第25話 ワイは友達は売らん
レクリエーションとして、体育館でドッジボールと大縄跳びを行った後、アタシは体育館の裏へとやって来ていた。
目的は……ヒーローをおもちゃにするために、最近ヒーローとよく一緒にいる猿を手駒にするためだ。
なぜそう思ったのかというと、登山の時もレクリエーションの時も、ヒーローと仲良くしていた姿を見て、あの猿をおもちゃにしておけば、ヒーローに近づくための架け橋になるかと思ったから。
まあ、あんな馬鹿そうな猿なんて、可愛いアタシが軽く誘惑すれば簡単に落ちるでしょ。楽勝過ぎて欠伸が出るくらいね。
「姫宮さん、こんな所に連れてきて何の用や? ま、まさか……なにかいけない事を……じゅるり」
丁度トイレに寄るからと言って、ヒーロー達と別行動をしていた所を声をかけて連れてきたのは良いけど……ホントにきもい! どんな想像をしているかは知らないけど、そのだらしない顔やめてよね!
「えっと、猿石君にちょっとお話したいなぁって」
「ワイとか? 姫宮さんみたいな可愛い子と話せるなんてラッキーや! あ、悪いけどスリーサイズは秘密やで!」
誰もそんなの知りたくも無いわよ! こいつの頭おかしいんじゃないの!?
いや、落ち着いてアタシ。ここで怒ったらせっかくの計画が水の泡になっちゃう。
「そ、それはまた別の機会でお願いしたいかなぁ……えっと、さっきのドッジボール、凄くかっこよくて……見惚れちゃったんだ」
「おふっ……そ、それはおおきに」
わざと前かがみになって胸を強調するようなポーズで、そして甘えたように声を出すことで……ほら、簡単に鼻の下を伸ばしちゃって……想像以上にきもい。ヒーローはよくこんな男と一緒に居られるな……アタシなら耐えられない。
「だから……その、猿石君に興味があるっていうかぁ……仲良くしたい、みたいな?」
「おほー!? ぜひ仲良うしよな!」
「えへへ、嬉しいなぁ!」
アタシは猿にさりげなく近づき、腕に優しく触る。さりげないボディタッチだけど、アタシがやれば効果は抜群。誰でもデレデレしちゃうのよ。
元々楽勝だとは思っていたけど、ここまでとはね……手間が省けて助かるけど。
「それじゃ少し離れた所でゆっくり話そな! ついでに親交も深めて……ぐへへ」
「も~しょうがないなぁ。まずはお話から……ね?」
アタシは必死に笑顔を作りながら、腕から肩の方へとボディタッチを伸ばしていく。
き、きもい……何が親交よ! 完全にアタシの身体目当てとしか思えないわ! でも今は我慢よ……全てはヒーローをおもちゃにするため……そう思った矢先、アタシの手は勢いよく振り払われた。
「……なんて言うと思ったか?」
「ふぇ?」
「ワレ、何が目的や?」
さっきまでの腑抜けた顔から一転、猿は鋭い目つきでアタシの事を睨みつけてきた。それは、まるで獲物をこの場で殺そうとする狩人のようだった。
急になんでこんな態度になったの……!? 思わずマヌケな声が出ちゃったじゃない!
「ど、どうしたの急に……」
「誤魔化しても無駄や。ワイは近くにおる女子が何してるかはしっかり観察しとる。いつ何時、女子と仲良うなれるチャンスがやってくるかわからへんからな」
変わらず鋭い目つきだけど、言っている事は最低だ。最低のはずなのに……アタシの心はさっきまでの嫌悪感ではなく、この猿に対して警戒心と僅かな恐怖心を覚えていた。
「そういうわけやから、ワレが桐生君になにかちょっかいを出しとんのは全部知っとる。神宮寺さんを無理やり昼飯に誘った連中も、ワレが差し向けたっちゅーのもわかっとる」
「そ、そんな事する訳……」
「別にワレの答えは求めてへん。どうせホンマの事を言うつもりもあらへんやろうしな。ワイを呼び出したのも、誘惑して手駒にして、そこから桐生君に近づこうって魂胆やろ?」
ぜ、全部バレてる……この猿、アタシの想像以上に頭が良い……と、とにかくうまく誤魔化して、その考えは間違ってるって思わせないと……今こそアタシの可愛さを最大限に発揮する時!
「ぐすっ……そんな酷い事する訳ない……猿石君、酷いよぉ……」
アタシはポロポロと大粒の涙を流し、体を小刻みに震えさせながら俯いて見せる。
これぞ最強の戦術……泣き落とし作戦! 可愛い女の子が悲しんでいたら、男として放っておけないだろうし、罪悪感に苛まれる。実際にこれで何度も男を落としてきた。
さあ、早くさっきの言葉を撤回してアタシに謝罪をしなさい! そして自分の考えは間違ってたって言いなさい!
「……はー。ホンマにワレはアホやな。そんなウソ泣きで騙されると思うてるんか?」
まるで見下すかのような冷たい目と言葉を投げつけてくる猿。
ウソでしょ、これも通じないの!? 相手はあの女好きなエロ猿よ!? 今までで一番楽勝な相手だと思ってたのに……!
「ワレが何を目的に桐生君に近づこうとしとるかは知らんし興味もあらへん。けどな……ワイは友達は売らん。諦めな」
そう言いながら、猿はアタシに背を向けてその場を去っていった——と思ったら、急に立ち止まると、鬼のような形相をアタシに向けた。
「あーそれと……もし桐生君や神宮寺さん、そして咲になにかしてみぃ。ただじゃおかんからな! そのくだらない事を考えているアホな頭に叩き込んでおくんやな!」
猿は吐き捨てるように言うと、今度こそその場を去っていった。
残されたアタシは、急に足の力が抜けてしまい、その場にペタンと座り込んでしまった。
なんなの……なんなのよ! 楽勝だと思ってたのに……なんでアタシの思い通りにいかないのよ! ムカつく! ムカつく!!
「ああ、もう!!」
行き場のないストレスを発散するように、アタシは大声を出しながら両腕を上下にブンブンと振り続けるのだった――
****
「スマホの充電器はっと……」
先に宿泊する部屋に来ていた俺は、ボストンバッグをガサゴソと漁りながら独り言を呟いていた。
最近スマホの充電がすぐに減っちゃうんだよなぁ……結構使ってるし、そろそろ新しいの買わないとダメかな。
「でも他に悪い所はどこもないんだよな……ん?」
独り言を言っていると、部屋のドアが開いた音がした。それから間もなく、猿石君が勢いよく入ってきた。その手には、事前に配られた部屋割り表が握られている。
「いやーワイの荷物を運んでくれておおきに!」
「気にすんなって。ていうか、随分とトイレ長かったな」
「小をしてたら大の気配も感じてな! これが中々厄介極まりない相手で……あ、ワイの大激闘の話をするか?」
「……別に猿石君のトイレ事情は知りたくないから」
「それは残念やなぁ」
ったく、何が悲しくて人のトイレの話を聞かないといけないんだ。勘弁してくれ。
「それにしても、こじんまりしとるけどええ部屋やな! ベッドもフカフカやし、テレビもあるし! まるでホテルやな!」
猿石君は子供みたいにはしゃぎながら、ベッドの上で飛び跳ねていた。
気持ちはわからなくはないけど、そんな跳ねたらベッドが壊れちゃうだろ。それにホコリが舞ってるから。
「…………」
「なんだよ、急にそんな真面目な顔で見つめて……どうしたんだ?」
「いや、何でもあらへん。あー腹減ったなー! 飯はなんやろなー?」
「……とりあえず飯まで少し時間があるし、のんびりしよう」
「せやな! 運動続きで疲れたわー」
先に寝転がった猿石君に続くように、俺もベッドに横になる。
……さっきの真面目な顔は何だったんだろう? 気になるけど答えてくれなさそうだし……。
モヤモヤしつつも、俺は飯の時間までゴロゴロして過ごした。
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼頃に投稿予定です。
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