第29話 一件落着
「ヒデくん! 大丈夫!?」
無事に黒鉄を倒せた俺の元に、日和が安否を気遣いながら駆け寄ってきた。
さっきケガもしていないし、変な事もされてないと言っていたけど、こうして普通に走れるところを見ると、ケガの方は本当に大丈夫そうだな……ホッとした。
「ああ、大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない! 顔、真っ赤に腫れてる!」
「そんなのどうでもいいよ。俺は日和が無事ならそれでいい」
「……ヒデくんのバカ……もっと自分を大切にして……」
「……ごめん」
目に涙を溜めながら、ゆっくりとした動きで俺に抱きついてきた日和を、優しく包み込むように抱きしめ返す。
……俺は日和に心配ばかりかけて、その度にこうやって悲しませてしまっている。自分が情けなさすぎて、思い切りぶん殴りたくなるな。
「……無事でホントによかった。ヒデくんが叩かれた時、凄く心配したんだよ?」
「俺だって、日和が黒鉄に連れていかれたって知った時は、めちゃくちゃ心配したぞ」
「ご、ごめんなさい……ヒデくんが凄く困ってるから来てくれって言われて……連絡が無いのは変だなって思ったんだけど、連絡が出来ないくらい急いでるのかと思って……」
そうだったのか。一体どうやって日和を簡単に連れていったのかと思っていたけど、俺をダシにして連れていったのか……汚い真似をしやがって。
それにしても……山吹さんが教えてくれなかったら、日和は危険だって事はわからなかったし、猿石君と出雲さんがいなかったら、恐らく日和を無傷で助けられなかっただろう。
一方の俺は、ここの場所を伝えて時間稼ぎして、それで最後の美味しい所を持っていっただけだ。ははっ……日和を助けられたから良かったけど……情けないにも程があるな。
「ニヤニヤ……」
「はっ……!?」
猿石君のにやけ顔が目に入った瞬間、俺は咄嗟に日和と距離を取った。
完全に二人がいるのを忘れて、日和の事だけに夢中になっていた……いくら日和が大切だからって、周りが見えてなさすぎるだろ俺! めっちゃ恥ずかしい!
「ごめんね日和ちゃん、もっとあたし達が早く来ていれば……」
「ううん、咲ちゃんが謝る必要は無い。助けに来てくれてありがとう。猿石君も、ホントにありがとう」
「うぅ……日和ちゃぁぁぁん!」
無事に助けられて安心したのか、出雲さんは日和を抱きしめながら頬ずりをする。
もし黒鉄に負けていたら、こんな微笑ましい光景が見れなくなっていたかもしれないと思うと……ホントに何とかなってよかった。
「俺からも礼を言わせてくれ。一歩間違えたらケガをしていたかもしれないのに……ありがとう」
「気にすんなって! ワイらは友達なんやろ?」
「え……? とも、だち……?」
「なんや、自分で言っとったのに、もう忘れたんか?」
い、言われてみれば確かに言った気がする……無我夢中だったから、あまり覚えてはいないけど。
でも……そっか、二人は俺を友達と思ってくれてるのか……ちゃんとした友達って、初めて出来たな……やべっ、泣いちゃいそうだ。
「もちろん日和ちゃんも友達だからね~!」
「う、嬉しいけど……咲ちゃん、ちょっと苦しい……」
「あわわ、ごめんごめん!」
力は緩めたみたいだけど、それでも日和を放そうとしない出雲さんの姿に苦笑いをしてから、俺は猿石君の方に顔を向ける。
「猿石君が通話を繋げておこうって言ってくれたおかげで、黒鉄に気づかれないようにこの場所を伝えられたし、最後も隙を突いて動きを止めてくれたおかげで勝てたよ。ホント助かった」
「あんなん偶然やって! そんな褒められるような事やない!」
猿石君は謙遜するように、ケラケラと笑いながら手を振っているが、俺にはそうは思えなかった。偶然で、こんなに上手くいくとは考えられなかったからだ。
「……まあ通話はホンマに思いつきや。なるべく相手に悟られないように、見つけた時に居場所を伝えるにはどうすれば良いかって考えた結果や。あと、咲が諦めたフリをしたのはわかってたわ」
「…………」
「そんな咲があんな素振りをするって事は、注意を自分に向けさせたいっちゅー事やろ? それは何故か……答えは簡単。あの状況で唯一死角にいたワイに何かさせたいからや」
いつもふざけている猿石君とはまるで別人のような真剣な顔で説明するせいで、俺は思わずあんぐりと口を開けてしまった。
さ、猿石君って実は切れ者だったりするのか……?
「ん……? 誰や!!」
「きゅ、急にどうした?」
「いや、そこの木の陰に誰かいたような気が……」
「あ、いた! おーいみんなー!」
猿石君の新しい一面に驚いていると、山吹さんが先生を何人か連れてやって来た。彼女とも通話を繋げておいたから、きっと戦力になれない代わりに先生を呼んできてくれたのだろう。
とにかく――これで一件落着。
そう判断した俺は、満天の星空を見上げながら大きく息を吐くのだった。
****
「いてて……」
「男の子なんだから我慢しなさい」
宿泊施設に戻ってきた俺は、養護教諭の先生が泊まる予定の小さな部屋で、殴られた顔の手当てをしてもらっていた。
結構乱暴にやるなこの人……もうちょっと優しくやって欲しいんだけどな。
「はい、終わったよ。ちょっと腫れてるけど、そのうち治るから安心しなさい」
「わかりました。ありがとうございました」
俺は先生に頭を下げてから、部屋を後にした。えっとみんなは……確か二階にある小会議室にいるって言ってたな。とりあえず向かってみるか。
「あ……ヒデくん。ほっぺ、大丈夫?」
「大丈夫だよ」
小会議室に行くと、班員三人と山吹さん、担任含めた数名の先生の視線が、俺へと集中した。
前にも似たような事があったなぁ……確か入学式のあった日に、教室に入ったらクラスメイトの視線が集中したんだよな。
あの時は、漠然と楽しい学校生活と、幸せな日常を目指して頑張ろうって思ってたけど、まさかこうして友達が出来て、日和を助けるのに協力してくれるなんて、夢にも思わなかったな。
「山吹さん、足が痛いのに先生を呼んできてくれて、ありがとうな」
「気にしないで! 今は全然痛くないから! ウチの足の手当てをしてもらったし、そのお礼!」
可愛らしくウインクをしながら、ピースをする山吹さん。
平気そうにしているけど、さっきからなるべく痛まないように、怪我をしてない足に重心を乗せてるのが見てわかるし、歩いている時も少し引きずっていた。
まったく……感謝してもしきれないな。
「事情は出雲さんから聞きましたよ~。大変でしたね~」
「ははっ……まあそうですね」
「とりあえずこれからの事ですが~、神宮寺さんは念の為に、教師の誰かと一緒の部屋で寝てもらおうって話しているんですけど~……」
担任の先生は、少し困った様に日和の方をチラッと見る。そこでは、日和がそれを拒むように、勢いよく首をブンブンと横に振っていた。
「私、ヒデくんと一緒が良い……」
「だそうです~。なので今回は特例として、猿石君と出雲さんが同じ部屋で寝るから、桐生君は神宮寺さんと同じ部屋にする? ってところまで話が進んでまして~」
なるほどな。俺としては日和が一緒に居た方が安心できるし、その方が良いんだけど……。
そう思っていると、体育を担当している男の先生が口を開いた。
「我々としては、神宮寺さんがショックを受けている事を考慮して、なるべく落ち着ける環境にしたいと思っている。黒鉄に関しては、我々がしっかり見張っているから安心していい」
ガタイの良い身体のおかげか、やたらと説得力があるな……それなら、みんなの厚意に甘えるとしよう。
「俺は良いんだけど……猿石君と出雲さんはいいのか?」
「あたしはいいよ~」
「ワイもかまへんで!」
一切嫌な顔をしない二人に、俺はありがとうと言いながら頭を下げてから、先生達の方に向き直した。
「わかりました。俺が責任をもって日和と一緒に居ます」
「それじゃよろしくね~。あ、一緒の部屋だからって、変な事しちゃメッ! ですよ~」
「し、しませんよ!」
きゅ、急に何をいうんだこの先生は! って猿石君も出雲さんもニヤニヤするな! こうなったら山吹さんに助けを……。
「一緒の部屋……変な事……!? そんな漫画みたいな展開が……!?」
あ、ダメそうだ……なんか顔を真っ赤にしてヨダレ垂らしてるし……日和に助けを求めようにも、言葉の意味をわかっていないのか、キョトンとして小首を傾げてるし……。
まあいいか。変に反応する方が余計にこじれそうだ。
「決まりですね~。では部屋の移動は就寝時間を過ぎてからにしましょうか~。その方が余計な混乱を招かないでしょうし~」
「わかりました。とりあえずそれまでは元の部屋で待機でいいですか?」
「いや、まだ入浴を済ませてないですよね~? 本来の入浴時間は過ぎてしまっているから大浴場は使えないので~、教員が使う小浴場を使って汗を流してきたらどうでしょうか~?」
それは助かるな。今日は運動しっぱなしなせいで、身体が汗でべとべとで気持ちが悪いからな。
先生の提案に頷いた俺達は、着替えやタオルを取りに、一旦部屋に戻るのだった――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は火曜日の朝に投稿予定です。
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