****
「ふぅ……」
日和とキャンプファイヤーの動画を見てから一時間ほど経った頃、俺はベッドに横になりながら、すぐ隣で寝息を立てている日和の頭を優しく撫でていた。
ベッドは二つあるのに何で同じベッドで寝ているのかだが――
『一人で寝ると、さっきの事を思い出して怖いから……一緒に寝てほしい』
と、日和にお願いされたからだ。俺としては当然断る理由もなく、こうやって日和を安心させるために隣で寝ているという訳だ。
それはいいんだけど、めちゃくちゃドキドキしている。一緒のベッドで寝るのは二回目だけど……前回も同じ感じだった。なんでこんなにドキドキしてるんだ……。
いや、別にこれが嫌なわけじゃないんだ。ただ、ソワソワするって言うか……落ち着かないって言うか……表現が難しい。
「んにゅ……すぅ……すぅ……」
「俺……もっと強くならないとな……」
安心しきった寝顔を浮かべる日和の頭を撫で続けながら、俺はボソッと呟く。
今回の件で分かったけど、俺は一人では何もできないくらい弱い。今のままじゃ日和を守るなんて夢のまた夢だろう。
また別の件で日和が危ない目に合うかもしれないし、もしかしたら黒鉄が報復に来る可能性だってある。その時に戦えるようにしておかないといけない。
「……そうだ。出雲さんが確か格闘技をしてるって言ってたな……」
出雲さんの実力はかなりのものだった。かなりの体格差がある黒鉄を相手に互角に戦えていたくらいだ。
俺もあれくらい強くなれれば、なにかあっても日和を守れるだろうし、自信にも繋がるかもしれない。
「もしかしたら、ジムとか道場で鍛えてるのかも……出雲さんに聞いてみるか」
きっと強くなるにはとても大変だろうし、ジムでも道場でもお金はかかってしまうだろう。そうなると、母さんに相談をしないといけないんだが……これ以上母さんに負担をかけたくないって気持ちもある。
またバイトするしかないか……新聞配達のバイト、今考えると辞めない方が良かったかもしれない。高校生になったら、色んなバイトの選択肢が増えると思って辞めちゃったんだよな。
しかも、高校生になったらカツアゲされる事も無くなったのに加え、たまに日和が食材を自分が買うって言って、ホントに買ってくれるおかげで、生活費に余裕が出来てバイトの必要が無くなったから、新しいバイト先を探すのすらしてなかった。
「朝にバイトして、朝飯と弁当を作って、身体も鍛えて……想像するだけでも目が回ってしまいそうだな」
それでも……もう二度と今回の様にならないためにも、俺は強くなって日和を守るんだ。
俺は変わるんだって決めたじゃないか。学校生活や交友関係、気持ちの持ちようの改善も大切だけど、日和の為にもっと強くならないといけない。いや、なってみせる。
そう心に誓いながら、ゆっくりと目を閉じて意識を手放した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。
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