第28話 不良との最終対決
「おいおい、随分と大人しくなったじゃねえか! 物分かりのいいバカは嫌いじゃないぜぇ?」
「あっそう! ならあんたも、あたし達みたいに物分かりの良い男になってみれば? あ、大バカには無理か! あははは!」
先程の言葉通り、黒鉄の注意を引きつけるためか、出雲さんは大げさに腹を抱えて笑ってみせる事で、黒鉄の事を挑発する。
一体出雲さんは何を企んでいるんだろうか? そんな事を言ったら……見ろ、黒鉄の顔が怒りで真っ赤になってるじゃないか。
それどころか、日和を拘束する腕に力が入ってるのか、日和の顔が苦しそうに歪んでいる。
いくら考えがあると言っても、日和が苦しむ可能性があるものに力は貸せないぞ!
「んだとこのアマ……!」
「だってそうでしょ? こんな所に日和ちゃんを連れ出して言い寄ったところで、拒絶されるのなんか分かりきってるし、それが失敗して襲っても、どうせすぐにバレて、一発退学ルートまっしぐら! こんなの小学生でもバカだって思うよ!」
出雲さんは、やれやれ……と、まるで外人が呆れた時にするような、両手を大きく広げて肩をすくめてみせる。
それについては俺も同意見だ。日和は俺の事をずっと婚約者と言って傍にいてくれてるから、誰かと付き合うとは考えにくいし、万が一襲ったところで、誰かに見られたり日和が先生に言えばそれで終わりな気がする。
いくらこいつでも、そこまでバカだとは思えないんだけど……一体どういう事なんだ?
「そんなわけねえだろ! だって美織がっ!?」
黒鉄は言葉の途中で、急に勢いよく前のめりによろけた。それと同時に、日和の首に回されていた右腕の拘束が緩んだ。
「今だ日和!! こっちに全力で走るんだ!!」
「う、うん!」
この隙を絶対に逃してはいけない。
咄嗟にそう判断した俺は、日和に大声で伝えながら、日和を迎える様に走りだした。
「ヒデくんっ!!」
「日和!!」
無事に俺の元にまで来た日和を、強く抱きしめる。日和も俺を離さないと言わんばかりに、背に回した手に力を入れていた。
「日和、ケガしてないか? なにかされてないか?」
「うんっ……大丈夫。痛い所は無いし、なにもされてない。ヒデくんが助けに来てくれるって……信じてた」
口では俺を信じてたと言っているが、怖かったに違いない。もっと早くに来ていれば、怖い思いをせずに済んだかもしれないのに……ごめんな、日和。
「いってぇ……誰だ!!」
「ここがパーティー会場って聞いたんやけど……ワイと一曲踊らへんか?」
怒号を上げながら振り向く黒鉄の視線の先からは、猿石君の声が聞こえてきた。
薄暗くて俺の所からではどれくらい離れているかはわからないけど、声の聞こえ方からして、直ぐ近くに立っている訳じゃなさそうだ。
……離れた位置から、一体どうやって黒鉄に攻撃をしたんだろうか?
「くそが、後頭部がいてえ……この野郎! 何しやがった!」
「なーに、そこらへんに転がっとる手ごろな石ころを投げただけやで?」
手ごろな石ころ……? あ、薄暗くて見えにくいけど、確かに黒鉄の足元に直径一センチくらいの石ころが転がっている。
もしかして、これを投げて黒鉄の頭に当てたって事か? あんな小さいうえ、薄暗い中でそんな事が可能なのか?
「くそがっ! 卑怯な真似しやがって!」
「はっ、まさに三下らしいセリフで、清々しさすら感じるわ。あーそれと……ワイの幼馴染は、泣く子も黙るゴリラ女でな。気をつけた方がええで?」
「はっ?」
「どりゃあああああ!!」
猿石君に注意が完全に向いた隙を突くように、出雲さんは雄叫びを上げながら接近すると、鋭いハイキックを黒鉄の腕にめり込ませた。
「がっ……!?」
「見た目通り、結構頑丈だね! これならもう何発か入れても問題なさそう! あたしの友達を悲しませた罪は重いんだから!」
そう言いながら、出雲さんはもう一度ハイキックをするが、さすがに不意打ち気味だったさっきとは違い、後ろに飛んでかわされてしまった。
ガキの頃から、黒鉄は喧嘩が強い。俺がいじめられて間もないぐらいの時、果敢に黒鉄に立ち向かっていったが、全て返り討ちにあった事もあるくらいだ。
一方、出雲さんのさっきの蹴りは、普通の女の子が出来るようなものでは無い。猿石君を手刀で気絶させたり、凄い馬鹿力を見せた事もあったし、もしかしたら何か格闘技をやっているのかもしれない。
これなら、黒鉄に正面から勝てるかもしれない……!
「へえ、あたしのキックをかわすなんて……思ったよりやるじゃん!」
「っと、ワイも忘れてもらっては困るで!」
薄暗くてよくわからないが、なにやら野球の投球モーションのような動くをする猿石君。それから間もなく、「いって!」という黒鉄の声が聞こえてきた。
「隙ありっ!」
「がっ!? 調子に……乗るな!」
「きゃあ!」
今度は黒鉄の足に蹴りをお見舞いするが、あまり効いていないのか、黒鉄の拳が出雲さんを襲う。
なんとか腕をクロスさせて盾にする事で防ぎはしていたが、衝撃は吸収しきれなかったようで、数歩程後退してしまった。
「ああうっぜえ! うっっっぜえ!! どいつもこいつも俺にたてつきやがって……決めた。ヒーローとそこの男、そして蹴りの女をボコボコにした後、女子達をメチャクチャにしてやる!」
「この……クズ野郎が! いい加減にしやがれ!!」
「雑魚が、一回まぐれで勝ったからって調子に乗んな!」
黒鉄の言葉で堪忍袋の緒が切れた俺は、拳を振り上げながら一直線に向かっていったが、黒鉄の反撃の裏拳が顔面にめり込み、その衝撃で吹き飛ばされて地面に転がされてしまった。
いってぇ……殴られる事は数多くあったとはいえ、何度経験してもこの痛みには慣れないそうもない。
「ふん、雑魚が調子に乗るからこうなるんだ。男は石を投げるしか出来ない能無しだし、後はそこの蹴り女をどうにかすれば……くくっ」
「…………はぁ。ここまでかぁ」
え……? 出雲さん、急に何を言い出すんだ……?
「頑丈過ぎてあたしの蹴りは効かないし、桐生君も倒されて間猿も役に立たない。お手上げね」
「さ、咲ちゃん……!?」
「なら……降伏の意として、裸で俺の靴を舐めろ。そうしたら許してやるよ! ギャハハハ!」
まるで悪魔の様に嫌らしい高笑いをする黒鉄に、俺は怒りが止めどなく溢れていくのを感じた。
それに、諦めるっていう事は……日和をこいつに渡すって事だ。
冗談じゃねえ! ここで死んででも、こいつなんかに日和は渡さねえ!
俺はなんとか痛みに耐えながら立ち上がろうとすると、なんと出雲さんは本当に裸になるつもりなのか、ジャージの上を脱いだ。
「くくっ……ヒーローの女よりは貧相だが、悪くない身体じゃ……!?」
「今や咲! やれ!」
いつの間にかこっそりと黒鉄の後ろに接近していた猿石君は、出雲さんに声をかけながら黒鉄を羽交い締めにして動きを封じた。
「ナイス間猿! くらえっ!」
「がっ……!!」
猿石君の働きで生まれた隙を活かすように、出雲さんは拳を黒鉄の腹にめり込ませる。その一撃で、黒鉄は苦悶の表情を浮かべていた。
「へっ! あたしの攻撃がキックだけだと思うのが大間違いなんだよ!」
これは決まったかと思ったが、黒鉄は暴れて猿石君を振りほどくと、出雲さんに殴りかかる。
一見すると、カウンターに失敗したように見えるが、拘束されていて一切ガードが出来なかった状態で、出雲さんの拳がクリーンヒットしたからか、黒鉄の顔からは余裕が完全に消えている。
そして、今は出雲さんを倒そうとしていて、俺の事は一切見ていない。
これは――チャンスだ。
「俺を騙しやがって……! 絶対に許さねえ!」
「うおおおおお!!」
俺は自分を鼓舞するように大声を上げながら、もう一度拳を振り上げながら突進していく。
こいつだけは……こいつだけは絶対に許さねえ!
「俺の大切な日和に……友達に……酷い事をすんじゃねえええええ!!!!」
「ごふっ……!?」
心からの叫びを辺りに響かせながら放ったパンチは、吸い込まれるように黒鉄の顔面を捉えた。
今の一撃が決定打になったのか、地面に転がった黒鉄は、完全に意識を失っていた――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜のお昼に投稿予定です。
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